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長崎大学医学部3年生『医と社会』授業で、学生キャリア講習会を行いました

2018.10.17

『医師としてのキャリア継続のため、ワークライフバランスの考え方を知るとともに、医師としての多様な生き方を学ぶ』ことを目的として取り組みました。
日 時:平成30年10月5日(金)8:50~16:20
対 象:長崎大学医学部医学科3年生(男性95名、女性31名 合計126名)の「医と社会」教育の一環で実施。

講義風景

<ワークライフバランス講義>
伊東昌子センター長が「ワークライフバランスとダイバーシティ」と題して講義を行いました。ライフイベントがあっても、仕事を継続していくためのワークライフバランスの考え方、ひとりひとりの価値観を尊重し、能力を生かすダイバーシティマネジメント、そして、それを阻害する無意識の偏見をなくすマインドセットについて話しました。さらに、長崎大学には「LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの総称。)」について学べる機会や相談できる部署があることの紹介、医師として患者さんと向き合う前に理解を深めておくことなどを話しました。

伊東 昌子 センター長
長崎大学 副学長
長崎大学ダイバーシティ推進センター センター長・教授
長崎大学病院メディカル・ワークライフバランスセンター センター長

続いて、長崎県福祉保健部福祉保健課から、県央保健所長と対馬保健所長も兼務されている行政医 藤田利枝先生にお越しいただきました。全国保健所長会が制作した公衆衛生医師募集のパンフレットを配布し、仕事内容の紹介がありました。いろんな経歴から行政医師を目指すことができること(藤田先生は外科医から転身)、臨床経験は役に立つことなどを話されました。当センターが運営するあじさいプロジェクトの立ち上げ時は、スタートアップメンバーの1人として大変お世話になりました。

長崎県福祉保健部福祉保健課 医療監 藤田 利枝 先生

長崎県医師会 常任理事の瀬戸牧子先生から、日本医師会の「ドクタラーゼ別冊~医師会のことをもっとよく知ってもらうために~」の配布と医師会活動の紹介がありました。

長崎県医師会 常任理事 瀬戸 牧子 先生

<グループ討論>
仕事と育児の両立を目指す共働き夫婦が、問題に直面した時にどのように解決していくかを、グループに分かれて討論しました。事例ごとに、選ばれた1グループがロールプレイングで発表しました。夫婦や上司などの立場にたったセリフが考えられていて楽しい演出でした。他のグループからは相違点などを発表してもらいました。

<ロールプレイング発表>
【事例1】
子どもが熱を出した時の設定ですが、夫婦共に仕事で大事なイベントのある日で、それぞれの上司に相談しても、代行は引き受けてもらえず、休みはもらえませんでした。結局、夫が病児保育施設に預けた後に、出勤することになり、一件落着。しっかり翌日の病児保育の予約も忘れない堅実な結果でした。
【アドバイス】
先輩医師からは、病児保育施設が満員で預けられない場合もある、というコメントがあり、センターから長崎市内で受入人数の多い病児保育施設を紹介しました。

【事例2】
夫婦共に後期研修を希望している科が、緊急呼び出しが多い設定で、お互いの希望する診療科は変更せずに、他県の親元に戻り、緊急時などには子育てを協力してもらうという解決策でした。
【アドバイス】
センターからは、親の子育て協力が本当に得られるのか、一度ご両親に尋ねてみることをお勧めしました。

【事例3】
妻に国内留学の話が出た設定で、妻が子どもを連れて留学するという結論でした。
他のグループでは、夫と子どもは残り、妻が単身赴任するという結論もありました。
【アドバイス】
先輩医師には、実際に国内留学を検討中で、家族全員で引っ越すことを予定しているという話や、自分が国内留学するなら、子どもは夫にみてもらい単身で留学したいという意見が挙がりました。

【事例4】
夫にアフリカ留学の話が出て、妻の専門医取得や妊娠の希望をどうするか、子どもはアフリカで動物を見たいという設定でした。夫が単身赴任をして、妻と子どもは日本に残るという結論でした。
【アドバイス】
アフリカ渡航した学生から、キリンやライオンは、そもそも保護地区に行かないと見られないという意見や、幼少期にアフリカ・ヨーロッパなどで海外生活をしていた学生からは、帰国後に国語の授業で大変な苦労をしたため、子連れで行くか、単身赴任で行くかは、よく考えたほうが良いといった、経験に基づくアドバイスが出ました。

