【日 時】平成26年3月6日(木) 13:00~17:30
【場 所】東京都千代田区 大手町ファーストスクエアカンファレンス
【主催/共催】日経BPマーケティング/日経BPヒット総合研究所
【プログラム】
◆基調講演
「グローバル経営とダイバーシティ推進
それは大きなショックから始まった~日本IBMの女性活躍推進、15年の歩み~」
講師:日本アイ・ビー・エム株式会社
取締役副社長 グローバル・テクノロジー・サービス事業担当
下野 雅承 氏
◆主催者講演
「間違いだらけの女性活躍推進」
講師:日経BPヒット総合研究所所長・日経ウーマン前編集長
麓 幸子 氏
◆パネルディスカッション
女性管理職・リーダーをつくるための人事施策とは?
<パネリスト>
日本アイ・ビー・エム株式会社
人事 ダイバーシティ&人事広報担当部長
梅田 恵 氏
日産自動車株式会社
ダイバーシティディベロップメントオフィス 室長
桐竹 里佳 氏
株式会社日立ソリューションズ
ダイバーシティ推進センター長
小嶋 美代子 氏
経済産業省 経済産業政務局 経済社会政策室長
坂本 里和 氏
<モデレーター>
日経BPヒット総合研究所所長・日経ウーマン前編集長
麓 幸子 氏
近年「ダイバーシティ」の推進に積極的な企業が増えてきています。加速化するビジネスのグローバル化にともない、多様化する顧客ニーズや人事施策に日本のこれまでの制度や考え方が、対応できなくなってきているからです。経営戦略のひとつとして女性の活躍推進に取り組んでいる外資系企業と国内の先進企業の取り組みをじっくり聴いてきました。
◆基調講演
日本IBMの下野取締役副社長がお話しされました。「市場の変化に合わせて分野別に業種を変えたり、商品販売の国別の対応ができずにオペレーションチェンジし、縦軸から横軸へ(インターナショナル→マルチ→グローバル)ビジネスラインが移行した。新規参入企業の競合の波に押され、大きなショックから立ち上がるために、グローバル人材を活かすことによって起こるイノベーションで会社の存続をかけるしか他ならなかった。そのため、人材の多様性は単に人事施策に留まらず、IBMの重要な経営戦略のひとつとして、タイバーシティ推進に取り組むきっかけになった。」そうです。
日本IBMではダイバーシティカウンシル(委員会)を設置し、トップマネジメント支援に基づき、当事者自らが課題の把握、分析、施策の提言を行うのが特徴とのことです。
・Japan Women’s Council(JWC)・・・女性社員が自らの課題を分析し、解決策の提言を行う経営諮問委員会。1998年1月女性役員と全社横断的に集められた9名の女性メンバーでスタート。第6期18名は営業職女性の課題解決に奮闘。『辞めない・泣かない・覚悟を決める』をモットーに、JWCから生まれた施策は、在宅勤務(e-work)1999年、短時間勤務2004年、J-Win(女性管理職ネットワーク)2005年、フレックス短時間勤務2010年など。
・日本IBMの6つのダイバーシティー・カウンシル(委員会)
1:Women | (1998) |
女性のキャリア課題の検討とパイプライン強化 | |
2:People with Disabilities | (1999) |
障害を持つ社員の能力の最大化と環境整備 | |
3:LGBT | (2004) |
レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダーの社員が気兼ねなく安心して働ける環境整備 | |
4:Multi Culture | (2008) |
日本で採用された外国籍社員のさらなる活躍支援 | |
5:Work / Life | (2008) |
仕事と個人生活それぞれの充実を図る施策の検討 | |
6:Cross Generation | (2010) |
年代別の課題とニーズの把握、活躍支援 |
<組織風土づくりの取り組み>
(1)企業としてトップの方針を明確にする
(2)促進のためのポジティブアクション(数値目標、カウンシルによるプロモーション)
(3)柔軟な労働環境の提供(働く時間の柔軟性→フレッシュアップ休暇、フレックス短時間勤務など 働く場所の柔軟性→モバイルワーク、在宅勤務など)
(4)組織としての透明性・明解性(ポリシーレターおよびビジネスコンダクトガイドライン、オープンドア・スピークアッププログラムなど)
(5)結果に対する公平な評価 など
<数値目標とアクションプランの見える化>
数値目標は、【頑張れば実現可能】な数値を設定
■女性社員比率の増大
・退職率:男性と同等にする(マイナスを減らす)
・採用 :女性の比率を上げる(プラスを増やす)
■管理職比率の増大
・女性の中の管理職比率を男性の管理職比率と同等レベルにする
「身近(各部門)に女性の先輩(キャリア目標)がいる」くらいに アクションプランは、進捗を社内報で公表し、【改革】を”見える化”
■女性社員比率の増大
・すべての採用面接に女性の面接官を配置
・女性社員の意識改革と積極的な情報発信(フォーラム開催、事例紹介など)
