中央大学「ワーク・ライフ・バランス&多様性推進・研究プロジェクト成果報告会」に参加しました
2014年11月26日

中央大学大学院戦略経営研究科
ワーク・ライフ・バランス&多様性推進・研究プロジェクト 第6回成果報告会
~ワーク・ライフ・バランス管理職が職場・働き方を変える

日 時 : 平成26年11月18日(火)
場 所 :中央大学駿河台記念館 (東京都千代田区)

 平成20年に発足した同プロジェクトは、大学と民間企業が共同で、企業におけるワーク・ライフ・バランス(以下WLB)推進と働き方の関係などに関する調査研究を行っています。今年度より、研究拠点が東京大学から中央大学に移転しました。
今回で6回目となる成果報告会は、WLB推進において重要な役割を担う『管理職』がテーマ。最新の研究成果の発表を踏まえ、今後の課題や方向性を探りました。(前回5回目開催の記事はコチラ
報告会は2部構成で、第1部は分科会、第2部はパネルディスカッションがありました。

【第1部】分科会 
最初に、次の5つの分科会で、事例発表や意見交換などを行いました。
〇 分科会A「女性の活躍の拡大と管理職」
 女性管理職比率や女性役員の増加が政府目標として注目を集めているが、目指すゴールイメージが共有されていない現状がある。人事担当者や管理職、管理職予備軍の女性社員などが、互いの思いや知見を持ち寄りながら、「女性活躍」の未来を考える。
〇 分科会B「介護経験者の事例から紐解く~企業と管理職による両立支援のあり方~」
 社員が介護のために離職することなく、介護しながら働き続けられるようにするために、企業や管理職はどのような支援をする必要があるのか。介護経験者の体験報告や問題提起を踏まえ、企業や管理職の果たすべき役割について考える。
〇 分科会C「働き方改革と管理職~事例から学ぶ管理職の果たす働き方改革への役割~」
 労働力人口減少の中、高付加価値職場への改革は経営戦略そのものであり、経営者や管理職のコミットが不可欠。しかし過去の成功体験が変革を阻んでいることが少なくない。真の働き方改革の意義を理解するとともに、管理職のリーダーシップについて考える。
〇 分科会D「ワーク・ライフ・バランス管理職をいかに増やすか」
 女性の活躍促進や働き方の見直しを実現するうえで、管理職の役割は非常に重要。そうした役割を果たせる「WLB管理職」について、求められる要件や育成のために有効な取り組み等について考える。

このうち、参加した分科会Dでは「ワーク・ライフ・バランス管理職をいかに増やすか」をテーマに、前半は中央大学大学院戦略経営研究科の佐藤博樹教授、NPO法人ファザーリング・ジャパンの川島高之理事、東京大学大学院修士の髙畑祐三子さんのお話があり、後半はグループワークを行いました。

まずは前半、佐藤先生からは、WLB管理職の条件とWLB管理職が求められている背景について教えていただきました。
<概要>管理職の特徴は“他者依存性”。自分自身が仕事をするのではなく、部下に仕事を任せ、部下・職場のマネジメントを行うのが仕事。ただし、マネジメントの対象となる部下の価値観は多様化している。それを受容したうえで、各社員の役割を理解し、役割を実現するために必要な職業能力の保有と能力開発を支援していく。仕事への意欲を高い水準で維持するマネジメントが必要。

続いて川島さんからは「イクボス」とは何か、また自身がイクボスとしてどのようなことを行っているかについて具体的な方策を教えていただきました。
<概要>「イクボス」とは、部下の私生活(子育てや介護だけでなく勉強や趣味等も含む)とキャリアを応援し、なおかつ自分もWLBを楽しみながら、組織目標を達成し、業績を上げる管理職。社員の大半は「制約社員」だと認識するとともに、部下の私生活を知り、1対1の関係を築くことが大切。

髙畑さんからは、WLB管理職育成のための研修とその効果について、研究発表がありました。
<概要>「eラーニング」と「グループ研修」の2パターンの研修を受けるグループで、変化があるかどうかを検証。どちらの研修でもWLBの理解を得て、認識および自身の行動を変化させることはできたが、職場全体への効果は見られなかった。職場全体の行動の変化のためには、継続的なフォローアップが必要。

後半のグループワークでは、「WLB管理職の具体像や満たすべき要件」→「現在多いタイプの管理職像、管理職への登用基準」→「WLB管理職育成のための具体的な取り組みと留意点」の3テーマについて、ディスカッションを行いました。
さまざまな企業の方が集まっていましたが、「時間をかければ成果が出ると思っている」「自分で何でもしてしまうプレイングマネージャー」といった管理職の現状は、共通する部分が多くありました。
WLB管理職を増やすためには、▽イクボス研修や多様性に関する研修の実施 ▽部下育成に貢献した管理職をしっかり評価する ▽評価基準自体の見直し ▽ロールモデルの提示―といった意見が挙げられました。

【第2部】パネルディスカッション
* パネリスト
 ・中央大学大学院教授 佐藤 博樹氏
 ・株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長 小室 淑恵氏
 ・株式会社ニッセイ基礎研究所主任研究員 松浦 民恵氏
 ・三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員 矢島 洋子氏
* ファシリテーター
 ・法政大学キャリアデザイン学部教授 武石 恵美子氏

