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長崎大学医学部3年生「医と社会」授業で、学生キャリア講習会を行いました

2021.10.05

「医師としてのキャリア継続のため、ワークライフバランスの考え方を知るとともに、医師としての多様な生き方を学ぶ」ことを目的として取り組みました。昨年は、感染症対策のためオンラインでの授業でしたが、今年は対策を講じて対面で行いました。
日 時:2021年9月24日(金)8:50~16:20
対 象:長崎大学医学部医学科3年生(男性83名、女性41名 合計124名)の「医と社会」教育の一環で実施。

講義風景

<ワークライフバランス講義-ビデオ->

長崎大学 理事(学生担当・国際担当) 伊東 昌子 先生
「多様性の尊重とキャリア形成について考える~無意識の偏見~」
思い込み(=無意識の偏見)で物事を判断していないか、感じ方や表現は人によって異なること等を理解し、対人関係を円滑にする術を学びました。また、日本の課題である少子高齢化に伴い、時間制約を持つ人が増えるため、男女共に働く、定年退職後も働く事や、様々な価値観に対応するためになるべく違う条件の人と働く等に、考えを切り替えて生産性を高める必要があると話しました。アカデミアにおける多様性の実現、ジェンダーバランスの取れたチームの生産性は向上することを裏付ける国内外の根拠データを数多く示しました。しかし日本は、諸外国に比べて女性研究者が少なく、その理由を日本の男性研究者は「適性の差」と考える割合が高かったことに疑問を呈しました。その他、長崎大学におけるダイバーシティ推進の取組紹介、書籍を引用して、シェリル・サンドバーグ著「LEAN IN」と「OPTION B」からキャリアの積み方や困難にあった時は次善の選択肢を最大限に利用すべきとの考え方を伝えました。コロナ禍の大学生活を過ごす学生には、まさに「OPTION B」をどう活用するか、「回復する力を鍛えてこれから起きる様々な局面を乗り越えてほしい」とエールを贈りました。

<行政医の紹介-ビデオ->

長崎県上五島保健所 所長(五島振興局上五島支所保健部長) 安藤 隆雄 先生
「行政医の紹介」
米国ニューヨーク留学中に研究に没頭しつつ子育てを楽しむ充実した日々のお話、帰国後の臨床~研究の様々な業績、行政医になったきっかけ、行政医の業務紹介があり、近況はCOVID-19関連の対応に邁進されていました。「どの分野でも苦労はあるが、やりがいを感じて、医師としての専門性を活かすことが大切」と話しました。

<グループ討論>
仕事と育児の両立を目指す共働き医師が、問題に直面した時にどのように解決していくかを、グループに分かれて討論しました。

<医師会の取組紹介>

長崎県医師会 常任理事 瀬戸 牧子 先生
長崎県医師会常任理事の瀬戸牧子先生から、センターと連携して行っている事業「長崎医師保育サポートシステム」「マタニティ白衣貸出」の紹介がありました。行政・大学(病院メディカル・ワークライフバランスセンター)・県医師会が円滑に連携して事業を推進しているところは珍しいため、瀬戸先生は、日本医師会の男女共同参画委員に着任され、全国波及の一助を担われるそうです。医師会活動の紹介や「良い医療者になってください」と学生へ激励の言葉をいただきました。

<発表と先輩医師からのアドバイス>
事例毎に、12グループが発表しました。他のグループは、相違点や良かった点などを発表しました。

医局長やワークライフバランス推進員の先輩医師から貴重なご意見を聴かせていただきました。

<ロールモデル医師の講演①-ビデオ->

長崎大学病院 心臓血管外科 准教授 三浦 崇 先生
「外科系診療科における男女共同参画の現状と展望」~心臓血管外科における「育児休業(育休)」取得と「その効果」~
日本外科系連合学会学術集会で発表された動画を三浦先生の許可を得て視聴しました。医局で2名の男性医師が同時期に子どもを授かったことが判明してから、医局長としての対応と医局の現状を見据えて具体的に行ったサポートを説明しました。家事・育児への男女共同参画の好事例となり、「今後も医局内で取得を促し「ワークライフバランス」が充実するようにサポートしていきたい」と話しました。

<ロールモデル医師の講演②-ビデオ->

長崎大学病院 麻酔科 助教 岡田 恭子 先生
「私のワークライフバランス」
2児の母で、麻酔科医として育休明けから徐々に勤務時間を増やし、子どもがいてフルタイムで働き当直も行う女性医師は少数派だが、「自分がどうしたいか」「夫の理解があるか」「子どもの預け先があるか」が大事だと話しました。個性心理学インストラクターや性教育認定講師としてもご活躍です。「「医師としてどう生きたいか」人と比べず「みんな違う」ことを知り理解することで穏やかに過ごせるので参考にしてほしい」と話しました。

