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長崎大学医学部3年生『医と社会』授業で、学生キャリア講習会を行いました

2017.07.12

『医師としてのキャリア継続のため、ワークライフバランスの考え方を知るとともに、医師としての多様な生き方を学ぶ』ことを目的として取り組みました。
日 時:平成29年7月3日(月)8:50~16:10
長崎大学医学部医学科3年生(男性78名、女性34名 合計112名)の「医と社会」教育の一環で実施。

講義風景

伊東昌子センター長が「医師にとってのワークライフバランスとキャリア形成を考える」と題して講義を行いました。

伊東 昌子 センター長
長崎大学 副学長/長崎大学 ダイバーシティ推進センター センター長・教授/長崎大学病院メディカル・ワークライフバランスセンター センター長

続いて、<ロールモデル医師の講演①>として、長崎大学病院検査部講師の長谷川寛雄先生と、長崎県福祉保健部医療政策課医療監および長崎県五島保健所所長の長谷川麻衣子先生のご夫婦にそれぞれご講演いただきました。

ご夫婦とも、他県出身で、琉球大学在学中に知り合われたそうです。進路選択や今長崎ではどのような仕事をしているのかをお話しくださいました。寛雄先生からは、「すべて計画通りに行くわけではないが、柔軟に対応していけばなんとかなる」というメッセージをいただきました。麻衣子先生は、お子さん3人の子育ての苦労を感じさせないパワーで、行政の公衆衛生医師として、いろいろなプロジェクトを遂行されておられます。(ご講演後は防災訓練に参加されたそうです)。仕事のために、就労場所にはこだわらず、外部サポート(夕食づくり等)を頼みながら、家族5人で充実した生活を送られていることは素晴らしいと感じました。寛雄先生と麻衣子先生の益々のご活躍を期待しております。

長崎県医師会にもご協力をいただいており、常任理事の瀬戸牧子先生から、日本医師会の「ドクタラーゼ別冊~医師会のことをもっとよく知ってもらうために~」の配布と医師会活動のご紹介がありました。

長崎県医師会 常任理事 瀬戸 牧子 先生

<グループ討論>
仕事と育児の両立を目指す共働き夫婦が、問題に直面した時にどのように解決していくかを、グループに分かれて討論しました。事例ごとに、1グループにロールプレイングで発表してもらい、他のグループからは相違点などを発表してもらいました。ロールプレイングの発表では、夫婦や上司など役のシチュエーション・セリフを考えて楽しく演出していました。印象に残ったのは、保育を外部サポートに頼む場合に、「お金に物を言わせて・・・」と表現する学生さんが複数いました。「日本では、ベビーシッター文化がなかなか根付かない」といわれてきましたが、いまだ容認されていない社会の一面をみたような気がしました。

<事例1のロールプレイング発表>
子どもが熱を出した時の設定ですが、夫婦それぞれが仕事で大事なイベントのある日でもあり、夫婦の上司や同僚に相談しても、代行は引き受けてもらえず、休みはもらえませんでした。しかし、妻の上司が病児保育施設を勧めてくれ、利用することで夫婦ともに仕事を休まずにすみました。さらに、別の展開として、休まず何とかするよう言い放った夫の上司が、同じ理由で休みたいという連絡が入った際に、夫がその上司に病児保育施設のことを教えてあげるという面白い結末もありました。このグループは、「再発防止策」も議論しており、①日本独特の悪しき伝統の固定観念を持つ上司(社会環境)の意識改革②同僚の仲間意識の向上(信頼関係の構築)→仲間のことに関して無関心にならない、を提案し、深く理解できていると感心しました。

<事例2のロールプレイング発表>
夫婦共に緊急呼び出しの多い診療科での後期研修を希望している設定です。いろいろなケースを想定していて、うまくいった場合とうまくいかなかった場合を演じ分けていました。勤務条件の緩和策をそれぞれの診療科に相談しても断られ、親の助けも断られ、最後は、子どもを養子に出すという選択肢まで準備されていました。アメリカのTVドラマの中では、子どもを育てられない場合に養子縁組するという話はよく見ますが、日本でもその選択肢を考える若者がいることに驚きました。他のグループでは、希望の診療科は変更せずに、育休や外部サポートを依頼して頑張る、親の援助を受けるために親元に戻り、研修するなどの解決策が出ました。

<事例3のロールプレイング発表>
妻に国内留学の話が出た設定でした。検討した全てのグループが、夫が子どもと残って、妻を留学させることを結論として出しました。夫ひとりで育児は厳しいと判断し、育児サポートとして、両親や外部サポート、家政婦さんに依頼するという対策を立てましたが、妻が留学をあきらめるというケースは出ませんでした。


