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長崎大学医学部3年生「医と社会」授業で、学生キャリア講習会を行いました

2022.10.11

「医師としてのキャリア継続のため、ワークライフバランスの考え方を知るとともに、医師としての多様な生き方を学ぶ」ことを目的として取り組みました。昨年同様、感染対策を講じて対面で行いました。
日 時:2022年9月30日(金)8:50~16:20
対 象:長崎大学医学部医学科3年生(男性85名、女性39名 合計124名)の「医と社会」教育の一環で実施。

<ロールモデル医師の講演①>

・ミネソタ大学 糖尿病・内分泌代謝部門 Assistant Professor 荒木 貴子 先生
「アメリカ臨床留学から研究室立ち上げそして子育てまで」
臨床留学のきっかけ、生涯のメンターとの出会い、下垂体専門分野を極める決意とチャレンジ精神、シングルママとして双子の子育てとキャリアの両立方法などについて話しました。「男性だから、女性だからとリミットを作らないこと、ダメかな~とは考えずにどんどん挑戦してほしい。医学部3年生の頃は自身も道に迷っていて、今の立場を全く想像もできていなかったので、皆さんの可能性は多様にある。」とのメッセージを贈りました。学生さんには受講前に「輝く卒業生インタビュー」を読んでもらいました。ご縁を手繰り寄せる力をお持ちの荒木先生に、既に数名の学生さんからコンタクトがあったそうです。

<ワークライフバランス講義>

長崎大学 理事(学生担当・国際担当) 伊東 昌子 先生
「多様性の尊重とキャリア形成について考える~無意識の偏見~」
伊東先生の医師としての研究テーマ「骨粗鬆症」について、マイクロCT画像の説明は学生の目を惹きつけました。いわゆる男社会の中で臨床・研究を学び、地位を確立された伊東先生の自己紹介は、様々な選択と覚悟の積み重ねがあったことが感じ取れました(アカデミックキャリアアップへのアドバイス参照)。「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)は、だれもが持っていること、これを意識することで社会生活が変わってくることを学び、認識してほしい。」と話しました。また、アンコンシャスバイアスの解決法として「心理的安全性」という考え方があることを紹介しました。

<メディカル・ワークライフバランスセンターの取組紹介>

長崎大学病院メディカル・ワークライフバランスセンター 副センター長 南 貴子 先生
「メディカル・ワークライフバランスセンターの取組紹介」
南先生よりセンターの「私たちのワークライフバランス実践術」「輝く卒業生インタビュー」「育休取得者へのキャリアコンサルティング」「マタニティ白衣の貸出」「長崎医師保育サポートシステム」「研修病院ワークライフバランス推進員との連携」等々の取り組みを紹介しました。
また、南先生のキャリア年表を示し、「道のりも歩むスピードも多種多様。子どもを授かった時の相談や介護相談もできるので、両立に悩んだ際はセンターへ相談してほしい。」と話しました。

<グループ討論>
仕事と育児の両立を目指す共働き医師が、問題に直面した時にどのように解決していくかを、グループに分かれて討論しました。

<医師会の取組紹介>

長崎県医師会 常任理事 瀬戸 牧子 先生
「国の予算から社会保障の財源を獲得しようにも医療系の議員が少ない現状では充実が見込めない。医師会の取り組みは多岐に渡っていることをもっと多くの人に知ってもらい、若い先生方には男性も女性も関係なく分科会など身近なところから医師会の役割に関与してほしい。」と話しました。
※会場で配布:日本医師会発行「ドクタラーゼ別冊~医師会のことをもっとよく知ってもらうために~」
※「ドクタラーゼNO.43」2022.10発行分に、長崎大学理事 伊東 昌子 先生が掲載。