学生からの質問では、診療科をどうやって選んだか、結婚のタイミングについてなどが挙がり、ワークライフバランス推進員を務める先輩医師から貴重なお話を聴かせていただきました。

<ロールモデル医師の講演>
長崎大学病院循環器内科 泉田誠也先生にご講演いただきました。

循環器内科 泉田 誠也 先生
パートナーは、同病院の内科医ですが、現在第3子の出産間近ということで、仕事と家庭生活の調整を模索されている現状を話されました。夫婦の仕事と生活を時間軸で示した経歴、性格や考え方、収入、将来の展望などについて示し、夫婦でもかなりの相違点はあるが、よく話し合って打開策を見出したいというお話でした。学生にとっては、グループワークで考えた事例以上に、生々しい問題を感じられたと思います。

続いて、長崎大学病院消化器内科 田渕真惟子先生にご講演いただきました。

消化器内科 田渕 真惟子 先生
仕事をしっかりしたい、という思いの田渕先生が、子育てを夫には頼らず、実家や保育サポーターさん、職場の助けを借りながら、日々邁進されているお話でした。「もっともっとキャリアアップしたい、仕事も家庭も自分で掴みとる!」という前向きな気持ちが学生にも届いたと思います。

<外部講師の特別講演 「最前線のワークライフバランスリテラシー」>
神奈川県立保健福祉大学ヘルスイノベーションスクール設置準備担当 教授の吉田穂波先生をお招きしました。

神奈川県立保健福祉大学ヘルスイノベーションスクール設置準備担当 教授 吉田 穂波 先生

人に助けを求める力=「受援力」についての講義は、目からウロコという学生も多く、今後社会に出た時に役立つお話でした。また、夫婦のどちらも「Win-Winの関係」で、キャリアと家庭生活を築くことが大事であるとの解釈は、5人の子育てをしながら夫婦で海外留学を行い、お互いのやりたいことも尊重する先生の実体験を聞いた後には、非常に納得できる内容でした。
講義後アンケートの「仕事と生活の両立を図るために必要なものは何か」の設問では、1位:受援力、人に頼る 2位:協力、助け合い 3位:コミュニケーション(人とのつながり) という結果になり、吉田先生の「受援力」というキーワードが多くの学生の心に響いたことがわかりました。

その他、講義前後アンケート、キャリア&ライフ未来年表作成など、盛りだくさんのキャリア講習会でした。

~学生キャリア講習会を終えて~
<講義前後アンケートの集計結果抜粋>
●平成30年度の受講予定者126名のうち、男子学生は95名、女子学生は31名(女子学生率24.6%)でした。「男女共同参画」の言葉も内容も知っている割合は、平成28年度以降35%前後を推移しています。「ワークライフバランス」の言葉も内容も知っている割合は、平成26年度~29年度の4回の講義では20%前後でしたが、今年度は36.4%と最も高い結果となりました。また、「働き方改革」の言葉も内容も知っている割合は3割にとどまりましたが、聞いたことがあると答えた割合は「ワークライフバランス」を上回り、ニュースや新聞を通して言葉を知った学生が多くいました。
●現時点での将来の不安については、講義の前後で、不安がある割合が減り、不安がない割合が増える結果は、これまでの講義と同様でした。講義後に、講義前と比べて不安が減った・無くなったと答えた割合は50%でした。将来に対する不安の内容としては、一番多かったのが「勤務地」(19.2%)でした。次に「診療科の選択」(16.2%)、「仕事と生活の両立」(16.2%)と続きました。
●「産休」「育休」の言葉は90%以上の認知度があり、男性も育休を取れることを知っている割合は86.9%でした。講義前の「自分も育休を取ってみたい」男子学生の割合は、平成26年度からの講義の中で一番高い結果でした。
●将来の進路を決定するときに重視するもの(3つまで選択)のランキングでは、1位は講義前後ともに「仕事の内容」、次に講義前は「その領域の研究に興味がある」「やりがい」と続き、講義後は「やりがい」「希望するライフスタイルが得られる」となりました。
●生活と仕事の両立については、講義前→後で「できる」8.1%→20.4%へ、「なんとかできそう」51.5%→52%へと増加して、講義後の両立への自信は70%以上でした。「できない」「わからない」の割合はいずれも講義後に減少し、また、今回の講義が将来役に立ちそうだと答えた学生は86.7%となり、講義の意義があったと感じました。