他のグループから、「母親が育児をするのと、父親が育児をするのとでは、その質に差が出るのか」という質問が挙がりました。今のところ、母親が育児のために短時間勤務を選択することは比較的容認されていますが、男性は育児休業取得にも相応の理由がないと簡単には認めてもらえない現状があるようです。今後、共働き、共家事、共育児が定着していけば、「どちらが育児をする方が良質な育児ができるか」ということは問題にはなりませんし、愛情を持って子どもに接すれば、映画「クレイマー、クレイマー」のように、ひとり親でもその子にとって良い育児ができると思います。しかしながら、女性にも男性にも、今なお「育児は女性がするものだ」という性別役割分担意識に基づく発言が見受けられたことに課題を感じました。

先輩医師からは、「子どもが病気の時は、親でも、他人でもなかなか引き受けてもらえず、病児保育施設が一番頼れる」というコメントがありました。「妻は産んで、夫は子育てという分業ができている」という先輩医師が2人もおられました。また、「せっかく国内留学で関東に行くのなら、家族揃って行って、夫も関東で研修をしてはどうか」というご意見もいただきました。

<ロールモデル医師の講演②>では、異職種(報道機関の記者)で管理職のパートナーとお2人のお子さんがいる長崎大学病院第二内科(呼吸器内科)助教の中富克己先生にご講演いただきました。

第二内科(呼吸器内科) 助教 中富 克己 先生
キャリア継続のために、各々の転勤により同居と別居を繰り返された経緯をお話しいただきました。同居をするために、それぞれの職場にアピールし、相談をしていたことで、職場が勤務地を配慮してくださったことに感謝されていました。ご夫婦が仕事も、家族生活も大事にしておられること、また周囲の方も理解してくださっていることがよくわかりました。日頃から中富先生が職場でのコミュニケーションを大切にされているところ、パートナーのキャリアアップを誇りに感じておられる姿に感動しました。

特別講演として、京都府立医科大学男女共同参画推進センター長の矢部千尋先生をお招きしました。

特別講演:矢部 千尋 先生 テーマ:「京都府立医大の取り組み」
京都府立医科大学男女共同参画推進センター センター長/ 京都府立医科大学大学院病態分子薬理学教室  教授

矢部先生の研究紹介、大学の女性研究者支援モデル育成事業「しなやか女性医学研究者支援みやこモデル」立ち上げの経緯、学内病児保育施設について、ドイツの大学のダイバーシティ推進動向、卒後進路の選択肢として、「基礎医学研究者のススメ」のお話しがありました。研究者は自由度が高く、ワークライフバランスがとりやすいなどの紹介や矢部先生が考える「研究者に向いているタイプ」、基礎医学研究者の要件についてなど、グローバルな視点からもお話しをいただき、大変勉強になりました。

その他、講義前後アンケート、キャリア&ライフ未来年表作成など、盛りだくさんのキャリア講習会でした。

~学生キャリア講習会を終えて~
<講義前後アンケートの集計結果抜粋>
●平成29年度の受講予定者112名のうち、男子学生は78名、女子学生は34名(女子学生率30%)でした。しかし実際の出席率は、男子学生78%、女子学生82%です。これまで3年生を対象に実施した平成26~28年度の講義出席率は、90%強となっており、今年度は欠席者が非常に多く残念でした。
これまで3年生を対象に行った4回の講義の中で、「男女共同参画」の言葉も内容も知っている割合は平成29年度37%、平成28年度35%、平成27年度53%、平成26年度50%となっており、平成28年度よりは上回ったものの、内容まで理解している学生は少ないという結果が出ました。
「ワークライフバランス」の言葉も内容も知っている割合は、平成28年度の13%を除くと、毎年20%前後にとどまっています。「男女共同参画」と比較しても、まだ学生には浸透していないため、講義の必要性を感じました。
●現時点での将来の不安については、講義の前後で、不安がある割合が減り、不安がない割合が増える結果は、4回とも同じでした。講義後に、講義前と比べて不安が減った・無くなったと答えた割合は45%でした。
将来に対する不安の内容としては、一番多かったのが「診療科の選択」(18%)でした。次に「勤務地」(17%)、「仕事と生活の両立」(17%)と続きました。
●「産休」「育休」の言葉は90%以上の認知度があり、男性も育休を取れることを知っている割合は85%でした。自分も育休を取ってみたい男子学生の割合は、講義前後ともに、これまでの4回の講義の中で一番多い結果となりました。
●将来の進路を決定するときに重視するもの(3つまで選択)のランキングでは、1位は講義前後ともに「仕事の内容」、2位は講義前「雰囲気のよい科」、講義後は同率で「雰囲気のよい科」「やりがい」となりました。
これまで行った4回の講義において、講義前後ともに2位で不動だった「やりがい」が講義前は7位という結果でした。3位から5位は講義前後で変動し「尊敬できる指導教員や指導医がいる」、「自分の特性」、「収入」が挙がりました。
●生活と仕事の両立については、講義前→後で「できる」24%→28%へ、「なんとかできそう」48%→60%へと増加して、両立への自信は80%以上になりました。「できない」「わからない」の割合はいずれも講義後に減少しているため、講義の意義があったと感じました。