 後半の第2部では、各分科会の報告の後、「人材の多様化時代における職場マネジメントの課題」をテーマに、パネルディスカッションが行われました。
その中で印象に残った意見は次の通りです。

<分科会報告から>
〇 どのような状態をもって「女性の活躍」と言えるのか、それは各社によって違う。会社としてしっかりしたイメージを作り上げ、全員に示すことが必要。
〇 管理職は、介護に直面した部下を孤立させないように、関わりを持ち続けよう。
〇 「この上司になら話してもいい」と部下に思ってもらえるような関係づくりをするとともに、誤解を招きやすい「NGワード」についても押さえておくのがポイント。
〇 管理職は、会社の支援制度や介護保険の仕組みなど、一通り分かっていないと対応できない。
〇 普段の業務体制を整え、いざという時に慌てないようにしたい。「時間当たり生産性」で評価することも必要。
〇 「人口オーナス(重荷、負担)期」が到来している。働く人より支えられる人の方が多い状況で、人口構成の変化が経済にとってマイナスに作用している。
〇 先輩たちが築いてきた、過去の成功事例を否定しない。ただ現在、社会は変わってきているのだということを、認識してもらわなければならない。
〇 働き方の見直しは、「誰のために、何のためにやっているのか」を十分認識したうえで、自律的に進めていくことが大事。
〇 たとえイクメンじゃなかったとしても、イクボスにはなれる。

<パネルディスカッションから>
〇 イクボスは、本気で部下を育てる人。全体をよく見渡して、どうやったら成長できるのかを考えている。
〇 マネジメントの上手な管理職は、人の出入りがある都度、仕事の割り振りを見直している。メンバーがスキルアップすれば、また見直し。それが習慣になっている。
〇 介護に直面した場合、初動段階で、仕事との両立体制を整えることが大事。ここに上司がどうコミットし、アドバイスしていくか。管理職という冷静な立場で、初動を支援してほしい。
〇 管理職は部下に仕事をしてもらい、本来のマネジメントに時間をかける。部下に任せていい仕事が、平均で4割あるとも言われている。それを1割に減らす。
〇 働き方改革は、誰もが関わる可能性が高い「介護」を切り口に進めていくのも手。
〇 改革に当たっては、トップのコミットメントを引き出すのが一番。人事だけで推進しようとする傾向がある。トップが決断すれば、管理職も動きやすくなる。
〇 連続で有給休暇を取らせることで、仕事の属人化を防ぐことができる。
〇 部下を育てる喜び、楽しさを実感することも大事。職場復帰する部下が増え、成長が見えるようになってくると、管理職としても嬉しい。例えば育児の苦労話を、上司と部下で共有できれば、マイナス要因がプラスに転換することも大いにある。

icon_razz.gif最後に佐藤教授から、「WLB管理職と組織の支援に関する提言」の紹介がありました。

【提言1】
職場の多様な人材の能力発揮や仕事への意欲を喚起するためには、部下のWLB支援を担える管理職の存在が必要条件となる。部下のWLBの実現を支援できるマネジメント能力を備えたWLB管理職は、人材が多様化する職場において、組織成員の仕事への意欲を高めることを通じて組織成果をあげており、企業経営の視点からも目指すべき管理職像である。
【提言2】
WLB管理職には、自らが育児や介護を経験した人でないとなれないわけではない。WLB管理職は、組織成果の達成面で単に有能であるだけでなく、部下の働きを通じた課題達成という管理職自身の役割遂行のため、部下が能力を発揮しかつ仕事に意欲的に取り組めるように、部下のWLBの実現を支援するなどのマネジメントの重要性を認識している人である。自分自身の生き方や働き方に関する考え方、さらには環境変化に応じて業務マネジメントや部下マネジメントのあり方を変えることのできる柔軟な人でもある。


icon_redface.gif感想

「ワーク・ワーク社員」だけでなく「ワーク・ライフ社員」も意欲的に仕事に取り組めるよう支援するためには、「自分が部下の時に望んでいた管理職像」と「WLB管理職」はイコールではないことを前提に、部下マネジメントの内容も変化させる必要があるということが分かりました。
そのためには、管理職自身が時間管理や仕事の取り組み方を見直し、WLBを楽しむことが第一歩になります。ただ、職場全体にWLBを浸透させていくには研修だけでは難しいため、継続的なフォローアップや、WLBの観点を盛り込んだ評価をすること、研修の対象者を管理職、さらに上位の管理職、そして社員(部下)にも広げていくことが、WLB実現につながる―という、髙畑さんの研究結果(分科会D)はとても興味深かったです。
参加者には人事に携わる方が多かったので、グループワークでも、「評価の基準に、時間管理などWLBの観点を取り入れたい」「ぜひ私の会社でもイクボス研修をやってほしい」という声が挙がっていたのが印象的でした。
 理想の管理職像は時代とともに変化しています。時間制約を抱える人が増えている今、社員の意欲と能力を上手に引き出せる「WLB管理職」の存在が、ますます重要になってきそうです。