
私たちのワークライフバランス実践術 No.32
とびだせ!ジャパン編(2)
家庭医診療所 家庭医 山内 洋子 先生(40代)
〈オーストラリア人のパートナーと中学生の子ども〉
『自由度の高い働き方・休み方ができます』
2026年4月14日インタビュー
<略歴>
●長崎県出身、医学部5年生の夏休みに東南アジアを旅行中にパートナーと出会う。長崎大学医学部卒業後、オーストラリアにワーキングホリデービザを利用して1年間滞在
●帰国後、他県の病院で研修医(新制度開始前)として約1年半ローテーション勤務後、退職・結婚して渡豪、年2-3回日本に戻り求人サイト経由で健診のバイトを行う
●渡豪後3年目オーストラリアの医師免許を取得
●3年間、病院勤務(うち1年間は産休・育休)して、一般内科・一般外科・整形外科・産婦人科・小児科・救急部をローテーション
●4年間、家庭医(General Practice:GP)のトレーニングプログラムに参加して、週3日パートタイムで働きながら、家庭医専門医を取得し開業
●現在は、子どもの学校のために転居して、開業し3年目
Q1. 普段の生活、1日のスケジュールはどのようにお過ごしですか?
A1. 朝6時に起床して、朝食や子どものお弁当の準備をして、8時に家を出ます。車で子どもを学校に送って職場に向かい、8時半から勤務開始です。13時半頃まで外来を行い、14時半まで書類作成等を行った後退勤。子どもの学校が15時に終わるので、迎えに行き自宅に帰ります(徒歩圏内だが、車での送迎が主流)。
それから、夕食を作ったり、散歩や子どもの勉強をみたり、習い事(ビオラ・バスケットボール・ゴルフ)の送迎をして親業をしていますね。私も横でゴルフの練習をして…のんびりしています。年が離れた夫は隠居生活でゴルフを楽しんでいます。
夕食は日本食が多いです。就寝は21時。家庭では、私が子どもに日本語で話しかけて、子どもは英語で答えますね。日本語も流暢に話せるバイリンガルに育てるのは難しいです。自宅のあるサンシャインコースト市(東部ブリスベン近郊)には日本人学校があり、週末は通っていました。今住んでいるマッカイ市(北部)からも、月1回は通っています。

Q2. 日本の医師・医療体制との相違点を感じますか?
A2. オーストラリアの家庭医GPは自由ですね。自分の好きなように勤務時間を決めることができます。私は、月曜~金曜で働いていますが、基本は子どもが学校に行っている時間帯だけ働いています。これは、プライベート保険会社などの企業や、医師が運営している診療所を間借りして個人開業する形態(Contractor GP)で、診療報酬の7割は私の報酬、3割を運営会社に納めます。
運営会社からは、部屋と、看護師と受付担当者も手配してもらえます。今の診療所には4人の医師がそれぞれ開業していて、看護師1-2人・受付1-2人を共有しています。報酬の3割を納めますが、人を雇う手間がなく、家賃も支払わずに済むので楽です。経営者にならないので、好きなように働き、休めます。
同じ診療所のインド出身医師は、週7日、朝8時~18時まで働いて、翌週7日休みを取るとか。私は、子どもの学期毎の休みに合わせて、年間3か月半位は休んでいます。基本、予約制診療なので、患者さんも困りません。今も2週間の休診中ですが、薬が切れないように事前に調整しました。
病院勤務医の場合、6週間の休みは取れますが、他の医師との調整で、好きな時に必ず取れるわけではないようです。その代わり自身の病気などで突発的に休んでも、給与は保証されますね。開業医の私は全く何も保証がないので、休んだ分、収入は減ってしまいます。
自分で診療所を運営する医師や、共同で運営する医師もいますが、間借りして診療を行う(Contractor GP)医師は多いですよ。だから、引っ越しても同じ診療スタイルで開業できます。こういう気楽さが日本にもあるといいですね。
日本人は真面目で勤勉です。患者さんが5人以上並んで待っていたら、早く診て、治してあげなければと、私も日本では一生懸命になっていましたが、こちらでは状況に構わず、休憩時間は確保します。
救急外来では、トリアージされて、緊急度が高くないと判断されたら、2-3時間待たされます。病院の救急部は無料で診察してくれるので、救急部を受診する人がすごく多くなり、国の政策で家庭医GPでも無料で診察してもらえる制度Bulk billing(バルク‧ビリング)が推進されるようになりました。
国が補助するので、無料で診る診療所も増えてきました。私も無料で診ることがあります。これで救急部の混雑の解消と、患者さんの受診控えが解消されることを目指しています。
Q3. 滞在国でのやりがい・大変なことは、どんな所ですか?