<学生の感想>
●将来起こりうる事態のことが多く、考えさせるようなことがたくさんあった。(男性)
●卒後のことなんてまだまだの感じがしていたが、数年後に迫ってきていることを改めて感じて焦ったが、今日の話を聞いて不安もあるけど将来が楽しみという気持ちがでてきました。(女性)
●自分は誰かに相談するということがあまり得意ではないので、今後相談できるようにしていきたいです。(男性)
●色んな先生方のお話を聞けて自分の中の働き方のケースを増やせた。実際現場の先生方も答えが見つからない働き方の現状を、どうにか変えていけないものかと思う。男性医師の話をもっと聞きたい。(女性)
●普段の座学と違って人生観がとても変わりました。(男性)

2018-10-05学生講義アンケート結果-掲載用

<先輩医師のコメント>
●腎臓内科 牟田 久美子 先生
結婚・出産など私生活に関する内容を授業で話すのは初めてで、講義で専門領域のことを話すのとは違って気恥ずかしく緊張しました。学生たちがそれぞれのケースの役を上手に演じているのが面白かったです。実際にはどの場面も即答できる内容ではなく、夫や両親などの家族、上司と何度も話し合いながら、自分や家族にとって正解となる選択肢を見つけていく必要があると思います。他の先生方のご意見も参考になり、「家族一緒に、をまず考えて行動している。」というお話が印象に残りました。これから多少でも学生がキャリアプランを考える際の参考になれるよう、私も日々の仕事を頑張りたいと思います。

●麻酔科 吉﨑 真依 先生
今回の講義に参加して、改めて自分の働き方を考えることができました。
働き方は様々で、この立場の人が一番大変、ということはないと思います。それぞれの立場にある人たちがお互いに尊敬しあい、感謝しあえる環境でないと物事はうまく進みません。「育児しながらでもこんなに働けるんだよ!」と言いたいところですが、それは周りの協力があってこそです。働けるというより、働かせてもらっているんだと常に思っています。それは自分を卑下しているわけではなく、感謝しながら常に働いているということです。自分の権利も大事ですが、周りとの「和」も考えながら真摯に仕事に向き合いたいと改めて思いました。

●総合診療科 依田 彩文 先生
私が学生の頃は「ワークライフバランス」という言葉さえなじみがなく、結婚や育児などのライフイベントを自分が迎えて初めて現実を知りましたので、このような講義の機会があることはとても幸せなことだと思います。
私の世代は「ワークライフバランスの過渡期世代」と言われるそうで、特に私が20代の頃までは、女性医師を取り巻く環境は今より厳しいものだったと実感しています。
この講義には何度か参加しており、最近は「女性医師の社会進出・キャリアアップを叶える」という視点での学生の発表が多く、この十数年の確実な変化を感じ、とても嬉しく頼もしく拝見しています。
これも、メディカル・ワークライフバランスセンターの活動の賜物だと思います。みなさんのワークもライフも、明るく充実したものでありますように。

●形成外科 千住 千佳子 先生
ロールプレイングでは学生ならではの工夫や演技がされていて、楽しく拝見しました。提示されたシナリオについて、学生なりに問題点を考え、まるで経験したかのような現実味のある解決策を見出していたことにとても感心しました。
以前は出産で仕事を休むと「これだから女性は。」と言われ、肩身の狭い思いをしたと、先輩女性医師が言われていました。今では女性のキャリアアップのためにみんなで考える時代。とてもありがたいと思います。家庭を持つと女性がフルで働くのはどうしても難しくなります。しかし、医局内はまだまだ医師不足で、他の先生にしわ寄せがいっているのも事実。いつも周りに感謝しつつ、仕事と家庭のバランスを取っていけたらいいなと思います。