長崎大学医学部3年生「医と社会」授業で、学生キャリア講習会を行いました
2020年10月19日

「医師としてのキャリア継続のため、ワークライフバランスの考え方を知るとともに、医師としての多様な生き方を学ぶ」ことを目的として取り組みました。今年は、感染症対策のため、オンラインでの授業となりました。
日 時:2020年10月9日(金)8:50~16:20
対 象:長崎大学医学部医学科3年生(男性86名、女性44名 合計130名)の「医と社会」教育の一環で実施。

<ワークライフバランス講義-ビデオ->
 
 放送大学 長崎学習センター 所長 伊東昌子先生
「アカデミックキャリアにおける「多様性」と「生産性」を意識した働き方」
 アカデミアにおける多様性の実現、ジェンダーバランスの取れたチームの生産性は向上することを裏付ける国内外の根拠データを数多く示しました。しかし日本は、諸外国に比べて女性研究者が少ない現状を、情報を分析して解説しました。女性活躍推進のために必要なインフラ整備や制度、積極的な女性登用が求められており、ジェンダーに基づく固定観念や偏見の解消は特に重要であると話しました。
 また、長崎大学の「働き方見直しプログラム」の取組紹介を交えながら、「働き方改革」とは、「残業時間を減らす」「余暇の取り方」「勤務形態の多様化」などがゴールだと捉えられがちだが、あくまで手段であり、「自分はこうしたい」「仕事を通じてこういう価値を生み出したい」という強い自己を育てることがゴールであるべき。人の時間も尊重して、自分の時間を大切にすることが、働き方見直しの基本的な心構えだと話しました。

<特別講演-ビデオ->
 
 広島大学医学部附属医学教育センター長/大学院医系科学研究科 教授 蓮沼直子先生
「自分の未来を考えよう!<医学生のためのキャリア入門>」
 蓮沼先生は皮膚科専門医で、米国への研究留学や数年間の子育てによる離職期間があるなど、経験豊かな先生です。多角的な視点をお持ちの蓮沼先生は、医学生の入学から卒業までのサポートや医療者プロフェッショナリズム、医療コミュニケーション、医療倫理、医療キャリア、臨床実習入門など多岐に渡る講義を手掛ける優秀な医学教育者です。
 講演では、学生が今、意識して過ごすべきことを具体的にイメージしやすい事例を挙げて話しました。キャリアの考え方では、自分の轍を時々振り返り「自分をよく知ること」、キャリアアンカー(仕事人生上の碇)となる「自分が絶対に捨てたくない」コア(核)な部分を探求し、しっかり据えること、目標達成のために有用なツールの紹介、ご自身のキャリア形成や留学経験の中で取捨選択してきたことを踏まえ「人生にたった一つの正解なんてない」、本人がより良い人生を送れるように、身近な人たちも含め、様々なキャリア形成について理解を深めよう、と締めくくりました。