<発表と先輩医師からのアドバイス>
事例毎に、12グループが発表しました。うち2グループには3年ぶりにロールプレイング発表をしてもらいました。

ワークライフバランス推進員などの先輩医師から、貴重なご意見を聴かせていただきました。

<ロールモデル医師の講演②>

・長崎大学病院 血液内科 助教 佐藤 信也 先生
「私のメディカルワークライフバランス~無理なく共働きを続けるために~」
佐藤先生が「自分、家事や子育て手伝ってる方だよね。何パーセントくらいかな?」とパートナーに尋ねたところ「0%!」との返事で驚いた会話の紹介があり、夫婦の家事・育児に対する意識のズレを無くすこと「男性は特に手伝っているという発想はおかしい」ことに気づき、家事・育児の分担を明確にする、コミュニケーションを図る、利用できるサービスは積極的に受けるようにアドバイスしました。

<ロールモデル医師の講演③>

・長崎大学病院 循環器内科 医員 黒部 昌也 先生
「卒後13年目医師が思うワーク&ライフに大切なこと5選」
①仲間を作る→自分の思いを表現しきちんと伝える事ができる環境・信頼できる人を増やす②きちんと断る→安請け合いはせず自分の担当業務に支障が出そうな時は、中途半端な関わりで逆に迷惑をかけないように勇気を持って断り、代替案を出す③料理を作る→家族の行動や健康状態など家庭全体を把握しやすい④スイミングスクールに通う→父担当枠で送迎を行い父と子の関係づくり、仕事と別の居場所を持つ⑤育休を取る→ライフイベントで家族一緒に変化する、家事・育児の目線を合わせる、仕事の任せ方を学ぶ、職場の組織力があがる、家庭・仲間へ貢献したいと思える、など黒部先生の実体験からわかりやすく話しました。

その他、グーグルフォームによる「講義前後アンケート」の実施や「キャリア&ライフ未来年表」の作成など、盛りだくさんのキャリア講習会でした。

<講義前後アンケートの集計結果抜粋>
●2022年度の受講予定者124名(男性85名、女性39名(女性の割合31%))のうち、アンケート回答者は、講義前101名、講義後107名でした。「ワークライフバランス」の言葉も内容も知っている割合は70%で、3年連続過去最多を更新しており、年々関心が高まっているといえます。
●現時点での将来の不安については「不安がある」割合が講義前56%→講義後44%で講義前に比べると減少しています。また、講義後に「講義前と比べて不安が減った・不安がなくなった」と回答した割合は59%で、学生の半数以上は、不安を抱えながらも本講義で不安を軽減できたようです。将来に対する不安の内容(複数選択)で一番多いのは、「勤務地」が18%、次に「キャリア形成」と「仕事と生活の両立」が共に16%、「診療科の選択」が15%で続きました。
「産休」「育休」の言葉はそれぞれほぼ100%の割合で認知され、男性も育休を取ることができると知っている学生も99%と高い割合でした。講義後の「自分も育休を取ってみたい」学生の割合は95%(男性95%、女性97%)でした。講義を受ける前から、育休取得を考える学生が性別を問わず年々増えています。
●将来の進路を決定する時に重視するもの(3つまで選択)のランキングは、講義前:1位「仕事の内容」2位「雰囲気の良い科」3位「その領域の研究に興味がある」、講義後:1位「仕事の内容」2位「雰囲気の良い科」3位「希望するライフスタイルが得られる」でした。講義後は、仕事と生活の両立を重視する学生が増えました。
●仕事と生活の両立については、講義の前後で「できる」前10%→後20%、「なんとかできそう」前56%→後69%へと増加して、講義後の両立への自信は89%と高い割合に到達しました。「できない」「わからない」の割合はいずれも講義後に減少し、また、「今回の講義が将来役に立ちそうだ」と答えた学生は96%となり、講義の意義があったと感じました。

