秋田大学男女共同参画講義を見学してきました
2013年5月17日

=秋田大学医学部「男女共同参画講義」を見学してきました=

2013年5月15日、秋田大学医学部の「男女共同参画講義」を見学してきました。
この講義は「地域医療・コミュニケーションとチーム医療」という1週間にわたる授業科目の一環。
まる1日をかけて、充実した講義とグループワークが行われました。
子育てを経験し第一線で活躍する医師の皆さんが、熱いメッセージを語ったり、
医学生自身がキャリアや人生を真剣に考えたり―。盛りだくさんの内容でした。

icon_surprised.gif女性医師支援とその先にあるもの
 自らも父親として育児を経験した阿部寛教授(形態解析学・器官構造学講座)が、
医師を取り巻く現状や、仕事と生活を両立しながら働き続けることの意義などについて講義されました。

 医師不足の中で、女性医師の割合は年々増加している。これは若い世代に顕著であり、超高齢化社会の観点からも、一人でも多くの女性医師に活躍してほしい。日本では、女性の就業率が結婚や出産で落ち込む「M字カーブ」が諸外国に比べて大きいが、それだけ就業者アップの潜在的余地があると言える。
 妊娠・出産を迎える弱い立場の人を支援することで、働く人全体の労働環境改善につながる。両立支援は女性だけの問題ととらえがちだが、男性にとっても、自分自身の病気や家族の介護に直面することもあるわけで、例外ではないことを理解してほしい。
 秋田大学医学部でも、女性医師の労働環境改善策として、短時間正職員制度や病児・病後児保育所を設けている。
 「3歳児神話」が多くのお母さんを苦しめてきた。母子マンツーマンの育児が絶対ではない。1人でやると思い詰めるより、信頼できる人と一緒にやるのがいい。保育園は楽しいところ。保育士は子育ての専門家であり、家庭にいるだけではできないことを経験させてもらえる。
 ある調査では、結婚や出産が職業満足度との間に正の相関があると結論付けている。医療現場以外の経験で、人間の幅が広がり、患者や家族とのコミュニケーションに貢献しているということだ。
 優秀で、マネジメント能力もあるはずの皆さんが、家庭と仕事の両立に挑戦しないで誰が挑戦するのか? 補助的立場に終始せず、プロの医師として活躍してほしい。せっかく育てた能力を活用しないでいては、皆さんの人生がもったいない。
 最近は、男性医師の意識も変わってきている。柔軟な勤務形態(短時間勤務など)の導入や、男性の育児休業の取得についても、理解が進んでいる。昔よりも育児・介護との両立がしやすくなってきている。自分の意志、パートナーや上司・同僚らとの理解を深めながら、勤務を続けていってほしい。

icon_exclaim.gifグループ討論
 仕事と育児を両立する医師夫婦が、こんな問題に直面したらどうする!
グループに分かれた学生たちは、提示された問題について、課題点や解決策を考えます。
討論した結果を各グループが発表。それに対して先輩の先生方からコメントやアドバイスがありました。

icon_question.gif<問題の一例>
 夫と3歳の子どもがいる女性医師。実家が離れているので夫と協力しながら両立を目指している。外科系のある診療科に進み、後期研修も順調で専門医を取得。専門性を深めるため、ある手術の技術を身につけ大学で活躍したいと思っていた。そのことを上司に相談したら、海外のスペシャリストを紹介してくれて、半年くらい勉強していってもいいと言ってもらえた。しかし子どもはまだ3歳。国外に長期間研修に行くことは想定していなかったのだが、若いうちに身につけたいとも思う。さて、どうする?

<学生たちが考えた対策の例>
▽ 実家の両親に協力を要請する
 子どもは親に預け、自らは海外へ、夫は仕事を続ける
▽夫に任せて妻だけ留学する
 託児所や保育所を利用して父親が面倒を見る(ひとり親のためのサポートがあれば…)
▽ 家族全員で海外に赴任する
 夫も同施設に留学するか、休職する
 両親だけでなくベビーシッターや保育所を利用し面倒を見る
icon_idea.gif<海外渡航を経験した女性医師の先輩方のコメント>
○ 家族みんなで行った。夫も近くにポジションを得て、2年間海外で過ごした。
○ 夫の留学について行って1年間主婦生活。英語の勉強ができた。
○ 夫と2人で留学。地元のコミュニティーカレッジに通う日本人ベビーシッターに子どもの面倒を見てもらった。準備を周到にして、モチベーションがあれば不可能なことではない。母子2人で行くのはレアケース。
○ 留学は非常に楽しかった。いろんな経験ができ、精神的にもタフになって自信もついた。事情が許すならチャレンジしてほしい。

icon_surprised.gifこの講座にかける思い
今回の「男女共同参画講義」をコーディネートした、
蓮沼直子先生(総合地域医療推進学講座助教・皮膚科医)からのメッセージです。

 小さい子どもを持つ女性医師にとって働きやすい職場は、すべての医師にとって働きやすい職場。子どもだけでなく、自分自身や親の病気、さらには介護に直面する場合もある。働きやすいベースがあれば、仕事も続けやすくなる。きちんと休み、生活を大事にする職場を作っていくためには、どのようにしたらよいか考えてほしい。
 たくさんのロールモデルを見て、違うバックグラウンドを持つ人の話を聞いて、自分はこんな風になりたいというモデルを見つけてほしい。果たして女性に向いている科ってあるのだろうか? それよりも、好きなことや楽しいことに向かって一生懸命やったらいいと思う。それが得意なことであればなおハッピー。何が得意か見つけるには、まず自分をよく知ること。なかなか長所が挙がらないことが多いが、知っておくことが大事。短所も裏を返せば長所になる。強みや得意なことを生かしていこう。
 働きながら仕事していて、子どもがかわいそうとか寂しいのでは、と心配するかもしれない。ほとんどの場合、親が先に死ぬ。自分がいなくなった時、子どもが自分の頭で考え行動して、自分の人生を切り開ける人になってほしいと思っている。そのために四六時中お世話した方がいいのか、そうでない方がいいのか。いろんな考え方がある。多様性の時代にあって、正解は1つではない。一人一人の世界を認め合える社会にしていきたい。今回の講義をきっかけに、自分がどんな医師になりたいか、どういう人生を送りたいか考えてほしい。

icon_eek.gifシュミレーション教育センターの見学もさせていただきました。

「地域医療・コミュニケーションとチーム医療」の授業を担当されている、
長谷川仁志教授(医学教育学講座)に、附属病院の「シュミレーション教育センター」をご案内いただきました。
臨床専門手技ラボ、緊急処置ラボ、産婦人科手技ラボなど最先端の研修設備を見学。
医療従事者がさまざまな事態に対応できるよう、こうした施設でトレーニングを
事前に積んでおくことは、大変メリットのあることだと思います。
秋田大学では、コミュニケーション能力に優れた医療人育成も主眼に置いており、
1年次から面接実習などでスキルアップを図っているそうです。
性別やバックグラウンドに関わらず、さまざまな人材が地域医療に貢献できるよう、
ハード・ソフト両面での環境整備に取り組んでおられる様子でした。
医療教育に関わる先生方の、学生に対する温かいまなざしと、改革に向ける並々ならぬ熱意を感じました。