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長崎大学医学部3年生「医と社会」授業で、学生キャリア講習会を行いました

2023.10.30

「医師としてのキャリア継続のため、ワークライフバランスの考え方を知るとともに、医師としての多様な生き方を学ぶ」ことを目的として取り組みました。
日 時:2023年10月20日(金)8:50~16:20
対 象:長崎大学医学部医学科3年生(男性65名、女性56名 合計121名)の「医と社会」教育の一環で実施。

<ロールモデル医師の講演①>

・MRC Unit the Gambia at LSHTM/長崎大学熱帯医学研究所 臨床感染症学分野 助教 泉田 真生 先生
泉田先生より当日はビデオ講演とZoomでの会話、後日、学生へ熱いメッセージをいただきました。
「臨床で解決しない問題を掘り下げて考えたいと思い、physician scientistを目指して臨床フィールドと研究施設が一体化したMRC Unit the Gambia at LSHTM に留学した。受け入れから研究費等様々な障壁があったが双方の教授、熱研医局、周囲の人達の理解と支援があり、ひとつづつクリアし研究を開始することができた。現在はvaccine and immunity teamに所属して結核ワクチンや診断法開発のための国際コンソーシアムに参加し潜在性結核から発病に至る機序解明に基づく診断法の開発と、潜在性結核がヒト免疫システムに及ぼす影響を研究している。日本を離れて生活することは、他国や母国の文化、慣習、歴史、経済等を客観視して考察するいい機会になる。パートナーや子どもの有無に関わらず、どのような医師になるか目標を明確にして一歩一歩進んでほしい。」

<行政医師の紹介>

・長崎県県央保健所 地域保健課 課長 坂口 康子 先生
続いて、長崎県県央保健所 地域保健課 課長である坂口康子先生にお越しいただきました。
佐賀県出身で、佐賀大学医学部の皮膚科に入局し、予防医学への関心から大学院へ進み疫学調査や統計を学ばれたそうです。長崎県出身のパートナーと結婚・子育てをしながら行政医師に転向した経緯について話しました。家事・健康・仕事面でのモットーや、全国保健所長会が制作した公衆衛生医師募集のパンフレットから仕事内容を紹介しました。過去に自身の体調を崩した経験をもとに「元気で自分らしく、選択肢を広げて将来を考えてほしい」と話しました。

<ロールモデル医師の講演②>

・長崎大学大学院 移植・消化器外科学 助教 今村 一歩 先生
手術日と手術日以外、育休中のとある1日がタイムスケジュールで示され、外科医のリアルな日常を垣間見ることができました。子どもができてから制度を知ったことの反省点、産後パパ育休制度を取得してわかった大事なこと、取得のメリット、仕事と育児の両立の工夫、組織としての働き方改革の必要性など、実体験を話しました。「いろいろな最適・納得解がある!ワークもライフもバランス良く!」と締めくくりました。

<ロールモデル医師の講演③-ビデオ->

・医歯薬学総合研究科 肉眼解剖学分野 教授 髙村 敬子 先生
今月10月1日付で教授に就任されたばかりの基礎系女性研究医師です。
献体を用いた高度な手術手技トレーニングの有用性や、臨床解剖学の研究・ヒト骨格の形態解析・プリオン病の死体のスクリーニングなどの研究成果を説明しました。麻酔科医、そして肉眼解剖学を志した理由や、仕事と子育ての両立において、第1子は産休(産前6週・産後8週)のみ、第2子は産休+育休4か月間で復職できたのは、身内や周囲のサポートのおかげと話しました。「専門医取得までは必至で研鑽を積み、医師としての土台を築く、感謝の気持ちを持つ、人や機械の手を借りる、やりたいと感じたことを諦めない、楽天的であること」などのメッセージを学生へ伝えました。

<グループ討論>
仕事と育児の両立を目指す共働き夫婦が、問題に直面した時にどのように解決していくかを、グループに分かれて討論しました。

<医師会の取組紹介>

・長崎県医師会 常任理事 瀬戸 牧子 先生
多方面で活動されている瀬戸先生より、医師を取り巻く様々な状況や取り組みの紹介がありました。
「九州医師会連合会→長崎県は、男性医師の育休取得者が多いことなどから、九州内でも働きやすい環境が整っていると認知されている。
ながさき女性医師の会→シーボルトの娘で日本初の女性産科医である楠本イネの墓は長崎市内にある。今年はシーボルト来崎200周年だったが、楠本イネ生誕200年も数年後に控えている。毎年有志でお墓参りをしており、学生の参加も大歓迎する。
今後医療に関わるものとして、日本の財政に目を向け、特に全体の30%を占める医療介護に関わる税金がどのように使われているか、学生のうちから関心を持ってほしい。山積された医療問題を少しでも解決できるよう、仕組みづくりの提案や必要医療資源の確保など役割を果たしていきたい。」と話しました。
※会場で配布:日本医師会発行「ドクタラーゼ別冊~医師会のことをもっとよく知ってもらうために~」
※「ドクタラーゼNO.43」2022.10発行分に、長崎大学理事 伊東 昌子 先生が掲載。

