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長崎大学医学部3年生「医と社会」授業で、学生キャリア講習会を行いました

2025.11.06

「医師としてのキャリア継続のため、ワークライフバランスの考え方を知るとともに、医師としての多様な生き方を学ぶ」ことを目的として取り組みました。
日 時:2025年10月24日(金)8:50~16:20
対 象:長崎大学医学部医学科3年生(男性84名、女性46名 合計130名)の「医と社会」教育の一環で実施。

<ダイバーシティ・ジェンダーについての講義>

・早稲田大学 文学学術院 准教授/長崎大学ダイバーシティ推進センター 客員准教授 矢内 琴江 先生
「ジェンダー・ダイバーシティの視点を持つこと ~自分も、そして目の前の人の命を大切にするために~ 」
これから医療を通して多くの人と出会い、人の命に関わる医学生だからこそ、ジェンダーやダイバーシティの視点を掴んでほしいと語りかけました。
性をめぐる生きづらさや潜在的なジェンダーにまつわる固定概念を知り、配慮や表現を意識すること、日本におけるジェンダー形成の変遷を様々な参考文献から説明しました。ジェンダー・ダイバーシティの視点は、自分と世界をよりよく知るためであり、より人に優しい社会のあり方を考えるきっかけになる。出会う人の人生の背景や生き方、想いを尊重しながら学びを深めてほしいと話しました。

<ロールモデル医師の講演①>

・長崎大学医学部医学科 先端医育センター 教授 牟田 久美子 先生
「私のワークとライフ」
「卒前・卒後の一貫した質の高い医学教育の実現を図る」目的で設立されたセンターの教授として2024年8月から着任され、医学を教える側の観点で注力している取り組みを話しました。
現在の教育で重要視される点は、教員が「何を教えたか」ではなく、学生が主体的に「何を学び、何を習得したか」「到達すべき目標の学習成果(アウトカム)」を評価する「アウトカム基盤型教育」が行われ、教育の変化が起きている。医学教育者として医学教育学を学び、認定医学教育専門家になること、新たな組織や教育プログラムを構築し、教員の養成も図りたいと述べました。私生活では、幼少期のお子さん2人の成長過程や家庭生活において「私の心身の安定が大切」と語りました。

<メディカル・ワークライフバランスセンターの取組紹介>

「メディカル・ワークライフバランスセンターの取組紹介」
医学部卒業後のキャリアパスのイメージを伝え、ライフイベントを迎えた際には、センターの取り組み「マタニティウェアの貸出」「長崎医師保育サポートシステム」を利用する、「私たちのワークライフバランス実践術」の男性育休取得編インタビュー記事を参考にする、相談窓口であるセンターや県内各病院にいる「ワークライフバランス推進員」に相談することなどを勧めました。また、長崎大学病院で働く医師の育休取得状況を公表し、「産後パパ育休」施行後の2022~2024年度は、3年連続で10人の男性医師が育休を取得していることなどを紹介しました。

<グループ討論>
仕事と育児の両立を目指す共働き夫婦が、問題に直面した時にどのように解決していくかを、グループに分かれて討論しました。

<医師会の取組紹介>

・長崎県医師会 常任理事 瀬戸 牧子 先生
現在、医療界の財政状況は非常に厳しく、国・公立病院は8割以上が赤字経営に陥っている要因を説明しました。医師として医療政策への関心を持ち、医療費や関連する政治の動向に興味を持つ必要性を話しました。また、患者をどう診るか、どう接するかを学ぶ基礎的な研修を経て専門分野へ進むことの重要性を感じており「教科書は過去のことであり、新しい知見は目の前の患者の中に生まれる」と学んできた経験を述べました。
医師会は、個々の診療活動だけでなく、産業保健活動、公衆衛生活動、行政との連携など、医療と社会を結びつける多様な活動を行っており、社会における医師の役割を考える上で重要な組織であると紹介しました。

<発表と先輩医師からのアドバイス>
4つの事例毎に、全12グループが発表をしました。うち4グループはロールプレイング形式で発表をしました。

院内のワークライフバランス推進員や先輩医師からは、様々な視点からのアドバイスが挙がりました。

消化器内科 植松 梨華子 先生              医療教育開発センター/ 腎臓内科 大塚 絵美子 先生

臨床研究センター/ 呼吸器内科 松尾 緑 先生        小児外科 小坂 太一郎 先生

<ロールモデル医師の講演②>

・長崎大学病院 小児科 医員 池田 英史 先生
「若手医師のワークライフバランス」
小児科で初めて出生時育児休業(産後パパ育休)を2回に分けて1か月取得。厚生労働省の興味深い調査結果を複数示し、適齢期と働き盛りの時期が顕著に被ることもあり「安全な妊娠、出産、子育てには夫婦間の協力は必須」と断言しました。子どもが生まれた父親はどのような制度を利用できるのか説明し、男性の育児休業取得に伴うメリットや「取るだけ育休」にならないように、育児も仕事も「脱ワンオペ!」を目指すようアドバイスしました。また、ライフプランはそれぞれで正解はなく、結婚妊娠出産子育てをすることが正しいわけではない、ワーク or ライフではない賢いバランス感覚「ワークライフハーモニー(仕事と生活の調和)」が大切、と締めくくりました。

