長崎県上五島病院

平成24年8月、離島での現状を確認するために上五島病院の八坂貴宏院長、育児休業中の内科 友廣真由美先生、 内科医長 本田徹先生、子育てしながらフルタイム勤務の産婦人科 山口純子先生、派遣医師の長崎医療センター 産婦人科 山下洋先生の5名にお伺いしました。

●八坂院長インタビュー
●育児休業中の先生インタビュー
●内科診療科長インタビュー
●子育てしながらフルタイム勤務中の先生インタビュー
●長崎医療センターから上五島病院へバックアップで派遣されていたドクターのお話



「支援制度は利用した方がよいし、利用してもらった方が復帰につながる」

 上五島病院では、正規雇用では産前8週産後8週(パート雇用で産前6週産後8週)の休暇が取れ、育児休業は子が1年6ヶ月になるまで取ることができます。育児休業中は5割の給与(医師の場合、およそ20万/月程度)が雇用保険から支払われます。制度をつかってきちんと休むことは、復帰へのモチベーション維持にもなると思います。

「院長から提案:みんながhappyな産休・育休の取り方」
ポイント1 4月から復帰
ポイント2 あまり長く休まない。1年間程度がベスト。

 勤務形態の考慮や代わりとなる医師の確保を考えると、人事異動をしやすい4月に復帰というプランを立てるとみんながhappy。休む期間は1年間程度がよいと思います。あまり早く復帰して、不安を抱えたまま仕事をしてもよくないでしょうし、1年という期間であれば自分の勘や知識が残っている。また、復帰したときの周囲との関係も良好だと思います。だから‥‥、6~9月の間に出産というのがいいかな。

Q.上五島病院では復帰後の勤務はどのような形態が可能でしょうか?

「夜勤のない時短勤務が可能」
 復帰する際には、短時間正規雇用制度の利用をお勧めします。いわゆる「時短」です。時短は1日6時間勤務の正規雇用で社会保障(健康保険、雇用保険等)が充実しているのがメリットです。6時間勤務は難しいということであれば、非常勤雇用でももちろん対応できます。
上五島病院は附属診療所(有川医療センター、奈良尾医療センター)があるので、復帰してしばらくは夜勤のない診療所で短時間正規雇用として勤務し、週1~3回上五島病院の外来ということが可能です。
実は、そういう形で勤務してもらえると大変たすかります。医師数が少ない中、附属診療所もカバーするためには、卒後3~4年目の後期研修医も含めて対応せざるを得ないという状況があります。しかし、後期研修医の時期は、できればある程度大きな病院で経験を積んだほうが望ましい。そのため、有川医療センターなどで外来を受け持つ医師が一人でも多いということは、大変メリットがあります。
病院で働く場合も、夜間や休日は長崎や東京からもバックアップしてもらっていますので、当直免除で働くこともできます。
その他、さまざまな勤務形態が可能です。例えば、島外に住んでいるのであれば、日帰りで来て検診業務や診療所の外来業務。移動には今年から運行している医師派遣ヘリコプターの利用も可能です。

Q.最後に、女性医師の就労支援など、医師のワークライフバランス支援の経営上のメリットについて、どのようにお考えでしょうか?
 医師不足の中での医師確保、医療法上の医師定数確保が期待できます。女性医師が働くことで女性患者への医療サービスの向上も期待できます。上五島病院ではまだ実現していませんが、女性外来など、人生経験を積んだ女性医師が活躍する場になるのではないでしょうか。

(上五島病院 院長 八坂貴宏先生)



Q.いつから産休にはいられましたか?また、産休に入る前に準備されたことはありますか?
 産休は4月1日からでした。年度代わりで後任の医師に引き継ぎしやすいことと、ちょうど出産予定日の6週前だったことがその理由です。
準備と言えるかわかりませんが、妊娠が確定したらすぐに院長に報告しました。病院は10月頃から次年度の人事(医師の確保)に動き出します。自分が産休・育休を取得することで、他の医師の負担が増えないよう体制を考えてもらう必要があるので、早めに上司に報告することが大切だと思います。人事等を考えると、年度代わりの4月から産休に入って4月に復帰するのが良いので、ある程度計画的に妊娠・出産する方が良いようです。先輩女性医師からそのようなアドバイスを受けたこともあります。

Q.育休はいつまで取られる予定で、どういった形での復帰を考えておられますか?
 産休終了後、7か月間育休を取り、来年4月からの復帰予定です。復帰形態は、一日6時間×週5日間の短時間勤務で、土日と夜間当直フリーを希望しています。これは第1子出産後の復帰時と同じです。正規雇用ではありませんが、健康保険などの社会保障はあります。

Q.上五島病院での支援を紹介してください。
 院内託児所があり、夜間保育・病児保育も行っています。以前は夜間保育や病児保育はなかったのですが、託児所利用者の要望によって、少しずつ託児所のシステムは改善しているようです。最近では1年ほど前から、病児保育の子の処方を、院内処方にしてもらうことができるようになりました。病児保育利用時は、託児前に小児科の診察を受ける必要があります。診察後、就業中に院外薬局まで行くことは難しいので、院内処方だととても助かります。