<発表と先輩医師からのアドバイス>
5つの事例毎に、全12グループが発表をしました。うち5グループにはロールプレイング形式で発表をしました。

院内のワークライフバランス推進員である先輩医師からは、様々な視点からのアドバイスが挙がりました。

<ワークライフバランス講義>

・長崎大学 理事(学生・国際担当) 伊東 昌子 先生
「多様性の尊重とキャリア形成について考える~無意識の偏見~」
自己紹介では、放射線科の医師としてキャリアがスタートし、管理職として配属先の取り組み分野を深掘りして学び、新たな見識を備えながら診療・研究・教育面において、長崎大学に30年以上貢献されていることがわかりました。アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)は、だれもが持っているため、自分の第一印象の判断に思い込みやバイアスがないかを意識すること、キャリア形成のチャンスを阻害する要因を排除し、成果を正しく評価する仕組みづくりが必要なこと、「心理的安全性」のある組織づくりの大切さを紹介しました。

<メディカル・ワークライフバランスセンターの取組紹介>

・長崎大学病院メディカル・ワークライフバランスセンター センター長 南 貴子 先生
「メディカル・ワークライフバランスセンターの取組紹介」
医学部卒業後のキャリアパスのイメージを伝え、ライフイベントを迎えた際には、センターの取り組み「マタニティウェアの貸出」「長崎医師保育サポートシステム」を利用する、「私たちのワークライフバランス実践術」の男性育休取得編インタビュー記事を参考にする、相談窓口であるセンターや県内各病院にいる「ワークライフバランス推進員」に相談することなどを勧めました。

その他、グーグルフォームによる「講義前後アンケート」の実施や「キャリア&ライフ未来年表」の作成など、盛りだくさんのキャリア講習会でした。

<講義前後アンケートの集計結果抜粋>
●2023年度の受講予定者121名(男性65名、女性56名(女性の割合46%))のうち、アンケート回答者は、講義前109人、講義後109人でした。「ワークライフバランス」という言葉を聞いたことがある割合は、アンケートを開始した2014年で50%程度でしたが、現在では90%以上が耳にしたことがあり、年々浸透しているといえます。
●現時点での将来の不安
「不安がある」講義前67%→講義後は58%に減少
講義後に「講義前と比べて不安が減った・不安がなくなった」と回答した割合55%
本講義で不安を軽減できている
将来に対する不安の内容(複数選択)
<2023年度>
1位「仕事と生活の両立」「診療科の選択」共に16%、
3位「結婚・出産」「キャリア形成」共に15%
5位「勤務地」13%
<2022年度>
1位「勤務地」18%
2位「キャリア形成」「仕事と生活の両立」共に16%
4位「診療科の選択」15%
●「産休」「育休」の言葉は、それぞれ90%以上の割合で認知されている
「出生時育児休業(産後パパ育休)」の言葉は、80%以上の割合で認知されている
講義後の「自分も育休を取ってみたい」学生の割合は96%(男性、女性共に96%)
→講義を受ける前から、育休取得を考える学生が性別を問わず年々増えている
●将来の進路を決定する時に重視するもの(3つまで選択)
<講義前>
1位「仕事の内容」2位「雰囲気の良い科」3位「やりがい」
<講義後>
1位「仕事の内容」2位「雰囲気の良い科」3位「希望するライフスタイルが得られる」
→講義後は、仕事と生活の両立を重視する学生が増えた
●仕事と生活の両立について
講義の前後で
「できる」15%→24%、「なんとかできそう」49%→63%と増加
両立への自信は講義後87%と高い割合に到達
「できない」「わからない」の割合は、いずれも講義後に減少、「今回の講義が将来役に立ちそうだ」と答えた学生97% 過去最多
→講義の意義を感じられた