<グループ討論-Zoom->
 仕事と育児の両立を目指す共働き医師が、問題に直面した時にどのように解決していくかを、グループに分かれて討論しました。


<発表と先輩医師からのアドバイス-Zoom->
 事例毎に、10グループが発表しました。オンライン発表のため、聴講者の反応がわからず、手応えをリアルタイムで感じることができませんでしたが、質問は、チャット機能で対応できたり、室内を移動する等の動線が無く時間短縮ができる、ペーパーレス等、オンライン授業と対面授業のメリット・デメリットを知ることができました。
【事例1】3グループ
 子どもが熱を出した時の対応を検討する設定で、病児保育施設へ連れて行く、子の看護休暇制度を利用する、午前と午後で夫婦が交代で休みを取得する、という解決策は、例年の講義の中でも出た事がありましたが、今年は「プレゼンをオンラインでする」という世相を表す解決策がありました。
【第一内科 辻良香先生アドバイス】
・ライフスタイルや病状に合わせた施設やサービスの情報を集めておく。
・事前登録が必要な場合もあるので、利用方法や休診時間等の特徴を調べて、準備しておく。
・病児保育施設は、受け入れ人数に限りがあるので、診療時間開始と同時に電話予約が必須。
【広島大学 蓮沼直子先生アドバイス】
・本ケースは夫が異業種のため仕事の調整が難しいが、医師夫婦であれば、固定した業務(曜日毎の外来や手術)を夫婦ずらして入るように医局へ相談して、どちらかが休みを取得しやすいように対策をした事例がある。
【事例2】3グループ
 夫婦共に緊急呼び出しの多い診療科での後期研修を希望している設定です。働く環境を優先した考え方:研修先病院に院内保育施設があるか、テレワークができるか等を十分検討して2人で決める。子育て環境を優先した考え方:地元の研修先病院近くの保育所や親の助けを借りる。ほかにも希望の診療科に進むタイミングを少し先延ばしにするといった視点もありました。
【医療教育開発センター 松島加代子先生アドバイス】
・進路選択の際は、個人の事情をどれだけ重要視して対応してくれる病院かをリサーチして就職した方が良い。
・複数主治医制が導入されているか、男性の育児休業取得実績があるかなどでも就労環境の整備状況を判断できる。
・自分が希望する診療科や行きたい病院を選ぶことは、医師として働き続けるモチベーションを保つために最も重要である。
【事例3】2グループ
 妻に国内留学の話が出た設定で、妻の希望を叶えるため、長期研修期間は、夫は実家に子どもを預けたり、勤務先の院内保育施設を利用する、様々な子育て支援サービスを利用するという解決策が出ました。事例1と同じく、「これからの社会では、リモート研修のシステム構築を考えなければいけない」という新たな案も出ました。
【循環器内科 泉田誠也先生アドバイス】
・妻のキャリアアップの意志を夫は尊重するべき。
・夫は医局と相談が必要。妻が不在の半年間の業務を見直す、勤務先を調整するなどのすり合わせに対応してもらえるか確認する。
【センターからアドバイス】
・親に子どもを預けるという解決策が例年よく出るが、現実的に可能なのか、一度親の意向を尋ねてみてほしい。
・長崎には、「長崎医師保育サポートシステム」があり、保育サポーターに支えられて働く医師がいる事を覚えておいてほしい。
【第一内科 辻良香先生アドバイス】
・他の選択肢として、子どもが小さいため長期研修の時期を見直す、夫が可能であれば家族一緒に引っ越すという事例もある。
【事例4】2グループ
 子どもの成長と共に、妻が当直を担うことを医局から打診されている設定です。夫が子育てに協力的になること、医局間でスケジュール管理をする、妻の当直時に夫が呼び出された時の対応を事前に備えておく、親のサポートや周囲のアドバイスをもらいつつ、夫婦で計画を立てて段階的に育児をしていく、夫婦仲を取り持つためにも2人で育児を行おう!という解決策が出ました。
【広島大学 蓮沼直子先生アドバイス】
・パートナーとよく話し合って役割分担することはとても重要。
・専門医取得条件に当直歴が関係することもあり、資格取得のために生活のサポート体制を整えた事例紹介。
・女性の愛情曲線の話を紹介:大変な乳幼児期に「夫と二人で子育てした」と回答した女性たちの夫への愛情は回復し、「私一人で子育てした」と回答した女性たちの愛情は低迷。
 
(出典)東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美由喜著「夫婦の愛情曲線の変遷」 引用:東京都東京ウィメンズプラザホームページ

<ロールモデル医師の講演①-ビデオ->

長崎大学病院 脳神経内科 助教 吉村俊祐先生
「医師のワークライフバランスについて」
 若くして身近な人と死別してきた経験が、人生観、価値観を考えるきっかけとなったと話しました。2人のお子さん(もうすぐ第3子誕生)の成長に寄り添う平日と休日のタイムスケジュールを示し、「子育てはいつか終わりが来る」と、大切に毎日を過ごすことを意識されていました。学生に「パートナー選びは大切」「どうして医師を目指すのか、どういう将来像を目指すのか」は、忘れずに過ごしてほしいとアドバイスしました。

<ロールモデル医師の講演②-ビデオ->

長崎大学病院 麻酔科 助教 吉﨑真依先生
「私のメディカルワークライフバランス」
 県外出身のご夫妻で、長崎に頼る親戚がいないため、保育園、病児保育施設、長崎医師保育サポートシステムの保育サポーター等、周りのサポート環境無くしては仕事と家庭の両立は困難だと話しました。仕事・職場の業務に関して、麻酔科全体として個人を支えるシステムがあること、家庭の子育てに関して、施設全体として個人(医師)を支えるシステムがあることが、ワークライフバランス維持には重要な要素だと説明しました。しかし、環境や制度が整っても、母親医師の多くは「欠勤することの申し訳なさ」「当直免除等により他の医師へかける負担」「子どもへの罪悪感」等、引け目を感じつつ両立して働く難しさがあると話しました。毎日が試行錯誤だが、仕事上の責任を果たすために、周りへの感謝は必要だが引け目は不要と考えている。「自分を活かせる働き方を見つけてほしい」と学生にエールを送りました。

