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長崎大学医学部3年生「医と社会」授業で、学生キャリア講習会を行いました

2019.10.18

「医師としてのキャリア継続のため、ワークライフバランスの考え方を知るとともに、医師としての多様な生き方を学ぶ」ことを目的として取り組みました。
日 時:2019年10月4日(金)8:50~16:20
対 象:長崎大学医学部医学科3年生(男性86名、女性35名 合計121名)の「医と社会」教育の一環で実施。

講義風景

<ワークライフバランス講義>

放送大学 長崎学習センター 所長 伊東昌子先生に「ワークライフバランスとダイバーシティ」と題して講義を行っていただきました。ジェンダー平等を推進するには、選ぶ側の無意識の偏見と選ばれる側の無意識の偏見(例えばインポスター症候群)など、女性の活躍を妨げる要因を知ることが必要との説明がありました。また、女性の管理職が多い企業は、経営状況が良いことや夫の育児参画時間に比例して、第2子の出生率が上がることなど、真の男女共同参画社会づくりに必要な多くのデータを示しました。

続いて、県南保健所長である川上総子先生にお越しいただきました。
卒後外科に入局し、結婚・子育てをしながら行政医師に転向した経緯について話され、現在の保健所長としての仕事内容や全国保健所長会が制作した公衆衛生医師募集のパンフレットを紹介しました。仕事のやりがいとして、臨床医の経験を活かして国に制度制定の必要性を働きかけることができる、生活面では時間調整がしやすく、子育て中でも継続して働きやすいことなどを実生活の様子を交えて話しました。

<特別講演「これが私の生きる道」>

今回初めての男性講師による特別講演でした。長崎大学医歯薬学総合研究科 地域包括ケア教育センター長 教授 永田 康浩先生より、子どもの頃の家庭環境、外科医・研究者としての業績、今の地域包括ケアの取組についてお話しいただき、職場での多職種連携・コミュニケ―ションが大事であることを伝えました。学生時代に当時の教授から「英語」「カメラ」「タイプライター」を身につけておくと良いとアドバイスを受けたそうです。今の学生の立場で考えると「多職種連携・コミュニケーション」「百聞は一見にしかず」「発信する力・創造する力」に置き換えられるのではないか、と締めくくりました。

<グループ討論>
仕事と育児の両立を目指す共働き医師夫婦が、問題に直面した時にどのように解決していくかを、グループに分かれて討論しました。

<ロールモデル医師の講演①>

午後の最初は、長崎大学病院 腫瘍外科・呼吸器外科 畑地豪先生のお話でした。医師夫婦が家事・育児を分担しながら、お子さん3人との家庭生活と、手術や研究の仕事との両立をする、ある一日の「外科医同士の夫婦・子育てってどんな生活?」と題したタイムスケジュールを示され、効率よく、優先順位を決めて過ごす医師のリアルな日常生活を学生に話しました。

長崎県医師会 常任理事および、ながさき女性医師の会 会長の瀬戸牧子先生から、日本医師会の「ドクタラーゼ別冊~医師会のことをもっとよく知ってもらうために~」の配布と医師会活動の紹介がありました。また、ながさき女性医師の会主催の市民公開講座 がんと診断されても・・・「私らしく生きる!・・・がんと女性の妊孕性」開催日時10月26日(土)14時~のイベント紹介がありました。学生講義の初年度から医師会よりお弁当とお茶を提供していただき、学生からは「美味しかった!」と好評です。

<ロールプレイング発表>
事例ごとに、選ばれた1グループが夫婦や上司などの立場でセリフを考えてロールプレイングで発表しました。他のグループは、相違点や良かった点などを発表しました。
【事例1】
子どもが熱を出した時の設定で、病児保育施設へ連れていく結論でした。「保育サポートHANDBOOK」を参照し、預ける病児保育施設を決めることはできましたが、予定の入った夫婦のどちらが連れていくかは、明らかになりませんでした。
【アドバイス】
先輩医師からは、病児保育施設は朝9時からの受診受付のため、どうしても始業に遅刻する。夫婦や保育サポーターとあらかじめケースを想定して連携を相談しておくこと、施設の利用方法などを事前に調べておくことなどの意見が挙がりました。
【事例2】
夫婦ともに緊急呼び出しの多い科での後期研修を希望している設定で、研修先は他県の夫の地元にして、親の助けを借りながら、希望の診療科で働く結論でした。
【アドバイス】
先輩医師からは、親の助けを得るにも、年齢と体力的に子育てにずっと関わることは難しいので、長期的に考えて、距離感や頼み方のルール決め、不測の事態を想定する必要がある、などの意見が挙がりました。センターからは、希望の診療科は変えずに、好きな科を選ぶことが長く働き続けられる秘訣という先輩医師の意見が多いこと、親に頼れるのかを一度確認してみることを勧めました。