A3. 家庭医GPは楽しいです。日本ではまだ主流ではないと思いますが、広い領域の疾患を診察できるとことに、やりがいを感じます。日本だと、子どもの診療や乳児検診は小児科、耳が痛かったら耳鼻科、子宮がん検診は産婦人科、メンタルに不調があれば精神科を受診しますが、こちらのGPはそのすべてが対象です。日々様々な疾患の患者さんを診察するのが、楽しいですね。
日本人医師として、日本人コミュニティに還元できていると感じるのも、嬉しいですね。サンシャインコーストには1,000人程度の日本人が在留していると聞きました。
大変に感じるのは、何気ない雑談のリアクションですね。笑いどころがわからない、笑っているけど、「面白い話だったの?」みたいなことがありますね。
Q4. これまで一番悩んだ時期は?
A4. オーストラリアの医師免許を取得するのに、英語の検定試験が難しくて、4回落ちた時には悩みましたね。IELTSがイギリス英語圏で主流の試験ですが、なかなか合格できず、その頃が一番悶々としていました。
そこから、OET(医療従事者用英語能力試験)に切り替えて受かりました。最初からそちらにしておけば良かったのですが、受験料がIELTSより数倍高かったので、ためらってしまって…。
Q5. ストレス解消法を教えてください。
A5. 定期的に休暇を取ること。あとは音楽、ビオラを弾いたり、ピアノを始めてみたり。大学生の時はオーケストラに入っていました♪ 水泳、散歩と、体も動かすようにしています。


Q6. 子育てと仕事を両立するときの、家事の時間短縮策はありますか?
A6.食事はシンプルに、すぐに食べられるものをストックしておく。食洗器は備え付けであります。ロボット掃除機も使いますが、掃除を週に1-2回など、外注している人は多いですね。
Q7. 子育てから学んだことはなんですか?
A7. 思い通りにならないことばかりなので、臨機応変に、流れに身を任せることですね。日本人の「ママ友」には感謝しています。子どもの通う日本人学校でいろんなバックグラウンドのママ友と出会って、お互い助け合いました。
幼稚園時代から長いお付き合いのママ友に、子どもを預けて、夫婦で外出することもありました。うちの子のことをよくわかってくれているし、子ども達は幼馴染と遊べてハッピーでした。今いるマッカイでは、スリランカやインド出身のママ友もいます。いろんな職種、国籍のママと知り合えて、面白いですよ。
Q8. 日本のもので、恋しいものといえば、なんですか?
A8. 温泉と温泉旅館ですね。オーストラリアには水着で入るスパはありますが、ちゃんと裸で温泉に浸かって、食事は上げ膳据え膳で、ふかふかのお布団で眠るのは、いいですね~。
あとは、便利なコンビニですね。帰国するたびに新商品が出ているし、コンビニスイーツは最高です!
Q9. 今後の人生設計について、どのようにお考えですか?
A9. 日本に住むことは考えていないですね。日本の家族に会いに行って、旅行はしたいです。子どもが大学生になったら、自由に、働きながら旅行したいなと思います。
オーストラリアの医師免許が使える国があるので、他の国でも仕事をしながら、生活してみたいと思います。
Q10. これから海外において、仕事とライフイベントを両立しようとする皆さんへ、応援のメッセージをお願いします。
A10. 是非、海外進出に挑戦してほしいです。オーストラリアのワーキングホリデービザ(18~30歳まで)はとても有意義な制度なので、医師として以外でも、若い頃に少し別の目的で来ても、プラスの経験になることしかないと思いますよ。私は、農園で働いて、ピーマンの収穫等をしていました。
学生の頃から海外で働きたいと思っていました。卒業後、医局に入ってずっと働く自分が想像できませんでした。あまり考えずに歩んできた感じですけど、自分のやりたいことをやって、多国籍のいろんな人と触れ合うのは楽しいので、おすすめですよ。
<センターより>
オーストラリアに移住して約20年、今はお子さんとの時間を大事に、お子さんのスケジュールに合わせた働き方をしておられる山内洋子先生。その自由度が家庭医の魅力だと言われます。
しかし、家庭医に女性が多いわけではないので、女性の医師であることで、子宮頸がん・乳がん検診などは、患者さんがかかりやすくて、ありがたいと言われるそうです。
多国籍の国で、自由な働き方で、生活を楽しみ、将来はいろんなところで働きながら、生活してみたいという夢も、実現されることでしょう。そして、この間借りの開業制度、日本でも普及するといいですね。