県医師会と合同で、「平成25年度女性医師の勤労環境の整備に関する病院長、病院開設者、管理者等への講習会」を開催しました。
「女性医師が働きやすい勤務環境を整えることは全ての医師の勤務環境の改善に必須である」という思いのもと、さらに女性医師の勤務環境の整備を推進していくことを目的として実施しました。
日 時:平成25年11月20日(水)午後3時~5時
場 所:ANAクラウンプラザホテル長崎グラバーヒル
プログラム:①講師とワーク・ライフ・バランスに関する懇話会
②講演:「ワーク・ライフ・バランス、そしてダイバーシティへ」
講師:医療法人寿芳会 芳野病院
WLB&ダイバーシティ推進室 室長 小川 美里氏
(日本医療機能評価機構認定病院・福岡県北九州市)
なお、講演②の開催案内は「長崎の医療と病院経営を考える会」に参加される16病院へ、長崎県病院企業団からご案内状発送のご協力をいただきました。
①講師とワーク・ライフ・バランスに関する懇話会
司会:メディカル・ワークライフバランスセンター長教授 伊東昌子
講師:医療法人寿芳会 芳野病院 WLB&ダイバーシティ推進室 室長 小川 美里氏
懇話会には、地域医療機関から約20名のご参加をいただき、活発な意見交換が行われました。抜粋してご紹介します。
Q:短時間勤務者に対して、そうでない職員からの不満対策は?
A:病院全体では役職者には出欠確認を取って参加を促し、ワークライフバランス勉強会を外部講師をお招きして行ったり、役職者で懇話会を開いたりすることで理解を求めている。独身、手のかからないお子さんを持った職員に対しては、所属長が直接ねぎらいの声かけを行い、「あなたにも何かあったらフォローするから」と約束をしてもらっている。病院全体と個々へのフォローが必要。また、制度利用者にも、突発的な利用を避けるよう促し、制度に甘えないことでこの制度が継続できることを伝えている。
Q:介護休業利用者は?
A:年間1名位。職員調査では、1割が介護の可能性が今後あると回答している。育児は出産予定日から逆算して段取りができる。これに対して、介護は経過の予想が難しいので、育児とは制度を分けることが必要。介護に関しては、十人十色の状況が考えられるので、以下の3点で対応している。つまり、「介護休業」「短時間勤務」「相談窓口」。直接介護に携わってしまうと、介護休業を取得して退職するケースが民間では多い。介護休業とは、介護をする期間ではなく、サポート体制を整える準備期間にするようにアドバイスしている。
Q:看護師の採用の際、夜勤はしたくないなどの声が聞かれる。どう対応しているか?
A:短時間勤務でも正規職員。でも夜勤をゼロにするのではなく、月1回でもやるという歩みよりで、必要なときだけ短時間勤務にしてもらっている。柔軟な勤怠シフトを組み、夏休みだけ短時間勤務を利用する人もいる。特定の人だけが利用しないよう風土づくりが重要。パートナーの勤務形態も把握して、所属長がシフトを考えている。
Q:常勤の女性医師が芳野病院ではいないとのことだが、今の制度で女性医師は勤務可能か?
A:病院内でケースがない。今のところ1診療科に医師1名なのでフォローアップ体制はできない。近隣病院からの応援がないと、中小病院では育休は難しい。しかし、常勤の女性医師にも勤務してほしいので、今後医局で検討していくと思う。
Q:取り組みのコスト面は?
A:ほぼ、かかっていない。ハード面としての、院内保育は実施していないので。ソフト面として、研修費のコストはかかっている。また、短時間勤務のための勤怠システム構築で数十万はかかっている。
Q:主体的に推進する部署はどこか?