<学生の感想抜粋>
◎グループワークの事例がとても身近で、真剣にディスカッションできた。
◎仕事と私生活の両立のための支援が思った以上に充実している。
◎様々なことを考えさせられた。特に不安症の私にとって「楽天的に考える」と言う言葉が心に響いた。
◎様々なロールモデルの方々の講演を聴くことができ、将来に対する期待が高まった気がした。
◎自分の将来についてじっくり考える機会はなかなかないので、この先の人生で行き詰まりそうになった時は、今回の授業のお話を思い出しながら様々な選択肢を柔軟に考えたい。
◎ロールプレイをすることによって、より理解が深まったと思う。まだやりたいことは決まってはいないものの、将来のプランについての不安は減ったと感じる。
◎ワークライフバランスが大切とは聞くが、実際に行動に移せるかは話が変わってくる。絶対に実行したい。
◎まだまだ漠然としたことだが、逃げては行けない難しい内容だったと思う。早いうちに向き合うことも大切かなと考えた。
◎将来のイメージが抱けず、何に不安を抱いているのかと漠然としていた今の状況で先生方のお話を聞き、将来の生活のイメージを具現化できたことで、少しだけ未来へのキャリアや生活に対する希望が見えたような気がした。
◎キャリア形成が困難になるくらいなら「結婚や出産を辞めておこう」と考えたりもしていたが、今回の講義で少し前向きになれた。

20231020学生講義アンケート集計抜粋結果

↑講義前後アンケート集計結果抜粋グラフ

<先輩医師のコメント>
●第一内科 住吉 玲美 先生
まだ学生のうちから、このように医師になってからの働き方について考える機会があるのは非常に良いことだと思います。
問題点を挙げて、それぞれの問題点に対する解決策を具体的に出すことができていてびっくりしました。知識としても、保育園や親に頼るだけではなく、病児保育や保育サポーターさんを利用できることもよく知っていて感心しました。
難しい選択を求められる場面はたくさんありますが、その都度周囲とよく話し合って、そのとき最良と考えられる答えを出せば、きっと間違いはないと思います。もしかしたら一時的には子どもと過ごす時間が少なくなったり、自身のキャリアを先延ばしにしたりすることはあるかもしれませんが、長い目で見ると、無駄なことは何もないと思いますので、ワークとライフがいずれも充実したものになるように頑張ってください。

●消化器内科 猪股 寛子 先生
今回の授業に用いた事例は、いずれもライフイベントのどこかで起こり得るシナリオばかりで、学生の皆さんの意見をとても楽しみに参加しました。私自身が学生の頃に同じ授業を受けたとして、果たしてリアルに想像してこのような解決策にたどり着けただろうか、と思わせるような現実的な解決法を導き出しているグループが多いのが印象的でした。自分のキャリアだけを追い求めるのではなく、パートナーのことを尊重したり、家族との時間を大事にしたいという意見が少なくないことや、zoomを利用した解決策を提案したりと、コロナ禍がもたらしたであろう柔軟な意見に頼もしさを感じました。また育休から復職して間もない自分自身としては、他科の先生方の意見も大変参考になりました。
今後どのライフイベントがやってきたとしても、日々模索の連続です。今回の授業の様に多くの選択肢を思い浮かべ、自分も周囲の人も大切にしながら、自分なりの答えを見つけて進んでいただければと思います。

南 貴子 センター長 所感
今年で学生講義は10年目となり、女性学生の割合は過去最高(46%)でした。
長崎大学病院では、女性教員は20%台、女性医員は30%台、女性医学生は40%台の時代になってきました!次世代を担う学生に医師の多様な歩みを知ってもらうために、臨床医師から転向した行政医師、男性で育児休業を取得した外科医師、基礎と臨床のダブルボードで医学部教授になった女性医師など、いろんな分野の先生方が講義にご協力くださいました。
まず、朝1番には昨年に引き続き2回目となる海外からのZoom中継を行いました。今年はアフリカ西部の国ガンビアで研究留学をしている感染症内科の泉田先生にご講演いただきました。ガンビアでの結核についての研究と5人家族での生活を楽しんでおられるのがよく伝わりました。講義後に回収した「未来年表」では、昨年を超える27人の学生が「海外留学」を計画していましたので、泉田先生のお話が刺激を与えたと感じます。グループワーク後の発表では、たくさんの選択肢を考えることができており、その中で「保育サポート」や「シッター」というキーワードも見受けられ、センターの支援事業「長崎医師保育サポートシステム」を将来是非、利用してほしいと思います。
1日かけて行う長い授業ですが、学生含めご参加いただいた方々の記憶に残る貴重な1日となるように、ロールモデル医師の人選にも工夫しながら、来年度も計画します。