<学生の感想抜粋>
◎医療関係はどうしても多忙でパートナーへの負担が大きい職業であると偏見を持っていたが、いまはワークライフバランスを重視した将来に期待できるようになった。
◎男性だからとか女性だからという考えがなくなってきている(そういう人もまだいるが)という現状があることがすごく良いことだと思う。僕も将来パートナーと協力して仕事と家庭の両立ができればと思う。
◎医者として働いている先輩方も周囲の人に助けられて仕事と家庭を両立させているとわかった。今回の講義が聞けて良かった。
◎ワークライフバランスについて考える機会はこれまでも何度かあったが、今回ほど現実的なのは初めてだった。特にロールモデルとなる先生のお話を聞けたことはとても良かった。
◎長崎大学はいろいろな先生方が仕事と家庭を両立していて凄く良い環境だなと思った。ただ、自分は実家の都合上、福岡に帰らないといけないので福岡ではどこの病院がワークライフバランスを重視しているのかネットで調べようと思ったが、正直どこの病院がどの感じなのかを自分だけで把握するのは大変でできるかどうかには不安が残る。
◎特に男性は取りにくいイメージのあった育休であったが自分の生活のためにも必要であり、また取りやすくなってきていることがわかりとても安心した。
◎人のためを思う医師といえども自分たちの生活は大切にしなければと思った。
◎様々な先生のお話を聞くことが出来たので、より具体的に自分の将来を考えることが出来た。グループワークでは、同じ症例でも自分とは違った視点の問題点が出てきたので、面白かった。
◎仕事の話を聞く機会は今までもあったが、医師のプライベートの話を聞ける機会は今までなかなかなかった。将来を考えるきっかけになったと思う。
◎実際に子育てをされている先生方のお話がリアルでとても身にしみた。たくさんの先生のお話が聞けて良かった。
◎ワークライフバランスの考え方を、実際の医師の方々の実体験を交えながら学ぶことができた。今日の授業まで、こうしたことは考えていなかったので、これから少しづつ考えていけると良い。
◎キャリアプランをしっかり考えた経験が乏しかったので、改めて考えてみて、将来について何も考えてなかったことに気付かされ、不安が増したので、これからしっかり考えようと思う。