A:制度自体の枠組みは、総務、推進室で行った。小さな工夫に関しては、セクションに入り込んで現場部署のオリジナル。看護部では、病棟師長さんから看護部長へ現場シフトの連絡が行ったり、推進室の県内外の情報に関する事例を挙げて看護部長に提供した。制度が浸透するまで何度も会議をして、子育て世代の看護師への理解を求めるために、足を運んで熟練看護師とコミュニケーションをとった。
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続いて、長崎県病院企業団主催「長崎の医療と病院経営を考える会」に参加されていた方
地域医療機関の方を含めて約40名のみなさんに講演会にご参加をいただきました。
②講演:「ワーク・ライフ・バランス、そしてダイバーシティへ」
座長:メディカル・ワークライフバランスセンター長教授 伊東昌子
講師:医療法人寿芳会 芳野病院 WLB&ダイバーシティ推進室 室長 小川 美里氏
はじめに、ご自身のプロフィール紹介と福岡県北九州市若松区の案内、今年創立100周年を迎えた芳野病院の概要をご説明いただきました。
医療法人寿芳会 芳野病院・・・職員数:271名 事業内容:亜急性期・回復期リハビリを中心とした地域一般病院 住宅型有料老人ホーム、グループホームの運営 病床数:143床
ワークライフバランス充実のための取り組みを始めたきっかけは、10年ほど前、院内のクラブ活動ミーティング時「結婚・出産しても働き続けるには?」といった素朴な疑問から活発な意見が挙がったことによるそうです。このような自然発生したワーキンググループを「職場環境改善提案会議」と名付け、当時総務課主任だった小川さんを中心に、子どもがいない職員も含め「事業所内保育園があるといいね」「短時間勤務できないかな」「連休取りたい」などの職員の声を総務部長へ提案したところ、「それはきっとこれから必要なこと、女性の労働力も必要だ」と後押ししてくださり、芳野元(はじめ)院長に報告をされたそうです。芳野院長は、約30年前のアメリカ留学時にダイバーシティ社会を実体験されており、昨今の日本におけるワークライフバランス施策の動向を予見されていたそうです。すぐさまトップの意思表明として福岡県の「子育て応援宣言」へ登録、職員へアンケートを実施。結果、「短時間勤務は利用したいが、6時間しか働けないのでは収入が減って困る」という声の多さに驚き、「出退勤の時刻を30分単位でずらし、勤務時間を1時間まで短縮できる」という育児・介護のための短時間勤務制度(6~7時間の正社員)を立ち上げられたそうです。多様な勤務形態のシフトは当初26種類から現在57種類。このシステム管理のために初期導入費用はかかったそうですが、あとは小さな工夫で風土づくりをすることが肝心とのことです。
制度があっても利用を許容する院内の雰囲気がないといけないと感じました。
トップダウン・ボトムアップが風通しよく改革ができる、職員ひとりひとりのライフスタイルをくみ取れる中小病院ならではの具体的な推進方法を教えていただきました。
芳野病院の3つの柱(制度)と、小さな工夫(風土づくり)を惜しみなくご提案いただきました。
みなさんの職場でも参考にされてみてはいかがでしょうか。
<取り組み内容>
★3つの柱・・・制度
1)男女問わず育児休業取得の促進
2)育児・介護のための短時間勤務制度(6~7時間の正社員)
3)1週間の連続休暇取得奨励制度
★小さな工夫・・・風土づくり
1)休業前オリエンテーション、休業中の面談、復帰プログラム
2)管理職研修
3)サンキューカード
4)キッズ・サマースクール(旧子ども参観日)の開催
5)海外研修
6)クラブ活動の支援
など
取り組みの成果としては、1)育休取得促進により、女性職員の育休対象・取得、復帰人数・復帰率は夫の転勤や、やむを得ない理由を除いてはほぼ100%で推移していて、男性職員も延べ4名が最短6日間、最長1か月取得者がいらっしゃるそうです。「患者さんやスタッフにも、より優しく接することができるようになった」「仕事も家事料理も段取りが上手くなった」との感想がでたそうです。 2)短時間勤務制度では、「家事・育児でのイライラが軽減した」「仕事の質が上がった」「後輩が同じ制度を利用するようになったら、恩返ししようと考えている」 3)1週間の連続休暇取得奨励制度では、勤続年数など条件はあるものの、旅行や結婚前準備、介護に利用でき、役職・一般職など利用対象者の約4割が毎年利用しているそうです。
その他の成果として、①人材の確保定着(7:1看護の取得) ②職員意識の変化 ③職員のモチベーションの向上 ④『次世代育成支援対策推進法』達成による認定 ⑤報道などによるブランド力向上 があるそうです。
職員が働き続けたいと思える病院が、優秀な人材を呼び、必然的にダイバーシティ(多様性、相違点。国籍、性別、言葉、価値観など、あらゆる違いを問わず人材を活用)を取り入れた、明確な差別化ができる地域病院が戦略的に生き残り、結果、離職率低下とともにES(従業員満足度)向上、CS(顧客満足度)へとつながり経営が成り立つのだと思いました。経営者の方は、制度や部署の設置だけで満足せず、職員のキャリア継続のための譲歩ラインを示し、職員全員まで浸透熟成期間を経て成果が表れるまで、辛抱強く長期的なスパンで見届けていただきたいと感じました。
芳野病院では、新たな課題が出てきていることも話題になりました。4年ほどかけてワークライフバランスの概念が浸透し人材確保につながったが、制度利用者が増加→特に職員数の半分を占める看護部では短時間勤務者が15%になり、短時間勤務者の退勤後、業務の集中する時間帯と夜間勤務でマンパワーの不足が発生。課題解決として以下のような対策をとられているそうです。
<病院全体>
①業務の標準化 ②ワークライフバランス&ダイバーシティ推進室の設置 ③柔軟なシフト体制 ④ダイバーシティに関する全体研修
<看護部>
①固定チームナーシング ②夜勤専従看護師の登用 ③ユニット管理 ④部門ごとのヒアリング
現在小川さんが室長として所属されているワークライフバランス&ダイバーシティ推進室は、院長と小川さんのお2人で構成。小川さんは室長、広報、院長秘書業務を行いながら、情報収集、ネットワークづくり、社内の相談窓口、地域への提案と、幅広くご活躍で、とてもイキイキと輝いていらっしゃいました。良好な人間関係を築かれている雰囲気が伝わってきました。元来、奉仕の精神が高い方の集まりである医療現場。患者さんだけでなく、職員同士にも「お互い様」の精神が根付いていくとよいですね。