日時:平成25年9月6日(金)9:50~12:00
場所:ながさき看護センター
公開研修:看護職のワーク・ライフ・バランス推進ワークショップ
講演:ワーク・ライフ・バランスの基本的な考え方「あなたが変える、組織が変わる」
講師:熊本大学医学部附属病院 医療の質管理センター
副センター長 菊池 健 准教授
長崎県看護協会では、看護職の皆さんが、ライフイベントも含め生き生きと活躍し続けるための取り組みとして、2011年度から「看護職のワーク・ライフ・バランス推進ワークショップ」を実施しています。今回はその一環として、熊本大学の菊池健准教授による公開研修が開かれ、当センターも参加してきました。
<幸福度の高いデンマーク>
国民の幸福度ランキング(2006年レスター大学調査)によると、1位はデンマーク、日本は90位。デンマークでは税負担が大きい分、国のいろんな支援策によって幸福に暮らすことができているようです。デンマークの出生率の変化をみると、25年前は日本と同じくらい低いレベルだったとか。そこから一気に上昇に転じた実績から学ぶことができれば、日本もまだ望みがあると言えるのかもしれません。
<日本では>
厚生労働省は、平成23年から看護師等の「雇用の質向上」を政策として掲げましたが、25年からは医療分野に関わるスタッフ全体へと対象範囲を広げています。行政による補助制度など、支援体制は徐々に整備されていますが、時限的な制度も多いので、早めに情報収集して取り組むことを勧められています。
<ワークライフバランスに取り組むメリット>
ワークライフバランス(WLB)という言葉について、菊池先生は「ワクワク・ライフ・バンザイ」と言い換えて表現されました。ワークライフバランスの施策に取り組むことで、「私生活が充実(やりがいや夢の実現)」⇒「離職が激減」⇒「仕事の質向上」⇒「安全・経営の向上」⇒「人材が集まる」…という好循環(幸せの連鎖)が起こるといいます。保育施設の設置など、いきなり大きなことに取り掛かる必要はなく、いまの状況で可能なことから着実に取り組むことがポイントだそうです。
<ワークライフバランス推進のためのアクション>
取り組みを進めるために、5段階のアクションがあります。
① 推進体制づくり
推進チームの結成に当たっては、一般に「院長主導型」「人事・事務主導型」「看護部主導型」のパターンが多く見られますが、最終的には部門横断的なメンバー構成になるようです。何のために活動するのか(ミッション=使命)、3年後・5年後・将来どうなりたいのか(ビジョン=将来構想・展望)―を明確にすることが重要だそうです。
② 現状分析
日本看護協会で開発された「看護職のワーク・ライフ・バランスインデックス調査」を利用することで、病院内部における制度や人員の状況把握が可能。一方で、施設を取り巻く外部環境についても、情報収集しておく必要があります。ウェブ上でも医療を取り巻くさまざまなデータが公表されているので、年に1回は調べておくべきだといいます。収集データをもとに、SWOT分析などの手法を用いて、病院の強みや弱みを把握します。
③ 計画の作成と実行
分析結果をもとに、具体的な施策を考え、優先順位をつけたうえで年間計画を立てます。ゴールの設定に当たっては、プロセスを小さなステップに分けるとともに、進捗状況をすぐに確認できるようにすることが、成功のコツだそうです。
④ 多様な勤務形態の実施
短時間正職員制度やワーク・シェアリング、勤務時間帯の調整など、様々な勤務形態を試行していきます。保育費やベビーシッター費用の補助、育児・介護休業中の有給化といった、経済的支援の導入も考えられます。新しい試みに問題はつきもの。大らかなスタンスで、試行錯誤しながら微調整を図っていくのが望ましいということです。
⑤ 評価と改善
患者さんの容体管理が年に1回だけでは済まないのと同様、病院組織の「体質管理」も毎日、毎週…といった定期的なペースで行うことが重要だといいます。改善の取り組みを継続させるためには、進捗状況を「見える化」して職員みんなで共有するとともに、院長をはじめとしたリーダー層が、取り組みのつど感謝の意を伝えていくことが大切だということです。
<具体的な取り組みのアイデア・工夫の例>
①ブレーンストーミングの活用
調査結果から見えてくる問題や課題、良い点について、具体的な事例をカードに書きながらどんどん出し合う方法。ポイントは▽どんなことを言ってもOK(逆に流れを遮るような発言はNG)▽「どこの、誰が、いつ、どんな時に…?」と具体的に掘り下げていく▽ここ1~2カ月に起こった最近の出来事に絞ること。発言者にとっては難題でも、違う立場の人から見れば簡単に解決することはよくあるそうです。課題を客観的に「見える化」することが、改善をスムーズにする秘訣のようです。
②会議時間の短縮 会議が長時間になることが問題になり、通知のみの案件はメールや掲示物等で済ませることに。議論が必要なものだけ会議にかけることにしたら、15分前後で終わるようになったそうです。短時間で終わるという評判で、会議参加率も高まったという嬉しい効果も。
ワークライフバランス実現への具体的な取り組みについて、菊池先生から詳しく紹介していただきました。このワークショップには、本年度から長崎記念病院と長与病院が新たに加わるということで、今後の取り組みの成果が楽しみです。病院間でノウハウや意識を共有し、一緒になってワークライフバランスの取り組みを広げられるといいですね!