<ロールモデル医師の講演③>

・長崎大学病院 高度救命救急センター救急・国際医療支援室 助教/長崎みなとメディカルセンター救急科/長崎大学大学院 熱帯医学グローバルヘルス研究科 教員/国境なき医師団日本 理事 高橋 健介 先生
「臨床・研究・国際医療支援」
確固たる思想を持ってグローバルに人生を歩まれており、さまざまな国、地域で活躍された経験談は、学生が医師として多様なキャリア形成を考える上で、とても刺激のある内容でした。
多角的な視点で問題解決のために活動されており「長崎から世界へ 世界から長崎へ」臨床・研究・国際医療支援を波及させるために励まれています。低資源環境下での臨床・疫学調査においてプロフェッショナルな医師として活躍するためには、身体所見・問診重視の臨床力が問われることがわかりました。また、国内外に共通する医療資源の不均衡を是正するため、さまざまな組織に属して、連携したシステム・プロジェクト、教育プログラムに則り、社会貢献する道が示されました。「人の一生」の考え方、「医療に国境はない」「知的好奇心を持つ」ことの大切さ等のメッセージを学生へ伝えました。

<行政医師の紹介>

・長崎県西彼保健所 所長 川上 総子 先生
「公衆衛生医師として働く」
卒後外科へ入局。3人のお子さんを育てるため、仕事と子育てを両立するために奔走し工夫しながら勤務していたと話しました。ある時、若い世代のがん患者に対する社会的な支援の少なさを痛感。命を救う別の方法として新しい挑戦をしてみたいとの思いから、公衆衛生医師のやりがいのある仕事に魅力を感じて転職した経緯を語りました。
勤務する保健所では、他職種や関係機関と連携して様々なルールやシステムを作り上げることが求められ、多岐にわたる仕事内容を抜粋して紹介しました。特にDHEAT(災害時健康危機管理支援チーム)の活動では、九州ブロックDHEAT協議会の初代会長に就任し全国初のブロック訓練を長崎で成功させる等、体制強化に貢献されています。集団や地域全体を対象に、医師の専門知識を活かして行政的な視点で多くの人のいのちを衛る働き方を提示しました。

その他、グーグルフォームによる「講義前後アンケート」の実施や「キャリア&ライフ未来年表」の作成など、盛りだくさんのキャリア講習会でした。

<講義前後アンケートの集計結果抜粋>
●2025年度の受講予定者130名(男性84名、女性46名(女性の割合35%))のうち、アンケート回答者は、講義前105人、講義後92人でした。「ワークライフバランス」という言葉を聞いたことがある割合は、アンケートを開始した2014年で50%程度でしたが、現在ではほとんどの学生が耳にしたことがあると回答しました。学校の授業やメディアでも取り上げられ広く浸透しています。
●現時点での将来の不安
「不安がある」講義前72%→講義後は60%に減少。
本講義で将来の不安について、気づくことができている
●将来に対する不安の内容(複数選択)
1位「キャリア形成」19.5%
2位「診療科の選択」17.5%
3位「仕事と生活の両立」17.2%
将来どのような医師になるかという専門的な方向性の問題と同時に、働き方や私生活とのバランスにも高い関心を持っている様子
●「産休」「育休」の言葉は、それぞれ90%以上の割合で認知されている
「出生時育児休業(産後パパ育休)」の言葉も90%近くの高い割合で認知されている
講義後の「自分も育休を取ってみたい」学生の割合は男女共に80%以上
講義前と比べると、育休取得を考える学生が男女共に年々増えている
●将来の進路を決定する時に重視するもの(3つまで選択)
<講義前>
1位「仕事の内容」2位「雰囲気の良い科」3位「やりがい」
<講義後>
1位「仕事の内容」2位「その領域の研究に興味」3位「やりがい」
自分の価値観や達成感を重視して進路を考える傾向は、講義前後で一貫しており、講義後は様々な分野で活躍している医師の講演を通して、より専門的な視点で進路を考える学生が増加した様子
●仕事と生活の両立について
講義の前後で
「できる」12%→25%、「なんとかできそう」55%→65%と増加
両立への自信は講義後90%と高い割合に到達
「できない」「わからない」の割合は、いずれも講義後に減少
「今回の講義が将来役に立ちそうだ」と答えた学生は94%
講義の意義を感じられた