【事例3】
妻に国内留学の話が出た設定で、夫と子どもは長崎に残る結論でした。夫の職場の院内保育施設を利用する事も考えついていました。院内の保育施設・病児保育施設は、移動距離が短縮されて使いやすいことも多く、着眼点が良い発表でした。
【アドバイス】
センターからは、実際に先輩医師が事例の通り国内留学の話が出て、家族全員で数か月間の移住生活を選択したケースを紹介しました。

【事例4】
お子さんの成長とともに、妻が当直を担うことを医局から打診されている設定で、「夫の考えが甘い!」という討論の流れで、夫が実家の助けを借りて、子ども2人と妻のいない夜を過ごす結論でした。
【アドバイス】
先輩医師から、各科およびご自身の日当直の状況を教えていただきました。保育園のお迎えから夫の帰宅までをファミリーサポートセンターに依頼する、翌日学校が休みの日に当直日を調整するなど、具体的なアドバイスがありました。現在、多くの診療科で当直緩和の子育て中の女性医師が増えてきたことで、医局運営の危機が目前にあるようです。男子学生から「妻が当直のときは夫が1人で子どもをみるべき」という意見が挙がり、将来のパパドクターは頼もしい!と、多くの先輩医師は嬉しく思いました。

<各医局の先輩医師から貴重なアドバイスをいただきました。>

<ロールモデル医師の講演②>

最後は、長崎大学病院 産科婦人科 原田亜由美先生のお話でした。長崎大学病院の診療科の中で、女性医師の割合が一番多い産科婦人科は、どのように医局の体制が整えられていたのか、県内2施設目となる「総合周産期母子医療センター」の指定を今年10月に受け、MFICU(母体・胎児集中治療管理室)を稼働していくための働き方の変化、また、ご自身がどのように仕事を大切にして子育ても重要視しているかを話しました

日本全体の働き方改革も始まっていますが、長崎大学病院の医師の働き方改革も着手され始めています。長時間労働が当たり前の男性医師の働き方改革と、これまで多くを免除・緩和されてきている子育て中の女性医師の働き方改革の両方が必要だと思います。時代の流れに沿って、みんなでワークライフバランスの見直しを行い、頑張っていければと思います。

その他、講義後アンケート、キャリア&ライフ未来年表作成など、盛りだくさんのキャリア講習会でした。

~学生キャリア講習会を終えて~
<講義前後アンケートの集計結果抜粋>
●2019年度の受講予定者121名のうち、男子学生は86名、女子学生は35名(女子学生率29%)。言葉も内容も知っている割合は、「男女共同参画」42% 、「ワークライフバランス」48%で過去最高、「働き方改革」46%で過去最高。最近の国の方針に基づくマスコミ報道の影響が大きいと思われます。言葉の定着は、実現への第一歩かもしれません。
●現時点での将来の不安については、講義の前後で、不安がある割合が減り(59%→39%)、不安がない割合が増える(26%→50%)結果は、これまでの講義と同様。講義後に、講義前と比べて不安が減った・無くなったと答えた割合は42%。将来に対する不安の内容(複数選択)として一番多いのは「診療科の選択」(17%)。次に「勤務地」(16%)「専門領域」と「結婚・出産」(15%)。
●「産休」「育休」の言葉は90%以上の認知度があり、男性も育休を取ることができると知っている割合も95%と過去最高。講義前の「自分も育休を取ってみたい」男子学生の割合54%も過去最高。若い男性の意識改革は進んでいます。
●将来の進路を決定するときに重視するもの(3つまで選択)のランキングでは、1位は講義前後ともに「仕事の内容」、次に講義前は「収入」「やりがい」と続き、講義後は「やりがい」「収入」。
●生活と仕事の両立については、講義前→後で「できる」16%→20%、「なんとかできそう」39%→56%へと増加。講義後の両立への自信は75%以上。「できない」「わからない」の割合はいずれも講義後に減少し、また、今回の講義が将来役に立ちそうだと答えた学生は91%。講義の意義があったと感じました。

