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長崎原爆病院

2015.11.20

平成27年11月20日、日本赤十字社長崎原爆病院の平野明喜院長、パートナーの留学同伴と育児のため1年3か月の休職期間を経て、10月からフルタイム復帰したばかりの外科医 畑地登志子先生、中村清美看護部長、立石一弘事務部長の4名にお話を伺いました。

●乳腺内分泌外科で活躍中の女性医師 畑地登志子先生インタビュー

●平野明喜院長インタビュー

●中村清美看護部長インタビュー

●立石一弘事務部長インタビュー

  

  

  

乳腺内分泌外科で活躍する女性医師、畑地登志子先生に、働き方と子育てについて伺いました。

  

常勤で8時半から17時までの定時で帰宅できるように配慮していただいています。カンファレンスなどは時間外に行われることが多く、なかなか参加できません。

外来については以前は全て診ていましたが、復帰した現在は新患のみ、癌などで手術の必要となる患者さんも手術前まで外来で診て、術後は、他の先生の外来で診ていただくので、外来のための準備に時間を使わなくて済みます。

そうですね。乳腺と甲状腺の新患と、リンパ節生検などの小外科的処置で、専門に限らず外科医の誰もが対応する疾患は全部診ています。外来が週2回、全身麻酔手術に週1回、局所麻酔手術に週に1~2回のペースで入ります。

退院までは担当し、術後は一緒に手術に入っていただいた他の先生の外来に移ってもらっています。そのように業務量が少なくなるように配慮していただいています。

大満足です。しかし、同僚の2名の先生がすごく大変だということもわかります。以前は自分も同じように働いていたので、申し訳ないと思う気持ちはあるけれども、継続可能なペースを守ることはベターだと思っています。自分が仕事をできない分を同僚が負担しているので、心苦しいところはあります。

両立はおそらくできていないんですが、家庭は「しなきゃ絶対ダメなこと」「やってもやらなくてもなんとか生きていけること」と優先順位をつけています。完全ではないんですが、やれることだけやって、できないことは気にしないようにしています。

1人目の子どもの時は、夫が大学院生だったので、ものすごくよくやってくれ、子どもの定期検診や予防接種も全部行ってくれました。当時の私は毎日外来か手術のどちらかがあったので、午前中休むことができず、非常に助かりました。

2人目の子どものいる今、夫は留学後に大学病院で助教として復帰しているので、子どもが寝た後に帰ってきて、朝は7時前に出かけていきますので、私がほぼひとりで子育てをしている状況です。

夫に頼ることが難しいので、定期検診や予防接種などのピークが終わった時期に復帰をするようにしました。前と同じようにはいかないので、今は今なりの生活をしています。いろいろやろうと努力はしてくれているとわかりますが、時間的に難しいんだなという感じです。

「乳腺専門医を取る」という明確な目標を持っていました。その為には、「術者100例」という壁があったので、クリアするために1人目を出産後、急いでフルタイムで復帰し、資格を習得しました。

現在は、目標を「資格の更新」と設定していて、「5年間で乳癌手術100例」と少し穏やかに取り組めるので、失効しないように維持していきたいと思います。

私は大学院を経験しておらず、臨床経験を積んでいました。大学院への進学は子どもが小学校くらいになって一番子どもに時間を使うときに回そうと考えていて、先に臨床経験が必要なところを進めていました。他のみなさんとは異なるかもしれませんが、そのようなキャリアプランを自分で組んでいました。

ただ、同級生がみんな学位を取っているので、気持ちが焦ります。ちょうど今、同期が大学院を卒業して教官・助教となっている姿をみるとモヤモヤする感じはありますが、比べても仕方がないので、自分の道を歩もうと思います。

