2016年7月12日

 平成28年7月4日(月)8:50から16:10まで、長崎大学医学部3年生(男性102名女性35名 合計137名)の「医と社会」教育の一環で、『ワークライフバランス』について講義を担当しました。1時限から4時限までの丸1日をかけて、”医師としてのキャリア継続のため、ワークライフバランスの考え方を知るとともに、医師としての多様な生き方があることを学ぶ”ことを目的として取り組みました。


~講義風景~

 午前は、伊東昌子センター長が「医師にとってのワークライフバランスとキャリア形成を考える」と題して講義を行いました。 

 長崎大学ダイバーシティ推進センター教授(副学長)・
 長崎大学病院メディカル・ワークライフバランスセンター センター長教授 伊東昌子先生

 続いて、長崎県福祉保健部医療政策課から行政医師で上五島保健所長でもある宗陽子先生にお越しいただきました。全国保健所長会が制作した公衆衛生医師募集のパンフレットのほか、長崎県が制作したライフプランにおける妊娠出産パンフレットを配布。公衆衛生医師の紹介や妊娠適齢期および不妊治療についてのお話しがありました。
 
 長崎県福祉保健部医療政策課 宗陽子先生

icon_idea.gifグループ討論
 仕事と育児の両立を目指す共働き夫婦が問題に直面した時にどのように解決していくかを、事例を3ケース挙げ、問題点、解決策、結論について、ランチを交えながら14グループに分かれて討論を行いました。参考資料として当センターが制作した【出産・育児のイロハ】を配布しました。
 発表方法は、事例毎に代表1グループがロールプレイング、他のグループは相違点などをコメント発表しました。昨年からロールプレイング形式にしてみましたが、夫婦・各両親・職場の医師などの立場になりきったセリフを考えて発表していました。タイムロス対策として、タイムキーパー役にタイマーを渡し、登壇時間をマメジメントしてもらいました。
 「不幸にも共働き」と説明をしたグループがあり、医師の共働きには実感がない学生さんも少なくないと感じました。学生たちが近い将来に起こりうる岐路をイメージし、ある程度の想定を立ててキャリア形成を考えていく必要があることを感じてもらえたかと思います。


~グループワーク~

 午後は、お弁当と飲み物のご提供をしてくださった長崎県医師会常任理事 瀬戸牧子先生より、日本医師会の「ドクタラーゼ」”医学生がこれからの医療を考えるための情報誌”の配布、紹介がありました。
 
 長崎県医師会常任理事 瀬戸牧子先生

 その後、現役でご活躍の院内の医師5名に加わっていただきました。学生が考えたグループワークの結果発表に対して、ご自身の経験から貴重なご意見、アドバイスをいただきました。

<事例1>
子どもが熱を出した時の設定ですが、夫婦それぞれが仕事で大事なイベントのある日でもあり、ちょっと夫婦喧嘩もしながら、病児保育施設へ預かってもらう結論となりました。
<事例2>
夫婦ともに緊急呼び出しの多い科での研修を希望している設定で、親の近くに転居して育児支援をお願いして希望の診療科での研修を行うという結論や、親に引っ越してきてもらう、呼び出しの少ない科へ変更するなどの解決策が出ました。孫を預かって欲しいと娘に頼まれるが、腰痛を理由に断る父親役なども登場しました。
<事例3>
妻に国内留学の話が出た設定で、夫が育児休業を取得して妻を留学させる、留学先を近いところで再検討する、親に半年間手伝いに来てもらうなどの解決策が出ました。留学をあきらめる、という解決策はありませんでした。
 
~ロールプレイングで発表~

<先輩医師のアドバイス>
・親にはそんなに頼れない現実がある、親には親の人生がある、親もまだ現役で働いている可能性もある。親に一度、将来孫ができたら面倒を見てくれるか尋ねてみるとよい。
・診療科の選択では、やりたい科を選ぶことが大事。やりたい科の方が、結果的に継続できる。
・若い先生が子どもの看病で休まないといけない時も、お互い様だと思う。
・男性医師は育休を取得しづらい現状がある。
・研修医で妊娠している方もいる、相談を受けアドバイスをしている。
・仕事をしながら子どもも育てられるし、自分の夢もかなえられる。
・夫婦が互いに高めあえる関係性を。
 