・女性の真の退職理由の把握と定着率向上の施策のパイロット実施
■管理職比率の増大
・男性管理職への支援(メンタリング・ガイド策定、事例紹介)
・女性の育成機会の増大(メンタリング実施、全社プロジェクトなどへの登用)
「男性の育児休業が推進できないとよく聞くが、男性も強要すれば数日は取得する。しかし、女性の方が収入が増えれば男性が休む、男女でポジションが同等ならば、育休は女性が取得するという流れが変わる。」とお話しされた点が印象的でした。
◆主催者講演
日経BPヒット総合研究所所長・日経ウーマン前編集長の麓所長が、取材で得た知見、ご自分の経験、学術的に証明された理論の3つをもとにお話しされました。「よく聞かれる人事セクションのつぶやき『採用時は女性が優秀、30代になると伸び悩む、女性は管理職になりたがらない、育休復帰の女性のパフォーマンスが悪く女性同士のコンフリクトが生じている』―。これらは事実なのだろうか?出産・育児を理由に、最初の子供が生まれる前に6割が退職するが、女性は角の立たないウソをついている。本当の離職理由は、日本企業のキャリア形成の特色にあり、女性の進出を遅らせてしまっている。先細り(大学入学時>入社時>中間管理職>意思決定ボード)の日本企業の女性人材パイプライン(女性比率)では、よいパフォーマンスが出ない。【新しい報酬】を用意した企業が残る。」とお話しされました。【新しい報酬】について”日経BPヒット総合研究所のパンフレット”の中で説明がありましたので、ご紹介します。
~日経BPヒット総合研究所のパンフレットより抜粋~
約50年後には、社会を支える生産労働人口は半減するというデータがあり、「男は仕事、女は家庭」という均衡が崩れ、「男性も女性も共に生き、働き、暮らす」男女共同参画社会が到来します。新たな社会のカップル像は、ノーベル賞を受賞した山中伸弥夫妻です。受賞の知らせが届いたとき、山中氏は洗濯機を修理していたと報じられました。妻は高校の同級生で、医師だといいます。つまり夫と妻は対等なパートナーで、家事・育児もシェアしていたと推測されます。そんなカップルがこれからの主流となるのです。・・・・(途中省略)人的資源管理論に「新しい報酬」という概念があります。仕事と生活とを調和させられる状態が、従業員にとって「新しい報酬」になるという考え方です。男性も女性も家事・育児をシェアし私生活を楽しむ時代に、「新しい報酬」が用意できなければ、その企業に良い人材は集まりません。男女共同参画型社会の到来は、経営資源にも市場にも大きな変化をもたらします。それを正しくキャッチして戦略を変えた企業こそが、今後生き延びることでしょう。
<女性活躍を推進するポイント>
*女性管理職を増やす鍵は初期キャリアにあり。初期キャリアの段階で、「心がしびれるような高揚感」「一皮むける体験」を付与する。
*上司によるチャレンジの創出および仕事を任される体験を付与する。
*両立支援策と機会均等策を同時に行う。
*長時間労働が美徳=「男働き」が評価されない。
*生産性の高い働き方が大事(ワークライフバランスも同時に推進)
*男性管理職の意識・行動こそが重要になる。
*「総論賛成・各論反対」「面従腹背」を脱する仕組みを持つ。
*数値目標を持ち、女性登用のロードマップを構築する。
*効果的な研修、エビデンスのある研修を実施する。
◆パネルディスカッション
今の日本を代表する錚々たる大企業が自社のダイバーシティ推進へのさまざまな取り組みの紹介がありました。どの企業にも共通して言えることは、「取り組みのきっかけは、経営の危機的状況に直面し、やるしかない状態であった」。またダイバーシティを推進するうえで重要なことは「トップダウンつまり経営陣からの継続的なメッセージを放つ」「明確な数値目標をたて進捗を公表していく」「全社員の意識改革」「多様で柔軟な働き方を可能とする環境整備をつくる」ことだということです。
国としてもこういった企業の努力を評価し、ベストプラクティスとして広く発信することで、ダイバーシティ推進のすそ野を広げるために『ダイバーシティ経営企業100選』表彰を昨年度より実施しています。また、「女性活躍推進」に優れた上場企業を「中長期の企業価値向上」を重視する投資家にとって魅力ある銘柄として紹介することを通じて、各社の取り組みを加速化していくことを狙って『なでしこ銘柄』として平成24年度は17銘柄、平成25年度は26銘柄の発表がありました。
経営者や人事担当者、ダイバーシティ推進担当者など定員いっぱいの100名近くが参加しており、質疑応答では有用な取り組みを聞き出そうと、活発なやり取りがありました。ダイバーシティの重要性を感じながらも、各社それぞれに問題があり、暗中模索する企業の実態を垣間見たようでした。今の日本にここまでダイバーシティに取り組み、実践し、成果を上げている企業があること、また発展途上ではあるけれど真剣に取り組もうとしている企業が多数あることを知り、とても刺激を受けました。私たちは大学病院というまた違った分野であり、全ての施策があてはまるというわけにはいきませんが、参考にできるところは取り入れながらダイバーシティ推進に取り組んでいければと思います。