<メディカル・ワークライフバランスセンターの取組紹介-Zoom->

 長崎大学病院メディカル・ワークライフバランスセンター 副センター長 南貴子先生
 最後に、南先生よりセンターのWebサイトを画面共有しながら「医学生・研修医Q&A」「私たちのワークライフバランス実践術」「輝く卒業生インタビュー」「育休取得者へのキャリアコンサルティング」「マタニティ白衣の貸出」「復職&リフレッシュトレーニング」「長崎医師保育サポートシステム」「研修病院ワークライフバランス推進員との連携」等々の取組を紹介しました。
 また、南先生のキャリア年表を示し、道のりも歩むスピードも多種多様。今日の授業で調べたり、得たりした情報を自分なりに解釈し、仕事と生活のどちらもやりがいを感じていけるように活かしてほしい。どのタイミングで子どもを授かったとしても、両立に悩んだ際はセンターへ相談してほしいと話しました。

icon_exclaim.gifその他、グーグルフォームによる「講義前後アンケート」の実施や「キャリア&ライフ未来年表」の課題提出をもって出席扱いとなる、盛りだくさんのキャリア講習会でした。

<講義前後アンケートの集計結果抜粋>
●2020年度の受講予定者130名の学生のうち、男性86名、女性44名(女性の割合34%)で、2014年度から例年行っている講義の中で、女性の割合が一番多い年でした。「男女共同参画」の言葉も内容も知っている割合は52%、「ワークライフバランス」は53%で過去最多でした。若い世代には、言葉が定着し、考え方も浸透していきていると思われます。
●現時点での将来の不安については、講義の前後で、不安がある割合は共に50%以上(前59%→後52%)であったものの、不安がない割合は少し増加(前25%→後33%)しました。講義後に、講義前と比べて不安が減った・なくなったと答えた割合は56%で、学生の半分以上は、不安を抱えながらも、本講義で不安を軽減できたようです。将来に対する不安の内容(複数選択)で一番多いのは「仕事と生活の両立」(18%)でした。次は「勤務地」と「診療科の選択」が同数(15%)で続きました。
●「産休」「育休」の言葉はそれぞれ97%以上の割合で認知され、男性も育休を取ることができると知っている割合も99%と過去最多を更新しました。講義後の「自分も育休を取ってみたい」学生の割合は93%(男性93%、女性91%)の結果でした。これからの世代は、「育休取得は男女共に当たり前」と学んで社会に出てくるため、職場の上司・管理職の意識改革、組織の働き方改革は、優秀な人材を確保するためにも喫緊の課題です。
●将来の進路を決定する時に重視するもの(3つまで選択)のランキングでは、1位は講義前後共に「仕事の内容」、次に講義前は「希望するライフスタイルが得られる」「雰囲気の良い診療科」「収入」と続き、講義後は「やりがい」「雰囲気の良い診療科」「希望するライフスタイルが得られる」となりました。仕事にやりがいを感じながら生活を両立できて、雰囲気の良い診療科を若い世代は求めているようです。
●生活と仕事の両立については、講義の前後で「できる」前14%→後20%、「なんとかできそう」前49%→後64%へと増加して、講義後の両立への自信は84%と高い割合に到達しました。「できない」「わからない」の割合はいずれも講義後に減少し、また、「今回の講義が将来役に立ちそうだ」と答えた学生は95%となり、講義の意義があったと感じました。

<学生の感想抜粋>
icon_razz.gif医師となったのちの職業で用いる技術・知識ではなく、働いていない部分で必要となる知識を多く知ることができた。このような講義は他にないので、とてもためになった。(男性)
icon_razz.gif今まで受けてきた医と社の授業の中で、一番身近で自分の事としてためになる授業だと思いました。ロールモデルの先生たちの一日の流れをみて、将来が想像できて、とてもためになりました。(女性)
icon_razz.gifグループワークを通して、ワークライフバランスを保つための様々な方法があることに気づくことができました。また、育児のために仕事を犠牲にすることがないようにすることも大切だと知りました。(男性)
icon_razz.gif病児保育施設があること、日本にもベビーシッターがいることを初めて知って、子どもを持つことに対する不安が少し減りました。また、夫婦で医者をやっていて、お互いを尊重しつつ子育てやキャリアのために連携してる人たちが意外と多く、大変な事だとは思うけど、両立する方法はいろいろあることを知れて、未来が明るくなりました。お互いに尊重しあえるパートナーが欲しいと思いました。(女性)
icon_razz.gifこの手の問題は人によって状況も異なり、また人によって感じ方も異なるので、極めて多様なものなので、いかにそれぞれの問題に多くの人が関わり、知恵を出し合うかで結果や納得度が変わってくると思います。そういった意味では、サポート体制が肝であり、長崎大学はそのサポート体制が充実しており、またそのことを学生の内から授業で気付ける機会が与えられているのはとても良いことだと思いました。(男性)



