1.<調査の目的>
男性医師が育児休業を取得し、その後の生活や仕事への影響の有無、具体的な感想などを調査するとともに、取得の妨げとなっている意識・状況を把握して、今後の取得推進に活用する。
2.<対象と方法>
実施日:2025年2月
調査対象:「あじさいプロジェクト」活動で知り得た、2010年~2024年2月までに育児休業取得経験のある、長崎県内勤務の男性医師43名
調査方法:Googleフォームでアンケートを作成し、メール、または所属する診療科や勤務先病院のワークライフバランス推進員を経由して、協力を依頼した。
質問内容:育休取得の時期、期間、取得後の影響の有無、取得推進のために必要なことなど。
3.<結果と考察>
配付と回答数(回答率):配付43名 回答39名(回答率90.7%)
1)取得時の所属診療科39名:大学病院(以下★印)32名、県内他院(以下◆印)7名
① 内科12名
【内訳:循環器内科4名、消化器内科3名、感染症科3名、呼吸器内科2名】(★11名◆1名)
② 外科6名
【内訳:心臓血管外科4名、移植消化器外科2名】(★6名)
③ 泌尿器科5名(★5名)
④ 整形外科3名(◆3名)
⑤ 総合診療科3名(◆3名)
⑥ 救急科3名(★3名)
⑦ 放射線科3名(★3名)
⑧ 産婦人科2名(★2名)
⑨ 小児科1名(★1名)
⑩ 皮膚科1名(★1名)
⇒救急が多く、忙しい診療科の方が、取得率が高いのか?腎臓内科やリウマチ膠原病内科は、常々ワークライフバランスが整っているのかもしれない。心臓血管外科は三浦崇教授、泌尿器科は松尾朋博ワークライフバランス推進員が、旗振り役として積極的に推進しているため、効果あり。
2)何番目のお子さんの時に取得したか:複数回答可・計41名
※2回取得が2名(いずれも1人目と2人目)、他37名は1回のみ取得
①1人目 18名
②2人目 16名
③3人目 5名
④4人目 2名
3)育休取得年度:複数回答可・計41名 ※2回取得が2名
①2010年 1名
②2017年 1名
③2019年 2名
④2020年 2名
⑤2021年 6名
⑥2022年 13名 ←介護・育児休業法 改正
⑦2023年 10名
⑧2024年 6名
⇒法改正後に取得人数が増加し、取得しやすい環境になっていると思われる。2024年度は年度途中のため対象者がやや少なく、回答数が少ない。
4)育休期間:複数回答可・計41名 ※2回取得が2名
①1日 3名 [1日育休]
②1週間±2日 7名(5日3名、1週間3名、9日1名)
③2週間 13名
④3週間 3名
⑤1か月 11名
⑥2か月 4名(1か月×2回分割取得1名を含む)
5)親子関係への影響があったか:はい 26名(67%)、いいえ 13名(33%)
6)どのような影響があったか(まとめ) ※すべて好影響のみ
①育児への理解、積極的に参加する意識付け、当事者意識・父親の自覚、責任感
②愛着形成・絆・スキンシップ・コミュニケーション・子どもからの信頼、
父親の存在感、子どもとの時間が増える
7)夫婦関係への影響があったか:はい 34名(87%)、いいえ 5名(13%)
7-1)どのような影響があったか(まとめ)
①育児を協力して行う認識を共有して、良好な夫婦関係が築くことができた。
②育児を協力して行うことで、よりよい育児ができた。夫婦で共有できる思い出深いことが増えて、絆が深まった。
③家事を協力して行うことで、夫婦のコミュニケーションが増えた。家庭内で感謝の言葉が増えた。心の余裕が生まれて有意義な時間が過ごせる。
④家事・育児の負担が偏らない。積極的に行うようになった。料理をするようになった。
⑤妻の負担軽減ができた。妻の大変さがわかり気遣えるようになった。妻の睡眠時間減少をカバーできた。
⑥お互いの大変さが理解し合えるようになった。絆が深まり喧嘩が減った。お互いに気を配れるようになった。家族関係が良好になった。