<学生の感想抜粋>
●多様な働き方、特に女性医師の話が、自分と違った視点を持っていて参考になった。(男性)
●これからどのようにして自分のキャリアについて考えていけばよいのかが分かりました。(女性)
●医学の授業では考えることのない内容だったので、すごく身になりました。(男性)
●様々な制度や、雇う側としても様々な工夫があると知ることができた。しかし、先生方のスケジュールを見て、やはり両立は大変忙しいのだなと思いました。(女性)
●グループワークでより自分たちの考えを共有し将来につなげられると思う。先生方のアドバイスも適確でわかりやすかった。(男性)
●これまでは早く結婚して出産したいと考えていたが、今日を通してキャリアアップを前向きに挑戦したいと思うようになった。(女性)

学生の感想では、様々な医師の実際の仕事と生活の話を聞くことができて、良かった!という意見が男女ともに多数ありました。キーワードとして、パートナーとの「協力」「妥協」、周囲の「理解」「支援」という言葉が多く挙がりました。忙しくともやりがいのある仕事と生活の両立を体感できたのではないでしょうか。

2019-10-04学生講義アンケート結果-掲載用

<先輩医師のコメント>
●産科婦人科 原田 亜由美 先生
今回、講演の機会をいただけることになり、初めて参加させていただきました。学生さんたちが、すでにこの時期から、家族のこと、育児のこと、キャリアのことなどを考えていて大変驚かされました。私が学生の時には考えたこともなくて、今、私自身、特に家庭を持つようになって苦労したり、勉強したりすることばかりなので、この時期から考えることは、学生さんたちが医師になった時に必ず役に立つと思います。育児をしながらキャリアを形成することは、大変ですが、そこを考えて乗り越えた時の喜びだったり、忙しい中でも充実感だったりを自分自身が日々感じていますので、将来ぜひ生かして欲しいと思います。今回、私以外の女性医師の先生の話や意見を聞くこともできて自分も参考になりましたし、励みにもなり、また今日から頑張ろうという気になりました。

●血液内科 蓬莱 真喜子 先生
今回の講習会に参加させてもらい、ロールプレイの内容を見ながら、その答えはそれぞれの家族、本人の考え方で変わってくるものだろうと思いました。今回の学生さん達の女性のキャリア形成を諦めることなく進めていく姿勢はとても素敵だなと感じました。特に男子学生さんが、キャリア形成においてパートナーの意見を尊重した考え方をもっていることに感動しました。女性のキャリア形成を後押しするような背景がある一方で、女性医師の産休、特に育児休業に関しては法律的な問題も残っている現状です。その中で自分の志望を優先させる選択を学生さん達が迷わずに選択できたこと、とても素晴らしいことだと思います。

●皮膚科・アレルギー科 芦田 美輪 先生
学生さんの迷演技に笑わせてもらいましたが、真剣に考えたくさんの選択肢と解決策を導き出されていて、まさに多様性の医師の未来を感じました。みなさんが幸せなワークライフバランスを実現してほしいと思います。

●内分泌・代謝内科 夏田 昌子 先生
ロールプレイングではまだ経験していない、また、経験するかもわからない仕事と家庭の両立について、想像しながら議論するのはとても難しかったと思います。でも、学生さんの中には男性でも育休を検討してみたり、職場を両親の近くに選択するなど、とても柔軟な意見が聞かれ、ワークライフバランスの考え方が浸透していることを実感しました。ぜひ、将来パートナーとなる方と、どちらも我慢することなく、お互いキャリアアップしながら素敵なご家庭を作っていただければ幸いです。

●形成外科 千住 千佳子 先生
昨年より学生キャリア講習会に参加させていただいていますが、男性も育児を協力してやるという男子学生が増えているように感じました。是非その気持ちを忘れず、子育て時期には実行してほしいと思います。私自身は子育てを始めて3年、子どもが2人になり、ライフにバランスが傾いていたところでの講義でしたので、改めてワークライフバランスについて考えさせられました。学生さん達の意識向上を図ると共に、実際に育児に直面している私達医師にも、色んな人の意見を聞き、自分とは違った考えを知り得る良い機会となりました。講習会に参加させていただき、ありがとうございました。

●腫瘍外科・乳腺・内分泌外科 松本 恵 先生
年々学生さんの考え方、特に男性の学生さんの考え方がとても柔軟になってきていると驚きます。「妻のキャリアアップのために夫が育休を取ればよい。」という意見が出たと言う発表を聞いて、今後ますます日本人の働き方が変わってくるのだろうと感じました。経験者として思うことは「子は育つ!」です。いつまでも子どもに手を差し伸べないといけないわけではなく、日々確実に成長してくれます。ついでに齢を重ねて最近思うことは「やる気があればいくつになっても挑戦できる!」ということ。これからいろんな選択を迫らせると思いますが、その時々熟考して医師として、人として、ますます成長していってください。