<講義協力者のコメント>
●医療教育開発センター 松島加代子先生
 学⽣が真剣に⾃分たちの事と捉え具体的に解決策を考えていた。グループワークではお互 いの意⾒が参考になったと思う。みなさんを受け⼊れる私たち管理側の⽴場としても、働き方の制度や職場環境をしっかり整えていこうという責任を感じた。学⽣がオンラインでの講義が増え、十分に順応できている。コロナ禍で大変な部分も多いと思うが、私たちもこの状況をむしろ良い⽅向に働かせられるよう、今後オンライ ンでのレクチャーとか企画を計画していきたい。 みなさんの将来を楽しみにしています。応援していますので何かあったら連絡をください。

●第一内科 辻良香先生
 自分の学生時代に「医師のワークライフバランス」について考える機会がなかったので、とても新鮮だった。学生も情報をよく調べていて、今後の人生に役立つと思う。学生の考えた選択肢にあるような視野の広さを持って子育てができたら、楽しく「ワークライフバランス」を実現できそう。
●循環器内科 泉田誠也先生
 何事も準備が大事。自分やパートナーが何をしたいのか、どうありたいのか、をすり合わせておくと良い。親が近くにいない事は子育てをするうえで、かなりのハンディキャップがある。
●ワークライフバランスコンサルタント 吉岡和佳子氏
 蓮沼先生は本講義のオリジナルを構築された先生で、2013年当時秋田大学へ前伊東昌子センター長と一緒に見学し、「これは面白い」と2014年から長崎大学仕様にアレンジを加えて講義に取り入れられている。当初から現在までの7年間で学生の発表内容にも変化が見られた。どちらかが夢を諦めるという選択肢は減り、しっかり話し合いながら、優先順位をどうするか、どういうサービスを利用して子育て期を乗り切るかという所まで考えられていて感心した。様々な方法や考え方がある中で、パートナー同士で納得して出した答えが正解であり、後悔をしないと思う。仕事も子育ても夫婦で関わりあっていくことが大切。リモートの会議や学会などはオンラインで開催される機会も増え、子育て中でも色んな可能性が広がってきているので、チャンスを掴んでほしい。
●広島大学 蓮沼直子先生
 建設的な意⾒がたくさん挙がって素晴らしかった。消化器外科の⼥性医師⽀援に少し関わったことがあるが、⼿術指導をリモートで⾏うことが始まっていると聞いている。⼿術の録画やライブでの遠隔指導と実地指導のハイブリッドプログラムだったと思う。また、⼥性医師の活躍のために男性医師が働き⽅を変えて育休を取得したり、時短で働くケースもある。親が⼦育てを協⼒してくれるには条件があり①健康であること②仕事をしているか③良い関係であるかが問題になる。⾃分が医師として、⼈としてどういう⼈⽣を歩みたいかをパートナーや家族と模索していくことになるのだと思う。⻑崎⼤学病院にはメディカル・ワークライフバランスセンターや諸先輩医師の話を聞くことができる今回のような機会があって素晴らしいと思う。

icon_redface.gif学生の感想では、「グループワークで知識を深められた」「医師の実際の仕事と生活の話を聞くことができて良かった」というコメントが男女共に多数ありました。両立支援の制度やサービスについて、学生のうちから知識を得ておくことは、きっと将来の役に立つことでしょう。課題とした「キャリア&ライフ未来年表」では、2人の男性が、育休を取得する将来を思い描いていました。実際に、この学年には育休を取得した経験のある男性もいましたので、男性の育休取得はかなり身近になってきていると感じました。また、年表内の「なりたい医師像」は、「信頼される医師」「専門的技術に優れる医師」「コミュニケーション能力の高い医師」を目標に掲げる学生が多く、「海外で活躍する」ことを希望する学生も複数いました。「なりたい人間像」では、初めて「良いパパになりたい」と考えた学生が複数あり、ロールモデル医師としてご講演いただいた、吉村先生の忙しくても充実した素晴らしい生活が共感を呼び、学生の将来へ良い影響を与えたのだと思います。家族を愛する素敵な大人の男性になって欲しいと思います。私どもセンターとしても達成感のある講義でした。