  熱研内科 田中健之先生           熱研内科 泉田真生先生
 
 第二内科 河野哲也先生           総合診療科 中道聖子先生

 医療教育開発センター 松島加代子先生

 続いて、ロールモデル医師として2名の先生からご講演をいただきました。


講演1:腫瘍外科 松本恵先生
テーマ:「BEING A SURGEON,ACADEMIC,MOTHER AND WIFE」
松本先生の「全ての経験は何一つ無駄にはならない」とのメッセージは、これから様々な試練に挑む学生さんの支えになることでしょう。
3人のお子さんを出産、夫の留学同伴後、40歳から認定医・専門医などの資格を取得し、キャリアアップされています。
 
講演2:第二内科 尾長谷靖先生
テーマ:「我が家の卒業から現在まで」
8時間交代制で家事・育児を分担して、医師夫婦がお子さんを育てながらそれぞれのキャリアを形成してきたという、画期的なスタイルを尾長谷先生に教えていただきました。

特別講演として、九州大学大学院 医学研究院保健学部門 教授 樗木晶子先生をお招きしました。
 
特別講演:九州大学大学院 医学研究院保健学部門 教授 樗木晶子先生
テーマ:「全医療人の働きやすい環境をめざして-しなやかにきらめいて-」

 九州大学の樗木先生から、ご自身のキャリア&ライフについてと、九州大学病院きらめきプロジェクトの素晴らしい取り組みをお話しいただき、大変勉強になりました。今回講師の3名の先生方みなさんが、お子さん3人というのも奇遇でした。


 そのほか、講義前後アンケート、キャリア&ライフ未来年表、若者の意識に関する調査など盛りだくさんの内容でした。近い将来について考える良い機会になったのではないでしょうかicon_rolleyes.gif

~学生講義を終えて~
 <講義前後アンケートの集計結果抜粋>
●今年の受講者137名のうち、男子学生は102名、女子学生は35名=26%でした。
「男女共同参画」の言葉も内容も知っている割合は35%と少なく、聞いたことがないと答えた割合は27%となり、同じく、「ワークライフバランス」という言葉も内容も知っている割合は14%と少なく、聞いたことがないと答えた割合は68%という結果で、これまで4回行った講義の中で、2つの言葉と内容は一番認知されていませんでした。

●現時点での将来の不安については、講義の前後で、不安がある割合が減り、不安がない割合が増える結果は、4回とも同じでした。講義後に、講義前と比べて不安が減った・無くなったと答えた割合は41%でした。
将来に対する不安の内容としては、一番多かったのが「診療科の選択」(20%)でした。次に「勤務地」(18%)、「仕事と生活の両立」(17%)と続きました。

●「産休」「育休」の言葉は90%以上の認知度があり、男性も育休を取れることを知っているのは86%でした。講義後に、自分が育休を取ってみたい男子学生と、パートナーに育休を取ってもらいたい女子学生の割合は、4回行った講義の中で男女ともに一番多い結果となりました。

●将来の進路を決定するときに重視するもの(3つまで選択)のランキングでは、講義前後ともに1位:「仕事の内容」、2位:「やりがい」となり、4回行った講義で不動の結果です。3位から5位は講義前後で変動しましたが、「尊敬できる指導教員や指導医がいる」、「雰囲気の良い科」、「収入」が挙がりました。

●生活と仕事の両立については、講義前→後で「できる」19%→32%へ、「なんとかできそう」39%→48%へと増加して、両立への自信は80%以上になりました。「できない」「わからない」の割合はいずれも講義後に減少しているため、講義の意義があったと感じました。

●学生からは以下のような感想がありました。
icon_razz.gif今まで働く女性のことを深く考えたことはなかった。もし働く女性と結婚することになっても、日本の古い概念にとらわれないような夫になりたい。(男性)
icon_smile.gif今までどのような仕事をするかという講義が多かったので、実際に自分が働く姿を思い浮かべることができてよかったし、すごくためになった。早く働きたいと思うようにもなった。(男性)
icon_surprised.gif学生のうちから自分のキャリアをよく考えて設計する必要があるということを感じました。ロールモデルが身近にいないので、いろいろな方の話を聞けたことがとても参考になりました。他にも多くのロールモデルの生き方を聞いてみたいです。(女性)
 