子どもは正直に言って、小さい頃より、大きくなってきた頃の方が手がかかり、時間がかかるようになってきたので、だんだん難しくなってくるなと思っています。

私の出身は他県ですが、長崎県に来て思ったことは、「すごく外科の女性の先輩が多い」「すでに育児に対するインフラが確立している」ことです。

「県医師会保育サポートシステム」やメディカル・ワークライフバランスセンターの取り組みからみても、助けを求めれば、だれかが手を差し伸べて助けてくれる制度はもうすでにできているので、とにかく先輩に相談すれば道は開けてくる場所だと思いました。

また、夫と同じ医局なので、人事の面も配慮していただいていますし、同じ医局の中に乳腺外科で子育て中の女性の先輩もいるので、情報や前例もあり、大変助けられています。自分なりのプランをもってコツコツとやっていけば道は開けると思います。

最近実感したことですが、1年前に夫の留学で海外に住んだときに、世界各国のママ友ができました。みなさん名門大学を卒業されていますが、夫の留学に同伴されて職を失った場合、同じポストに戻るのはとても難しいそうです。
私が医師免許を持っていることをすごく羨ましがられ、やはり医師免許というのは、希望すれば働く場所が与えられるので素晴らしい職業なんだと感じました。

  

平野明喜院長に、ワークライフバランスに対する考えなどについて伺いました。

  

介護支援に関しては、実績がまだありません。育児との両立に関してはできる限りのことはサポートしたいというスタンスでいます。医師の育休を取得した件数はあまりなかったようです。

私としては、いろんな勤務形態に希望があれば対応したいと思います。育児短時間勤務・当直免除・パートタイム・短時間正規雇用などその都度検討したいと思います。

畑地先生のように枠内で女性で当直免除が出ると他の先生に負担がかかり、精神的に休みが取りにくいという点があります。育休その他では、すべての診療科がそうなるとは限らないですが、産育休のため医師が減った診療科の場合は、+αで人員を確保できれば精神的な負担は減るとは思います。

ですが人員増となるので、すべての診療科に適用できるかは約束できませんが、できるだけそのような体制を整えたいと思います。

長崎原爆病院は、長崎大学病院から近く、いろんな面で恵まれているんですが、最近は大学病院そのものが医師不足であり、我々の病院としても診療科によっては医師不足の状況なので、できるだけ待遇をよくして病院に残っていただきたいと思っています。
この病院は、皮膚科、眼科、放射線科、検診センター4つの部署で女性管理職(診療部長・センター長)が活躍しています。

また、検診センターの内視鏡検査を子育て中で休職中の先生が週に1回でも来てもらえないかと探していますが、そういう状況の先生は医局とつながりがあるのか、私たちでは把握できません。現在休職中だが、短時間だけでも復職を検討している医師の情報があれば助かるのになと思います。

現在長崎市の魚の町にある日本赤十字社長崎県支部と、長崎原爆病院が同じ茂里町の敷地内で、共同の建物を建設予定です。
12月1日には、新立体駐車場の運用を開始します。敷地から少し離れた場所にある既存の院内保育施設が老朽化しており、建設予定敷地内に院内保育所を開所できないか構想中です。

↑現在の長崎原爆病院
右手が新立体駐車場

  

中村清美看護部長に、看護師のワークライフバランスについてお伺いしました。

  

育児に関しては、育児短時間制度利用でバックアップしています。介護休業制度は過去に数か月利用した人はいます。

産休・育休に入っている職員は11月1日付で24名、正職員の8%近くの職員が休暇・休業に入っています。育児短時間制度の利用者は、11月1日付で39名、実働正規職員全体の14%ぐらいです。

夜勤もできる人はしています。配偶者が深夜において仕事に就いている方々には、深夜勤務免除により夜勤は免除していますが、勤務可能な方には、通常の勤務回数の半分でも協力してほしいと伝えています。

託児所を利用しているのは、医師よりも看護職員の方が多いです。先生方も単発で、一時保育をご利用になっています。

平均10ヶ月程度です。次々にお子さんに恵まれて、上の子の育休中に下の子の産育休に入られる方もいらっしゃいます。しっかりフルタイムで復帰する間もなく、次の育休に入った看護師の中には、復帰に対し不安になるスタッフもいるので、更新の時や来院の都度に病院の状況について情報を提供し、病院とのつながりが途切れないような関わりを努めています。