Q.こういった支援があったらいいというご意見は?
 上五島は離島ということもあり、慢性的に医師、看護師等の医療者が不足している状況です。周囲に気兼ねなく、産休・育休や介護休暇等を取得できる環境を整えるためには、女性医師に限らず男性医師やコメディカルスタッフ等、誰もがより働き易く、また必要なときに休むことができる職場作りが必要だと思います。そのためには、更なる人材の充実(常勤スタッフの増員や短期派遣スタッフの充実)が望まれます。県ぐるみでの人材支援があれば良いと思います。

Q.女子学生の中には結婚・出産などで臨床医として働くことに不安を持っているという声もありますが、先生はいかがでしたか?
 学生時代は特に結婚を意識していませんでした。前もって計画してもその通りになるとは限らないですしね。本人の働く意思があれば、仕事を続けることはできると思います。どういう働きかたをしたいかという自分の意思を伝え、病院側との交渉で個々に対応してもらう必要があります。また家族(特に夫)の理解、協力も不可欠だと思います。

Q.学生など後輩へのメッセージをお願いします。
 出産・子育てをしながら、同期の男性医師と同じようにキャリアを積むことはなかなか難しいことと思います。技術や知識では休業中に遅れをとることもあるけれど、子供の扱いが上手になったり、母親の気持ちに共感できるようになったりと、出産・育児の経験が臨床現場で活かせるメリットもあります。私自身、将来のキャリアプランはまだぼんやりしていて現在も模索中ですが、仕事も私生活も、無理なく楽しく充実した日々が送れるようにしたいと考えています。何を目標とし何を優先するかは個人個人で違いますが、医師を志した初心を忘れずに、お互い頑張っていきましょう。

(上五島病院 内科 友廣真由美先生)

 上五島病院 内科では、子育て中など家庭の事情で医師一人分として働けない場合は、+αの人員として働いてもらっています。+αとして自分ができることをやってもらう。それは外来であったり、検査であったり。それで本人のやりがいを感じるかは個人によってちがうだろうが、やることはたくさんあります。もともと、マンパワーぎりぎりのところで皆が仕事をしているところでは、急に仕事ができなくなったときのバックアップをすることは困難。
+αとしての働きは、医師1としての働きではありませんが、+αの存在が全体の医療の質をあげることに大きく貢献できます。+αの存在は重要。

 上五島病院では、産休・育休をとることに全く違和感はないと思います。産休・育休後に復帰するのは勤労者として当然のことだと思っています。復帰後の働き方についてはそれぞれになるでしょうが、県の奨学金をもらっている人は義務年限があるので、義務を果たせる就労形態にしておいた方がよかったりすることもあります。

 男性の育児休暇は現実にはとりにくい環境ですが、とりたい人がいればとらせてあげたい、とくに子供が小さいうちは。医師のワークライフバランス実現はかなり困難な現状。そもそも日本の社会全体がワークライフバランスがなってないですね。

 内科としての取り組みは完全主治制をゆるめて、土日休日の当番制を導入しています。土日休日は患者の引き継ぎをして当番の医師が診る。人数が少ない中での当番制も大変なところがあります。

 患者さんとしては主治医に週末も病院に来てほしいという要望があるし、主治医も、自分が主治医だからという思いが強く、土日も責任感のもと来るいう傾向もあります。土日は当番制なので来なくて当たり前という社会になってほしい。当番でもないのに何で来ているの?と変に思うくらいメリハリがつけられる社会になっていかないと、ワークライフバランスの実現は難しいのでは。母親の子育ては社会として優遇されるべきものでありますが、その子育て・家族とのふれあいを犠牲にして働いている社会人が多い現実からも目を背けられないですね。子育て中の女性医師だけ優遇されるような仕組みはおかしいので、男性医師、子育て中でない女性医師も含めた医師全体のワークライフバランス実現に取り組んでほしいです。

(上五島病院 内科医長 本田徹先生)

 
 妊娠中は、つわりもありましたが、仕事上特に支障なく経過していました。妊娠5か月で切迫早産のため、緊急搬送となり、そのまま病休・産前休暇を取りました。産後は7か月で復帰。復帰後3か月間は外来のみの担当(1日6時間勤務の正規雇用)をしました。この4月から完全にフルタイム勤務です。産婦人科は2名体制なので、ひと月の半分はオンコール当番です。夜間に帝切が入ると、オンコール当番でなくても出勤になります。授乳時期中のオンコール対応は大変でした。

 夜間オンコールで病院に呼ばれたときは、夫が子供をみるわけですが、授乳中はいない間ずっと泣き続けることもあったりと大変でした。夫が麻酔科医なので、二人同時に呼ばれることもあります。上五島病院では、24時間保育がありますが、オンコール保育もあり、緊急対応時に随時対応してくれる保育士さんがいます。今まで2回オンコール保育士を利用することがありました。