<学内協力医師のコメント>
●腫瘍外科 松本恵先生
今回講義のお話を頂き、改めて自分のキャリアを確認しました。専業主婦時代などで第一線を退いていた時期が長く、臨床に戻れるとは思っていなかった数年前が嘘の様だと感じています。学生の皆さんには、とにかくいろんな働き方があり、それを受け入れる施設が増え、ますます働きやすい環境が整うと思われるので、決して辞めるのではなく、継続して働くことで医師という仕事に自信を持っていただきたいと思っています。今回私にも素晴らしい機会を与えていただき感謝いたします。
●第二内科 尾長谷靖先生
我が家の卒業から現在までの流れを話させていただいた。酒に酔って話すようなことであり、素面で話せる範囲はごく限られてはいたが、一医師夫婦のサンプルが学生さんたちの今後のイメージの役に立てたのであれば幸いです。
●熱研内科 田中健之先生
初めて参加させて頂き、自分の学生時代、研修医時代を振り返りながら、学生さんの発表を聞いていました。人生、人それぞれであり、周囲の家族環境もそれぞれが所属する職場の環境も違うので、自分だけで解決できる問題は非常に少なく、職場の上司、同僚、家族と話し合いながら解決することが重要と改めて認識しました。それと同時に、我々の立場でもこのような問題にこれから直面する機会もゼロではないので、非常に勉強になりました。
●熱研内科 泉田真生先生
私が学生の時分は、まだ院内保育園もなく、育児をして医局で働いておられるロールモデルの先生もおりませんでした。もちろん今回のような授業もありませんでした。 ここ数年で医師を取り巻く環境も大きく変動しているなと思いました。
医師も10年やってみると、個人の価値観や職業観が分かれて、一言に医師といえども自分の同期もそれぞれがいろいろな道に進んでいます。個人的には結婚や出産は、してもしなくてもいいと思うのですが、女性医師は特にいつどうなってもよいように、勉強できるときにしておく、貯金できるときにしておくということが重要だと思います。そして医者を続ける強い意思 と周囲への感謝が必要と思います。人生の岐路は思いもよらぬときにやって来て決断を迫られるのですが、その時々で精一杯やれること、やるべきこと、やりたいことをできる範囲で選んで行く作業が女性医師には多いです。今回の授業を通じて、私自身も今一度、医師としてどうしていきたいか考えるよい機会になりました。 
●第二内科 河野哲也先生
今はイメージできなくても、同級生や先輩・後輩と医者同士結婚することもあるかもしれません。医者以外と家庭を持ったとしても人生の岐路は必ずやってきます。まだ今は想像もつかないかもしれませんが、今からこのようにシミュレーションをしておくのは大変いい経験ではないでしょうか。色々考えていても、その斜め上をいくようなことが起こるのが人生です。家族や仲間と助け合ってくじけず生きていきましょう。皆さんも医者になるからには、家庭を大事にしつつも、それぞれ自分のできる範囲で世の中に奉仕できるように頑張りましょう。
●総合診療科 中道聖子先生
今回初めて参加させて頂きました。 大分の先生がおっしゃっていましたが、確かに自分が大学3年生の頃を振り返ると、結婚や家庭生活を具体的に思い描くこともなく、 ましてやそうしたシチュエーションでどういう仕事を選びどう勤務するか、ということまで考えてみたこともありませんでした。 今回の3年生は病児保育などのサポートサービスなどについて、私の想像以上に知っていました。 一方で「子供を産み育てる」ことの重み・一筋縄でいかない難しさみたいなものは、やはり実感として捉えられていない気がしました。 それでもこの時期にこのようなテーマを「一度考えておく」ことは、先々での選択において、何らかの役に立っていくことは間違いないと思います。 私にとっても、医学生が家庭生活と仕事のバランスをどのように考えているかを知る機会になり、とても意義深い時間でした。どうもありがとうございました。

<学外からご見学・ご協力いただいたみなさまのコメント抜粋>
●大分大学医学部附属 医学教育センター 教授 中川幹子先生
大分大学も今年度の新入生から、男女共同参画やキャリア教育を積極的に取り入れています。長崎大学の講義を参考にして、今年度は4年生で実施してみたいと考えています。
●大分大学医学部附属病院 腎臓内科 特任助教 中田健先生
事前に寸劇(ロールプレイ)をして、盛り上がるということを伺っていたので、楽しみにしておりましたが、期待通りの盛り上がりで、秋田大学の発表形式とは異なる教育方法を体感でき、改めて参加できてよかったと感じました。特に、ロールプレイをすることで、両親の立場、子どもの立場に立った視点を学生が確保できることを知りました。

