「平成26年度女性医師の勤労環境の整備に関する病院長、病院開設者・管理者等への講習会」を開催しました。
新たに医師となる人の3人に1人が女性であり、県内の医師のうち女性の占める割合は年々増加しています。ライフイベントによる離職を防ぎ、復帰支援を行うなど、ワークライフバランスを考慮した勤務環境の見直しが求められています。”あじさいプロジェクト”(県内の医師が働きやすく、働きがいのある病院をつくることを目的)を推進しているメディカル・ワークライフバランスセンターでは、この講習会を「トップセミナー」と位置づけ、事前に県内の155病院を対象に「医師のワークライフバランスに関する調査」を実施し、回答結果の発表と、当センターの取り組みを紹介しました。郡市医師会会員など約20名のみなさんに講習会にご参加をいただきました。
日 時:平成27年1月17日(土)午後3時~5時
場 所:長崎県医師会館
主 催:長崎県医師会
共 催:日本医師会、長崎大学病院メディカル・ワークライフバランスセンター
講演Ⅰ:「子育て医師のための保育サポートシステムの運用と長崎県医師会における女性医師支援活動~あじさいプロジェクトとの連携~」
講師:長崎大学男女共同参画推進センター 教授(副学長)
長崎大学病院メディカル・ワークライフバランスセンター
伊東 昌子センター長 教授
<講演の主な内容>
・長崎大学病院メディカル・ワークライフバランスセンターの概要説明
・長崎県医師会保育サポートシステムの概要説明、運用状況報告
・長崎県医師会との連携について(学生キャリア講習会、医師のワークライフバランスに関する調査の結果発表)
・あじさいプロジェクトの取り組み紹介(復職&リフレッシュトレーニング)
<質疑応答>
・これまでは、多くの男性医師の中に交じって”負けないぞ”といったバイタリティのある女性医師が多かった。最近は女性医師の割合も増えてきて、一部では、女性医師に対するサポートが”当たり前だ”という風潮がでてきている。今後長い目で見て、サポートを是として環境を整えていく必要があるのか、”甘えるな”と根性論を出しながら軌道修正していく方向がいいのか、ご意見を伺いたい。
→度々このような質問を受ける。バリバリやっていくことが継続できない状況になるのは女性に多くいる。子育て中だからとキャリアアップをあきらめるのではなく、 継続しながら徐々にフルタイム勤務に戻れるようにサポートしていくことが必要。子育て中だからという甘えでキャリアアップを断念しているわけではない。徐々にキャリアアップを目指してもらうのも、私たちの仕事だと思う。産休前の医師に相談を受けた場合は、育休をいつまで取得し、復職後どのようなスパンでフルタイム勤務にステップアップしていく計画なのかを聞き取り、アドバイスをしている。
・キャリアを積んだ医師は復職に対する意識も高いと思うが、男性医師からすると、特に若い研修医などは経験も積まずにダブルスタンダードでやっていけるのかという声を見聞きする。ぜひ若い医師への教育も含めてダブルスタンダードにならないよう指導していただけるとありがたい。
・保育サポートシステムは、時代のニーズに合ったシステムだと思う。子どもを預かるサポーターは、あらかじめ登録しておくのか?
→ 事前登録制。申し込みの後、講習を受けてもらっている。
・保育士の免許を持っているのか?
→一般の方でも講習を受けて、サポーター活動をしてもらっている。医師のニーズに合うサポーターをマッチングしている。
・現在の登録状況は?
→サポータが59名、医師が16名。
・保育サポートシステムは、長崎市内から長崎県全域に普及する事業なのか?
→ 女性医師の比率が多い長崎大学病院をモデル病院として現在運用中。ノウハウを確立後、市内に展開、県内まで拡大できればと考えているが、基金の財源が来年度まで。その後については長崎県医師会の男女共同参画委員会で協議していく。
・女性医師の場合、現在問題になっているのは、当直の問題。周囲との軋轢を少なくする解決策はあるか?