<ロールモデル医師の講演③-ビデオ->

長崎大学病院 産科婦人科 医員 野口 将司 先生
「産婦人科医の育休」
「いつか自分に子どもができたら育児休業を取りたいな」と思っていた。妻の妊娠判明時は、自身の「人生の大きな転機だった」と位置づけました。まず育休制度について調べ、給付金制度、条件や期間を検討し上司へ報告、周囲の同僚や後輩へ業務の根回し等を実行したと説明しました。育休期間は1か月間で、家族でゆっくりと充実した日々を過ごせたと話しました。本来は、妻の体調が一番辛い時期(生後すぐ~3か月頃)に取得したかったが、条件面で叶わなかった。しかし、育児・介護休業法の改正により、2022年4月から段階的に条件が緩和されるので、2人目ができたら、男性版の産休や育休を取りたい、育休を取得してみて、人生において「家族との時間が一番大事」だと痛感した。育休を取るのが目的ではなく、「家族を支えるのが目的」と締めくくりました。

<メディカル・ワークライフバランスセンターの取組紹介>

長崎大学病院メディカル・ワークライフバランスセンター 副センター長 南 貴子 先生
「メディカル・ワークライフバランスセンターの取組紹介」
最後に、南先生よりセンターの「私たちのワークライフバランス実践術」「輝く卒業生インタビュー」「育休取得者へのキャリアコンサルティング」「マタニティ白衣の貸出」「長崎医師保育サポートシステム」「研修病院ワークライフバランス推進員との連携」等々の取組を紹介しました。
また、南先生のキャリア年表を示し、「道のりも歩むスピードも多種多様。子どもを授かった時の相談や介護相談もできるので、両立に悩んだ際はセンターへ相談してほしい」と話しました。

南先生-センター取組紹介スライド20210924学生講義

その他、グーグルフォームによる「講義前後アンケート」の実施や「キャリア&ライフ未来年表」の作成等、盛りだくさんのキャリア講習会でした。

<講義前後アンケートの集計結果抜粋>
●2021年度の受講予定者124名(男性83名、女性41名(女性の割合33%))のうち、アンケート回答者は、講義前108名、講義後98名でした。「ワークライフバランス」の言葉も内容も知っている割合は過去最多の62%で、小・中・高校の授業で学んだり、様々なメディアで取り上げられ、浸透しています。
●現時点での将来の不安については、講義の前後で、不安がある割合は共に50%以上(前60%→後50%)であったものの、不安がない割合は少し増加(前24%→後27%)しました。講義後に、講義前と比べて不安が減った・なくなったと答えた割合は57%で、学生の半分以上は、不安を抱えながらも、本講義で不安を軽減できたようです。将来に対する不安の内容(複数選択)で一番多いのは「仕事と生活の両立」と「キャリア形成」が共に16%)でした。次は「勤務地」と「診療科の選択」が共に15%で続きました。
「産休」「育休」の言葉はそれぞれほぼ100%の割合で認知され、男性も育休を取ることができると知っている学生も98%と高い割合でした。講義後の「自分も育休を取ってみたい」学生の割合は95%(男性95%、女性94%)でした。講義を受ける前から、育休取得を考える学生が性別を問わず年々増えています。
●将来の進路を決定する時に重視するもの(3つまで選択)のランキングは、講義前:1位「仕事の内容」2位「やりがい」3位「雰囲気の良い科」、講義後:1位「仕事の内容」2位「やりがい」3位「希望するライフスタイルが得られる」でした。講義後は、仕事と生活の両立を重視する学生が増えました。
●仕事と生活の両立については、講義の前後で「できる」前14%→後28%、「なんとかできそう」前48%→後62%へと増加して、講義後の両立への自信は90%と過去最多になりました。「できない」「わからない」の割合はいずれも講義後に減少し、また、「今回の講義が将来役に立ちそうだ」と答えた学生は92%となり、講義の意義があったと感じました。

<学生の感想抜粋>
●将来のプランは一通りではなく、様々な選択肢があることが分かりました。
●とても有意義な授業だった。昼休みに友達と将来について話したが、色々な選択があっていいと思う。