<学生の感想>
●とても興味深かったです。研究と多くの科への選択肢が増えたように感じます。(男性)
●研究をずっとされている女性医師の先生のお話が聴けて良かったです。出産・育児を優先するならば研究という道も選択肢に残します。(女性)
●医師になったときの生活がより現実味をもって伝わってきたので、自分が働き出したときの参考になった。(男性)
●いろいろな選択肢があることがわかりました。ありがとうございました。(女性)
●私も将来医者同士で結婚したときの子どもの育て方に不安を持っていたが、今回の講義でその不安が少し解消された。(男性)

2017-07-03学生講義アンケート結果-掲載用

<先輩医師のコメント>
●麻酔科 岡田恭子先生
シナリオ・スライド・演技すべてよく考えられていて爆笑しながら聞いていました。いろんなシナリオがありましたが、【ワークライフのバランスが取れている=必ずしも二つがイーブンである】ことではなく、家族形態、年代で刻々と変わっていくものだと思います。みんなにベストの方法はないけれども、それぞれにベターな方法を探して、マイベストにたどりつく頃には子育てが終わるのかもしれない。であれば、ワンオペ育児(介護)で母親一人がしんどいのではなく、周りの人みんなを巻き込んで、お母さんたちが笑っていられるような環境をサポートしたいなぁと改めて感じました。

●熱研内科 泉田真生先生
学生ならではの発想に毎回楽しませてもらってる。多くの人は、育児とキャリア形成時期が重複する。(仕事と両立させなくてはならない何らかの事情というのは、おそらく育児ばかりじゃない。)どちらも中途半端になる、どちらかに集中しようか、と思う日が必ず来る。その都度、やりたいこと、やるべきこと、やれること、天秤にかけていろいろ考えながら選択を繰り返す。そんな時期はどれだけ医者をやっていきたいか、どんな医者になりたいか、そこがちゃんとしてないほうが、育児と仕事の両立よりもきつい気がした。

●総合診療科 依田彩文先生
私が学生の頃は「ワークライフバランス」という言葉さえなじみがなく、もちろんそのような視点で自分のキャリアプランを思い描くような機会もありませんでした。当時21歳の私自身、全く何も考えておりませんでした。卒業したら、医師になってバリバリ働くのが当たり前で、そこに結婚や育児などのライフイベントが影響するなど考えたこともなく、約10年後にその立場になって初めて現実を知りました。
今回の講義では、「女性医師の社会進出・キャリアアップを叶える」という視点での発表が多く、学生のみなさんが男女ともにワークライフバランスをしっかりと考えていらっしゃることを感じました。私が研修医の頃は、女性医師を取り巻く環境は今より厳しいものだったと思いますが、この10年ほどでの変化を今日実感し、日本の未来は明るいなと嬉しくなりました。これも、メディカル・ワークライフバランスセンターの活動の賜物だと思います。皆さんに元気をいただいて、私も頑張ります。みなさんのワークもライフも、明るく充実したものでありますように。
追伸:
『父親が育児をするのと母親が育児をするのとで育児の質に差があるのか』と質問をいただき、返答したのですが、『育児の量』の差についてのご質問だと思い込み、返答してしまいました。失礼しました。遅ればせながら改めて返答いたしますと、良質な育児に男女の差はないと思いますし、愛情いっぱいの育児には、誰が育児に優れているかなどの議論さえ必要ないと思います。ただ、私が感じる限りの現状では、性別役割分担意識のせいか、母親に育児の量は偏りがちであり、そこが結果的に質の差にならないようにすることも、この世代の育児の課題かなとも思います。

●耳鼻咽喉科・頭頸部外科 木原千春先生
将来の自分の姿を考えるきっかけとなるよい講習会だったと思います。医師の仕事を続けるには、まずは自分の興味のある科を選択することが大切です。これからポリクリ、高次臨床実習など臨床の現場に触れる際に、各科の先輩方に経験談を沢山聞くと参考になります。
とはいえ、実際には自分が子育てに直面するまでわからなかったことの方が多いです。行き詰りそうになったときも、家族や周囲に必ず手を差し伸べてくださる温かい方がたくさんいます。これまで沢山甘えさせてもらい、感謝しています。今後、自分にゆとりができたら、後輩達のお手伝いができたら、と考えています。