→他の病院の成功事例は、まずは医師確保。時短勤務正規雇用を取り入れ、当直できない医師の働き方も認め、勤務時間に見合った給与にすることで周囲の不満を解消する。正規雇用なので、将来的にはフルタイムになり、病院のおかげで就労継続できたと恩義を感じ、還元してもらえるとのこと。医師が確保できた場合の理想的なケースだが、現実は難しい問題だと理解している。
→ 子どもが留守番できるようになったら、みんなと同じようにはこなせないが、月に1回でも2回でも当直していくという意識を持てば、みんなが楽になる。若い医師には、社会や周囲の同僚、システムによって育ててもらったのだから、どんな形で恩返しし、還元できるかを考えられるような教育をやっていけたらいいと思う。女性に限らず、男性も同じで、国にもらった恩恵をどう社会に還元するかを考えることが、”当たり前”の意識、としたい。
講演Ⅱ:「勤務医のワークライフバランス」
講師:地方独立行政法人京都市立病院機構理事長
京都市立病院院長
内藤 和世先生
<ご講演の主な内容>
・10数年間取り組んでこられた勤務医問題を紹介
・京都市立病院の取り組み
・医師全体の勤務環境改善の紹介
・新しい専門医制度による課題
・勤務医と病院管理者の両者に対する問題提起
・日本一と自負される院内保育所の紹介
<質疑応答>
・32時間拘束勤務の解消(宿直後公休制度)はどのように実現されたのか?
→ 執刀医、第一助手は当直明けに手術に入ることはない。まずは医師の確保をしないといけない。548床規模で200人の医師を抱える病院は少ない。そこまでやらないと(25%医師増)できないというモデルケース、逆を言えば、ここまでやればできるということを示したかった。独立行政法人化し、権限を得たので実現できた。
・医師を増やして、人件費は病院経営に支障はないのか?
→ 昨年度は一時的に建設コストが影響し、経常赤字だったが、1期4年間では黒字。積立金も増額した。これから2年間は厳しいかもしれないが、のちは安定するだろう。医師を増やしたことで、収益は30%増加した。
・研究・研修、専門医資格取得などの費用を病院が負担しているのか?
→ 病院が負担している。
・院内保育所の運営に年間1億とのことだが、民間委託の運営なのか?病院からの補助があるのか?
→民間委託費用。ただし、地域枠15名を入れるとそれ以上にかかる。認可保育所並の料金設定にはしている。投資的な経費、委託費用が1億弱。
・医師確保はどのような割合で近隣病院から派遣されているのか?
→京都府立医科大3/1、京都大3/1、京都市立3/1で構成。研修医は全国から来るが、 半分近くは京都市立病院に残る。
・まず病院長に着任されて、どこに注力されたのか?
→優秀な医師を獲得することに本気で取り組んだ。
<センター長所感>
・長崎県の医師不足は深刻な問題であり、内藤先生のご講演は遠い理想を見せていただいたような気もしました。しかしそれは単なる理想ではなく、内藤先生が勤務医問題に対して、真剣に取り組まれた成果だということを、まざまざと見せつけられました。医師不足から生じる医師の疲弊、さらにそこから医師不足が連鎖する負のサイクルを、大きなエネルギーで変革されていることが分かりました。
そして、先生の淡々とした語り口と湧き出るパワーに驚かされました。「トップセミナー」と位置づけた、病院長や経営者へ向けての講演でしたが、もっと多くのトップの方々に聞いていただきたかったです。
<参加職員の感想>
・特に院内保育所の整備については非常に印象的でした。産後休暇後すぐの復帰を可能にするための0歳児からの対応や、新築整備時に、特に利用の多い0~1歳児用のスペースを拡充するなど、職員が仕事と子育てを両立できるように、万全なサポート体制が整えられていると感じました。また、平成27年10月からは病児・病後児保育もスタートさせるとのお話でした。
このような勤務環境改善が、常勤医師に占める女性医師の割合31.5%(全国平均約10%)という高い割合に表れていると思います。独立行政法人化することで医師数の増加を成功させ、その上で、男女問わず働きやすい環境の整備、良質な医療を安定して提供するために、様々な取り組みを推し進めていらっしゃる内藤先生のご講演に圧倒されました。
・「勤務医、女性医師を取り巻く環境は確実に変化している。女性医師は自らの権利と責務を果たせる環境を求めることが望まれる。そのため、病院管理者側からは、勤務医、特に女性医師の『立ち去り型サボタージュ』(物を言わず辞めていく)を防ぐ取り組みが必須。女性医師の権利と責務を果たせる環境を整備することが望まれ、女性医師のキャリア形成プログラムを準備すべきであり、医師のキャリアと能力を評価する仕組みを作ることが求められている」とのことでした。
もちろん、取り巻く環境の違いはありますが、今回の内藤先生のご講演を拝聴し、権限を持った方の本気のやる気とリーダーシップ力があれば、困難な改革・整備がこれほどまでに実現可能になるのだと痛感しました。