 現在の働き方は大変ではあります。特に子供の発熱などは突然おこることも多いので、仕事中に連絡が来ることもあります。病児保育もありますが、子供の体調が悪いときは預けるのもかわいそうです。子供が熱を出しやすい時期でもありますので、今は、自分か夫の両親に上五島に来てサポートしてもらっています。

 職場も大変な状況は理解してくれていて、フルタイム復帰になった最初の3か月間は、長崎医療センターから1週間交代で産婦人科医が応援に来てくれていました。最近は、月に何回かはオンコールフリーになるように、長崎医療センターや地域医療振興協会(東京)から上五島に産婦人科医が週末に応援に来てくれています。離島の病院ですのでマンパワーが少ない中で皆働いているため、人手のある病院のように子育て中はオンコール・当直免除ということは無理な状況です。

 どのタイミングで子供を持つかは、本人の考え方によるとは思いますが、ある程度キャリアを積んでからの方が、技術的な意味でも精神的な意味でも自分にも余裕ができるのでメリットがあると思います。私は、研修後3年間外科で勤務し、1年間産婦人科の研修を受け、今産婦人科3年目なので、卒後9年目です。外科系は体で覚えるという面もあるので、早いうちにある程度キャリアを積みたいと思いました。自分でもそろそろ子供を持ってもいいかなと思えたのがこの時期です。早いうちに子供を持ってその後キャリアを積むという選択もありますが、子育てしながら技術を身に付けるというのは、精神的に余裕がなくなってしまうのではないかと思います。しかし、キャリア志向が強すぎると、もう少しもう少しと思っている間に子供をもつタイミングを逃してしまうかもしれないとも思います。私とは逆に、早いうちに子供を持って、その後キャリアを積まれている先輩もいますので、やはり本人の考え方次第だと思います。

 ライフプランとしていつ出産しようか考えるというのは女性医師だけでなく、日本人みんなが若い時から考えてほしいと思います。現在、晩婚化・晩産化が進んで、不妊症の患者さんも増加しています。不妊外来で、年齢が高齢になるにつれ妊娠の可能性が低くなるということをはじめて知った、という方もいました。性教育では、どうしても避妊に焦点がいきがちではありますが、不妊症についてなどのライフプランを考えるための知識を教える必要があるのではないかと思います。もちろん若年者に増加している子宮頸がんなど、婦人科疾患の知識についてもです。子供は本当にかわいく、まさに子宝とはよく言ったものだとおもいます。たくさんの宝にであえる産婦人科医という職業はとても幸せだと思っています。仕事と育児の両立は本当に大変ですが、これからも頑張っていきたいです。

(上五島病院 産婦人科 山口純子先生)

 長崎県病院企業団の離島病院のドクターが若手中心ということもあり、長崎医療センターから上五島病院へ交替で診療応援をしています。今は復帰されていますが、子どもが小さいうちは大変な面も多々あるので、上五島病院の院長や他のドクターとも、診療応援が必要か相談をして対応するようにしています。
妊娠中は個人差があって、妊娠していても全く変わらずはたらける人や、つわりがひどい人など様々。産婦人科には、男性医師以上に元気な女性医師の方が多い印象です。そのような妊娠していないときには男性医師以上にタフな印象の元気な先生達ですが、マスクと術衣をつけて長時間立ったまま手術に入り倒れた女性の先生達がいました。妊娠による影響で循環動態が大きく変化したために起こったことと推測されます。
しかし、妊娠中ということで当直などのdutyを免除しようとすると、それ自体を嫌がるドクターもいます。看護師さんのように妊娠したら○○週で産休、○○業務は免除など明文化したものが医師にはないですよね。本人の希望を尊重して個別に支援をしているのが現状です。ただ、明文化したほうがいいのかどうか。仕事を制限されることが不本意な医師もいるので、難しいところです。
母子手帳についている主治医が書く情報提供カード(母子健康管理指導事項連絡カード)は医師という職業柄、実際は活用しにくようです。

 妊娠という体の状態は通常とは大きく変わっていること。どの程度働けるのか個人差がかなりあるということ、それを本人と周囲が理解することが必要です。同じ妊娠中でもあの人はできて、この人はできないというようなことが起こるのは当然です。
妊娠○週以降は○○を免除など、支援体制を明文化できるか(した方がいいのか)、また支援体制をとれる人員がいるかというところが課題ですね。周囲も負担を感じないように支援体制を組めればいいのですが。また、産休・育休後にどう復帰するのか、道筋をつける支援も必要ではないでしょうか。

(長崎医療センター 産婦人科 山下洋先生)

長崎県上五島病院
地域就労支援病院

インタビューにご協力いただいた皆様、お忙しい中ご協力ありがとうございました。
(メディカル・ワークライフバランスセンター)

 

 

 

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