●ワークライフバランスについては、常々自分で考えていたので、自分としてはとてもありがたい話題でした。今日の色々な話を聞いて、自分は、悪い方にばかり考えてしまったり、細かいところまで気にしすぎたりしていると気付きました。もっと楽しく将来を見ていきたいと思います。
●家族との時間と、仕事の両立について不安がありましたが、今回の授業を聞いて、男性の育休について学ぶことができ、また、子どもを産み育てることが仕事に関してマイナスにはあまりならないのだと思えるようになりました。
●女性として今後経験する結婚、出産に対する不安が軽くなりました。
●グループワークでリアルな事例に触れて、みんなと意見を交流することでイメージが膨らんだ。
●自分のしたいこと、希望を前提にしながら結婚等する際はパートナーと話し合ったりして、しっかりとライフプランをしていきたいと思います。
●男性育休の制度が徐々に整っていて、自分が医師になる頃にはもっと理解のある職場になっているのだろうなと、安心しました。
●普段気になっていたけど、知ることができなかったことばかりで面白かったです。
●自分の将来を今までで一番考える時間になりました。

2021-09-24学生講義アンケート集計抜粋結果

<講義協力者のコメント>
●腎臓内科 阿部 伸一 先生
 大変勉強になりました。私の学生時代はあの様な講義はなかったので、新鮮に感じるとともに今の学生は恵まれているなとうらやましく思いました。
●産科婦人科 松本 加奈子 先生

 今回、同講習会に初めて参加させていただきました。与えられたケースにおける問題とその対応・解決策について、学生さん達が想像力を働かせながらいろいろな角度から考えている姿に感激し、私自身も学ぶことが多くありました。医師にとって、この「想像力」がとても大切だと日々感じています。患者さんはもちろん、同僚・コメディカル・家族など、相手の立場になって考えていくことは、医師として、人としての成長につながると思います。この講習会はぜひ今後も継続していただきたいと思います。
●医療教育開発センター 松島 加代子 先生
子育てについて、アフリカ留学について行くのか、日本で進学させるのか、学生さんと私たちシニアの選択に相違があった場面は興味深かったですね!医師経験を積んでいくなかで、「視野を広げること」、「新しい経験をすること」の重要性を、キャリアとともに強く感じていくのかもしれないなと思った場面でした。年月を経て、自身の考え方や価値観は変化していきます。自分がどうありたいか、そのときの気持ちを是非大事にして、ポジティブに取り組んでみてほしいと思います。ただし、全てが最短距離で到達しようとすることが最善策ではない場合もあります。皆さんを取り巻く人たちの考えも尊重しながら、しっかりと前進していってください。私たち医療教育開発センターも全力で応援します!
●クラスペディア代表 吉岡 和佳子 氏(ワークライフバランスコンサルタント)
年を追うごとに、学生や医療人の方々の意識、そして病院の職場環境が変わってきていることを実感しています。グループワークで取り組むテーマは、簡単には解決できない課題ばかり。発表された結論も多種多様で興味深かったです。今回は「お互いにとって何が一番大切なのか?」を重要視しながら、ポジティブに解決策を考えるグループが多い印象でした。希望する診療科やキャリアの方向性、子育ての方針など、パートナー同士でしっかりと思いを共有し、尊重していくことが大事。現役医師の先輩方が「希望の進路は変えないで」とエールを送り、様々な選択肢や可能性を示してくださる様子を見て、とても心強かったです。

今年の講義では、来年2022年度に男性育休の法制度が改正されることを受け、ロールモデル医師3名のうち、1名は男性の育休取得を推進した心臓血管外科の医局長、1名は育休を実際に取得した産科婦人科の男性医師にご協力いただき「男性育休」を大きな柱にしました。
授業の最後には「キャリア&ライフ未来年表」で自身の人生計画を時系列でイメージしてもらいました。提出のあった70名の男子学生のうち、13名(19%)が、育休取得を明記していました。昨年の2名から増加しているため、今の社会情勢や、今回の授業を受けたことで、育休取得を現実的に捉えることができるようになっていると思います。同じく同数の13名(19%)が、子育てや、家族を大切にすることを記載しており、男子学生の3割以上が、子育てを共有する意識ができているとわかりました。
アンケート結果からわかるように、これからの若い世代は、夫婦での育休取得が当たり前と考えるようになります。それを受け止めて、組織とその管理職の意識が変わる必要があります。来年度以降、長崎大学病院はじめ長崎県内の医師の育休取得が、希望に沿ったものになるように、センターとして、環境整備を促進したいと思います。