⑦もし取得していなかったら、妻の不満が溜まっていたと思う。夫婦関係が悪化していたかもしれない。
8)今の働き方への影響があったか:はい 19名(49%)、いいえ 20名(51%)
8-1)どのような影響があったか(まとめ)
①育休後はメリハリ・オンオフをつけて働く、スイッチを切り替える、無駄な在院時間を作らないように意識するようになった。早く帰るようになった。
②職場に育児と関わる姿勢を知ってもらえた。
③急に不在になっても問題が起きないように、チームでの共有体制を意識するようになった。
④同僚に育休取得を勧めるようになった、他の人が取得するときには協力したいと思う。
⑤休んだ分、出勤した日にやることが増えた。
⑥休日は以前より家族との時間をしっかり取るようになった。子どもと過ごす時間を優先したいと考えている。
⑦小児科医として多角的な視点を得られた。
9)職場環境に影響があったか:はい 15名(38%)、いいえ 24名(62%)
9-1)どのような影響があったか(まとめ)
①育休は当たり前、普通という風土ができてきた。
②育児・家庭に配慮していることを周りが理解してくれるようになった。子どもの発熱・行事で休みやすくなった。
③周りも育休が取りやすくなった、休みが取りやすくなった。
④不在者が出ても、仕事に悪影響が出ないように、チームでスケジュールを共有して補うようになった。
10)今でも主担当する育児があるか:はい 22名(56%)、いいえ 17名(44%)
11)今でも主担当する家事があるか:はい 22名(56%)、いいえ 17名(44%)
12)今でも感じるメリットがあるか:はい 34名(87%)、いいえ 5名(13%)
13)今でも感じるデメリットがあるか:はい 2名(5%)、いいえ 37名(95%)
13-1)デメリットの内容
①育休後に休みが取りにくかった
②世間の風当たりが良くなかった
14)男性育休について、施設・職場の状況に当てはまるものをすべて選ぶ:複数回答可・多い項目
①28名「育休中の仕事を代替人員なしで同僚がこなさなければならず、同僚の負担が増える」「育休を取れば同僚への負担が増えるという懸念がある」
②19名「取ったとしても長くない」
③14名「育休は希望すれば取れるオプションの一つにすぎないと見なされている」
④12名「育休中の仕事を誰がどのようにこなすかを育休取得者自身があらかじめ考えなければならない」「上司や管理職が育休をあまり取らない。同僚の男性医師で育休を取る人が少ない」
⑤11名「男性の育休取得の旗振り役がいない」
⇒他はすべて数名以下で「管理職ではない医師は、育休を取ることで、人事にマイナスの評価されやすくなるのではないかと心配している」は1名だけであった。
15)意識醸成も体制づくりも進んでいない病院・診療科の問題を解決して、男性育休の取得を推進するためには、何が必要だと思うか
①11名 人材確保、医師数の確保
② 7名 職場の意識改革・理解・助け合い
③ 7名 取るのが当たり前とする、まずは取らせる
④ 6名 職場の体制つくり:業務の分担・削減・効率化、タスクシェア・シフト
⑤ 4名 上司の理解・声掛け
⑥ 2名 制度の周知・積極的コマーシャル
⑦ 2名 職場の同僚や職場へのインセンティブ
⑧ 1名 育休中の給与アップ、育児休業ではなく育児専念期間に名称を変えて「休み」と言わない、病院(職場)ごとの対応・解決にならないような法整備
<総括>
調査結果より、今後の男性育休のさらなる推進のために以下の2点が必要だと考える。
①意識改革:男性が育児休業を取得することは、女性と同様に「当たり前」であると、管理職・同僚・職場のスタッフなど全員が認知する。
②働き方改革:欠員をカバーする体制がきちんと整備され、数日間から長期間にわたって不在でも、偏っただれかに仕事のしわ寄せがいかない。
働き方改革の目標の中の1つとして掲げることで、子育て世代の働きやすさも整備され、職場と家庭の幸福度が上がり、良い波及効果が見込めると考える。