<学生の感想抜粋>
◎将来の不安が減って、とても有意義な講義だった。
◎将来のことを漠然と考えていたが、今回自分のキャリア、ライフプランをじっくり考えることができてよかった。
◎普段の講義では聞けないことがたくさんあり、大変勉強になった。また、将来の不安が少し減ったような気がする。
◎現在進行形でキャリアを積み上げている先生方の経験が聞けてとてもよかった。
◎ワークライフバランスについて具体例を用いながら考えることができるいい機会となった。ワークライフハーモニーという言葉が印象的だった。
◎自分の知らないことが知れて、将来困ったときには相談できるところが沢山あることを知り、安心した。
◎自分の現段階でのキャリアプランを見直す良いきっかけになった。先輩方がどのような思いで医師として働いているのかについてよく理解することができた。
◎キャリア形成を考える上で、身近にいる医師の話を参考にしがちだが、普段出会わないようなキャリアを積み重ねてきた方々のお話を聞いて、自分の選択肢が広がった。
◎刺激的な講義ばかりで、他人の人生を覗く濃密な体験ができた。それらを踏まえて自分のしたいこと、すべきことを遂行するためにどんな道筋を歩めばよいか見えてきた気がした。
◎たくさんの先生のお話を聞き、モヤがかかったようだった自分の将来が、少しではあるが見えるようになった。いろんな先生が子育ても大変そうだったが、何とかなって充実した私生活を送られていて、私も何とかなるかな、という気持ちになってきた。

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↑講義前後アンケート集計結果抜粋グラフ

<先輩医師のコメント>
●消化器内科 植松 梨華子 先生
学生の皆さんや先生方の意見を聞いてとても勉強になりました。具体的に解決策を考えてみるのはとても大事なことだと思います。今から少しずつでも考え、サポート体制など知識を深めておくと、これから先もっと両立しやすい環境ができると思います。私自身、子育てと仕事の両立に悩むこともあり大変さもありますが、楽しいこともたくさんあります。悩んだら周りに相談してみてください、きっと選択肢が広がります。みなさんのこれからを応援しています。
●医療教育開発センター/ 腎臓内科 大塚 絵美子 先生
具体的な事例をベースとしたグループ毎での発表は、どの班もわからないなりに一生懸命考えて発表されていることが伝わってきました。中には普段から将来のワークライフバランスに関して考えている人がいるのかなと思わされるようなグループもあり、感心しました。いずれにしても、学生のうちからワークとライフの両立を考える機会があることが素晴らしいです。
長崎は両立のためのハード面は、すでにかなり揃っていると思います。しかし、両立はハード面だけの問題ではないと思います。皆さんが医師としてのワークもライフも諦めなくて良い環境になるように、時に家族の立場として、時に医局員の立場として、皆さんも一緒にさらなる未来の環境を作っていけたらと思います。
●臨床研究センター/ 呼吸器内科 松尾 緑 先生
今後働く中で悩む問題はそれぞれ違い、解決策も色々で正解はありません。しかし、いざそういう問題にぶつかった時にこの講義を思い出し、当時一緒に考えた同級生に相談するなどして情報共有、共感することができると思います。色んな先生方の経験談を聞くのも参考になります。私でもまだまだ参考になる話ばかりだと思いました。私にとっても貴重な時間になりました。ありがとうございました。
●長崎県医師会 常任理事 瀬戸 牧子 先生
若い学生の皆さんの意見を楽しく聞かせていただきました。私はどうしても育ってきた環境が半世紀以上前なので性別に関するunconscious bias の影響を逃れられず、自分自身に「女性としてこの様にあるべき、ありたい」という思いが先行することがあります(私の周りの人は私がそう思っているとは思ってないかもしれませんが)。「そこまで責任を感じなくてもいいのに…。」と言われてもやはりどうしても気になります。それと比べると、今の若い人は自分の意見をパートナーに率直に伝えられていいなと思います。そして現実的ですね、うらやましいです。長崎大学はメディカル・ワークライフバランスセンターがあって、みんなで考えることができて幸せだなと思いました。一緒に頑張りましょう。

<南 貴子 センター長 所感>
2021(令和3)年度より5年連続で、長崎大学医学部医学科の女性学生の割合は35%を超えています。私が学生の頃の女性は5人に1人だった時代から3人に1人となり、平成生まれの学生が何を感じ、何を求めているのかを知って、今後の授業やあじさいプロジェクト活動の参考にするために、今回の講義の前後で以下の質問を行いました。

① 『昭和世代の価値観であなたが違和感を覚えることは何ですか?』
回答からは、男性だから、女性だから…と言われたくない世代だと実感しました。現在の日本、長崎においては、性別を分けて考える必要がないことでも、今までの慣習で分けられていることは、まだまだ多いと思います。学生の皆さんがこのように感じていることを、先輩の世代はしっかり認識しておかなければならないと思います。
センターとしては「女性のキャリア形成が難しい」ということに違和感を感じる女性学生が複数いることに対して、女性の妊娠・出産でのキャリア中断は長い期間ではなく、その後の育児は夫婦間で行い、他の家族や保育サポーター等と共有し、家事も同様に分担・共有することで、女性だけがキャリア形成が難しいという状況を打破していく必要があると強く感じました。「女性のキャリア形成は難しい」と若い世代が思わないように、意識改革や環境整備を続けていきます。

② 『あなたが考えるワークとライフの「令和モデル」とは何ですか?』
若い世代が、充実したキャリア形成と医師人生を送れるように、管理職の皆さんには、しっかり休めて、しっかり働ける、育児休業もしっかり取得できる職場環境づくり、働き方改革を遂行していただきたいと思います。