20220930学生講義アンケート集計抜粋結果

<先輩医師のコメント>
●消化器内科 田渕 真惟子 先生
久しぶりに病院実習前の医学部学生さん達のお顔を拝見いたしました。皆さん、お若いにも関わらず、メディカル・ワークライフバランスセンターから出された絶妙に際どい難問に真摯に向き合っている姿に、とても感銘を受けました。子育てや仕事は私自身、ぶち当たって初めてその困難さに気づいたような未熟者ですので、皆さんの他人事ではない、かつ悲観的でもない前向きな意見が羨ましくも感じました。医療と私生活の両立は困難な道であることも間違いありませんが、これからの医療を支える若い力に期待したいと思います。
●腫瘍外科 田中 彩 先生
これから数年後には医師になる皆さんが、今どのように働き方について考えているのか、知ることができて、とても面白かったです。「両親を頼る」という選択をするグループが多いように感じましたが、両親には両親の生活がありますし、いつも元気というわけではありません。体調の悪い子どもを預けるのは、うつしてしまうリスクもあるし、元気のある子どもよりも責任を重く感じさせてしまうので申し訳ないと私は思っています。適度に一緒に育児を楽しんでもらえたらという距離感でいられる方が良いのではないかなと思いました。長崎には小児科併設の病児保育施設や、大学病院の病児保育施設「にじいろ」がありますので、そのようなサポートを活用するのも良いのではと思います。また、「環境が変わるのは子どもにも良くない」と、アフリカや関東への引っ越しをしないという選択をするグループがありましたが、環境が変わっても、家族一緒に過ごせる時間は貴重ですし、子どもは意外と強いかなと思います。特に共働きをしていると、自分が育児をできる時間は、本当にあっという間に過ぎると実感しています。振り返ればきっと良い思い出です。自分のキャリアも大事にしつつ、自分の周りの人や子どもを大切にできるように、一緒に頑張っていきましょう。
●皮膚科 服部 尚子 先生
与えられたケースに対する短期的・長期的な対策や、それぞれの結論が、とても現実味を持っていて驚きました。皆さんの回答から学ぶことも多くあり、有意義な時間を過ごさせていただきました。また「キャリアを諦めない」選択をされている方が多く、意識の高さも感じました。現実的には、どこかの段階で何かしら手放さないといけないものや諦めないといけないものも出てくるかと思うのですが、今回のように想像力をはたらかせて、自分や家族にとって何が一番重要なのか、大切なのかを見極めながら進んでいただければと思います。
●麻酔科 吉﨑 真依 先生
とても印象的だったのは、いずれのシナリオにおいても、家族という設定の中で誰かが我慢しないといけないということではなく、お互いの仕事や考えを尊重しながら、その中でどうすればうまくいくか、ということに多くの学生さんが重点を置いていたことです。家庭も仕事も周りの協力がなければ成り立たず、周りに感謝しつつ、お互いに尊敬しあうということが大切だと思います。今だからこそそのように思えますが、自分が学生の頃にはそこまで深く考えることはできていませんでした。今回の発表を聞かせていただいて、ただただ素晴らしいなあと感銘を受けました。
●心臓血管外科 田口 駿介 先生
私自身が大学生の頃はワークライフバランスのことについて考えることがほとんどなく、正直なところ、心臓血管外科に進み、仕事第一で家庭のことをはじめ、私生活のことは二の次だろう、などと考えていました。しかし、実際に結婚し子どもを持つと考え方が変化してきました。今回の講習会に参加させていただき、学生さん達の意識の高さに驚かされるとともに、これからの時代はワークライフバランスが重要な鍵を握っているなと改めて感じました。皆で気持ちよく仕事をしていくために少しでも出来る事はないかと日々模索していきたいと思いました。ありがとうございました。
●医療教育開発センター 松島 加代子 先生
育休はもちろんのこと、院内外で利用できるサポートシステムを学生さん達が詳細を発表しており、メディカル・ワークライフバランスセンターの取り組みが認知されてきていることを嬉しく思いました。長崎の医療機関の良いところは、どこへ行っても顔の見える関係で繋がりをもってワークライフ支援を受けられるという点です。ぜひ、学生のうちに、長崎の良い部分を吸収し、広い視点を持って積極的に実践する力を養ってください。そうすれば、将来どこに行こうとも、柔軟に対応できると思います。また、今後のキャリアのなかで誰にでも、体力的、時間的、経済的…様々な理由で、凹凸が生まれると思います。そんななかでもお互いを思いやり協調しながら豊かなワーク&ライフを過ごしてほしいと思っています。いつでも頼って来てくださいね。

<南 貴子 副センター長 所感>
今回初めての試みとなりましたが、アメリカ在住で長崎大学医学部の先輩医師・荒木貴子先生にご講演いただき、時差10時間(夏時間)のミネソタとZoomを利用して直接質疑応答する時間を設けました。朝一番の講義でしたが、学生の皆さんは、荒木先生のパワフルで波乱万丈のキャリアを熱心に聴いていました。自分の「諦めたくないこと」を定めて、どんな手段を使っても諦めないという、強い姿勢に影響を受けた学生さんが多かったと思います。グループワークでの発表では、子育て支援にシッターさんを利用するという選択肢が多くみられ、講義後の未来年表には、これまでより多い20数名の学生さんが「海外留学」の希望を書いていました。荒木先生にはロールモデル医師として、非常に良い刺激を与えていただきました。また、佐藤先生、黒部先生の男性医師お二人は、パートナーのキャリアを尊重しながら、自分の仕事と家庭生活を両立させるために、どのように工夫しているかをお話しいただき、学生さんに夫・父親としての新たな一面を見せていただきました。
来年度も、インフルエンサーとなるロールモデルに登場してもらえるように、準備したいと思います。