2016年7月6日

1.<調査の目的>
病院経営者・管理者として、ワークライフバランス施策に対する認識を把握し、長崎県内病院の育児・介護休業制度等の両立支援策の取り組み状況や短時間勤務制度利用等の実態調査を行う。
毎年度継続調査を実施することで、傾向と対策とし、活動に反映させるため。

2.<対象と方法>
実施日:平成28年6月6日
調査対象:長崎県内152病院
調査方法:調査票を郵送し、同封の返信用封筒およびメール・FAXで回収。
質問内容:常勤・非常勤医師数、子育て中の医師数、職場環境の整備について、ワークライフバランス施策の認識についてなど。
調査票はこちらをご覧ください。

3.<結果と考察>
 配付・回答数(回答率):配付152病院 回答102病院(67.1%)
結果:集計抜粋グラフはこちらをご覧ください。

 今年度の調査の回答率は102/152=67.1%、長崎医療圏と県央医療圏からは、75%を超える病院よりご回答いただき、3年連続で県内100病院以上からご回答いただきました。また、これまで100病院の担当部署よりメールアドレスをご登録いただいており、そちらへ回答の再依頼も行い、業務を簡略化できました。

 長崎県内の病院に勤務する女性医師の割合は、最近4年間は22-23%で推移しています。勤務形態は、女性医師の場合、常勤55%、非常勤45%と非常勤勤務の割合が男性(非常勤割合25%)より多いという結果でした。また、今年は子育て中(小学6年生までのお子さんを養育中)の女性医師の数と分布を把握するために、各病院にその人数をご報告いただきました。その結果、子育て中の女性医師は、女性医師全体の24%でした。長崎県内の病院勤務医師全体では6%となり、子育て中の女性医師はマイノリティです。

 両立に関する取り組み姿勢については、休暇や休業制度(産前・産後・育児・介護)の周知・取得促進には半数以上の病院が積極的に取り組んでいる結果でした。質問した取り組み項目の中では、男性の家事・育児参加の奨励について取り組んでいる病院が26%と、ほかの項目よりかなり少ない結果でした。この取り組みが進むことにより、女性の社会進出が促進されるのだと思います。

 ワークライフバランス施策についての考えでは、ワークライフバランスを重視している割合が、H25年32%から徐々に増加しており、H28年は39%となっています。トップ主導で推進されている割合も、H25年18%からH28年30%まで増加傾向です。施策によるメリットでは、病院業績が向上すると考える割合が22%と4年間で最多でした。デメリットでは、病院にとって負担が大きいと感じる割合が7%と、4年間で初めて10%を下回りました。メリットを感じる割合は増加傾向、デメリットを感じる割合は減少傾向にあると思われました。

 勤務環境の整備については、仕事と生活の両立ができるように配慮した制度は、60%前後の病院に整備されていました。施設については、女性医師が利用中の院内保育施設や、院内病児保育施設があるのは、10%以下でした。日本全体として、職場内保育施設を増やそうとしている現状です。病院は、女性の多い職場です。ぜひ、施設の整備も充実していただきたいと思います。

 医師の負担軽減に配慮している取り組み事例として、一番多く回答があったのが医療クラークの配置(29病院)でした。勤務時間削減(16病院)や当直翌日の勤務緩和(15病院)が続きました。今後も、取り組み病院が増えていくことが期待されます。

 最後に、両立支援に関する意見として一番多かったのは、県北・離島では常勤医師が少なく、ワークライフバランスの取り組みが困難ということでした。今回の調査で明らかになったのは、病院に勤務する女性医師(596名)のうち35%(206名)が長崎大学病院に所属していること、子育て中の女性医師(145名)のうち半数以上の51%(74名)が長崎大学病院に所属していることでした。県内全域を考えると、極端に偏在していますが、長崎大学病院としては、女性医師のキャリア継続を可能にする環境をさらに整備していく必要性を感じました。そして日本で最多の有人離島を持つ長崎県においては、県内各地域で、女性医師・医療人をサポートする環境が整備されるよう努めてまいりたいと思いました。

icon_razz.gif調査へご協力いただきました各病院のみなさま、ありがとうございました。