いよいよ、復帰の時期が近くなると、密にコンタクトを取りますし、復帰時のオリエンテーションも行っています。

なんらかの機会があれば、顔をだしてもらい、その都度、今どうしているのか、戻ってきた時はどんなふうに働きたいとか、相談を受けています。

勤務形態の希望があれば、この部署ならちょうどうまくローテーションができるよという感じで復帰時期の相談にのっています。いったん決めて手続きをしてしまうと育休の期間を早めることは、制度上できないので、更新をする時は、当事者と十分話し合って復帰時期を決めています。

たくさんの看護師が、自分の職業を一生の仕事と思って働いてくださっていると思っているんですが、実家や義理のご両親もまだ現役で働かれているという状況で、なかなか周囲の協力を得難いとか、「子どもを犠牲にしてでも、まだ働かなければいけないの?」と言われたりする中で、どういうふうに工夫したら働けるのだろうかと、思い悩んでいる若い看護師って多いと思うんですね。

でもお子さんは日々成長していくので、そこをどう乗り越えればというところで、共働き家庭が少しでも働ける環境づくりのアドバイスというか、そういうところを一緒に頑張って行こうと、みんなには伝えたいなと思っています。

  

立石弘一事務部長に病院の現状をお伺いしました。

  

4月1日現在で、医師が75名いらっしゃいます。そのうち女性医師が16名、研修医も14名(うち女性が6名)で研修医を中心に女性が増えている傾向です。

<院長>
診療科が以前より減っていますが、医師数が減っているわけではなく、他に増えたところもあるので、医師数はトータルでは減っていません。

過去5年で、4名の方が育休を取られています。3名の方は復職され、おひとりは育休後、退職されました。

当院にくる研修医の先生は約半数近くが女性です。そういう面では、女性が働きやすい環境をつくらないとこれからは、病院として成り立っていかなくなるのではと思っています。
具体的な対策がとれていない面もありますが、これからそういった部分に取り組むことは必要だと考えています。

<院長>
若い女性の方は家庭をもっても、辞めないでほしい。中断するとなかなか再開しにくい。継続して連絡を取り、モチベーションを高めてほしい。育休中の子育てで離職している人との接触がとりにくい。
メディカル・ワークライフバランスセンターから、こういう人を求めているというように、情報を発信してもらえれば助かります。手術をしたり、外来患者を診たりしなくていいから、ちょっとでもつながりをもっていてほしい。その手助けをしたいです。

<畑地先生>
育休の間は、働いていた頃がすごく遠くのことに感じます。また戻れるんだろうかと不安もあり、声をかけられなかったら、自分はもう必要ないのかなと思ってしまうので、声をかけてもらえるのを待っている人もいると思います。

経済的に困ることがなければ、家族にとって妻、母が働くことにメリットは少なく、働かなくてもいいと思ってしまうこともあるので、家族からではなく、外の人からの働きかけがないと、ハードルが越えられないのかもしれない、と思います。

―貴重なお話をありがとうございました。

  

託児所を見学させていただきました。

  

日本赤十字社長崎原爆病院

地域就労支援病院

<副センター長の感想>
女性の診療部長が4人(放射線科・眼科・皮膚科・健診科)も勤務されており、働きやすい環境が整備されていると感じました。

麻酔科には週4日勤務で、未就学児のいる母医師が2人いらっしゃいます。2年後に、診療棟が新築され、4年後に日本赤十字社長崎支部の入る棟も新築予定ですが、その中に、すでに築30年以上となった託児所も、できれば配置したいということです。

便利のよい職場内保育施設があると、あらゆる職種の子育て中の職員さんが、働きやすくなるので、是非、敷地内開所をご検討ください。