平成27年7月7日、県央地区での現状を確認するため、独立行政法人国立病院機構長崎医療センターの江﨑宏典院長、育休後1年間の短時間勤務(常勤)を経て、今年の5月からフルタイム勤務の病理診断科 三原裕美先生、臨床研究センター機能形態研究部長 伊東正博先生、杉原三千代看護部長、仲地善美事務部長の5名にお話を伺いました。
●基礎研究分野の医師の子育てについて、病理診断科で活躍中の女性医師 三原裕美先生インタビュー
●三原先生の上司で、臨床研究センター機能形態研究部長 伊東正博先生インタビュー
●ワークライフバランスなど病院運営の方針について、江﨑宏典院長インタビュー
●看護部におけるワークライフバランス導入について、杉原三千代看護部長インタビュー
●事務部門から考える病院としての取り組みについて、仲地善美事務部長インタビュー
「人が集まる」病院づくりを推進し”トップと管理職の理解と配慮で働きやすさ”を実現する長崎医療センター
病理診断科で活躍する女性医師、三原祐美先生に、働き方と子育てについて伺いました。
Q.現在の勤務形態はどのようになっていますか。
現在はフルタイムの時間どおり、8時~17時15分まで、残業はなく、保育園のお迎えのため、毎日定時になったらぱっと帰ります。当直も呼び出しもありません。
ここには、平成21年から原研病理学教室の異動で来たのですが、平成24年9月に第2子を出産し、その6週間前に産休に入り、続けて育休を取りました。
その後、平成26年5月から週2日勤務(注1)、今年の5月からフルタイム勤務になりました。
私は卒業後すぐ大学院に入り、休学して第1子を出産しましたが、その時には学生だったので時間に自由がありました。
(注1:長崎医療センターの短時間勤務制度は週3日からだが、三原先生は年休を活用し、週2日勤務していました。)
Q.就職のきっかけは?
伊東先生から大学院卒業間際に誘っていただき、こちらに就職しました。その時に他の病理学教室のスタッフに、という話もあったのですが、子育てしながら研究というのは、私にはちょっと難しくて、頭の切り替えができない人間なので。
実験病理に対してこちらは外科病理という診断メインの病理なのですが、そういった仕事がしたかったんですけど、どこに相談したらいいかわからなくて、伊東先生が声をかけてくださらなかったら、主婦をしていたかもしれません…。
Q.今の勤務や子育てについてどう感じていらっしゃいますか?
当直、残業がないというのはとても助かっています。任されても子どもの面倒を見てくれる人、ベビーシッター等がいないので難しいです。
私たちの両親は、私が北九州、夫が島根で、どちらも県外在住なので、面倒をみてもらうのは無理ですし、夫は、私の妊娠中から、2年以上単身赴任中です。
今は自宅近くの保育園と小学校に通わせています。院内の保育園に申込んだ時には定員がいっぱいで、後から聞いたら、他の皆さんは妊娠が分かった時点で申し込んでいるとのことでした。
育児に関しては、上の子が小さい時に、無理をしていたら続かないと痛感し、一時期辞めたいと真剣に考えたこともありました。上の子の時は大学院生でしたが、初めての子育てでわからないし、周りに相談できる、同じような環境(子育てしながら研究している)の同年代の人がいなくて、自分一人でああでもない、こうでもないと考えていました。
Q.今の勤務でのデメリットはありますか?
伊東先生と黒濱先生(男性)がカバーしてくださっているので、時間外勤務がなくて、デメリットはそんなにないですけど、欲を言えば、週1日平日に自由な日があればと思います。
休みは事前に言えば可能ですが、下の子がしょっちゅう熱を出すので、その看護のために有休を使ってしまい、残りがあと3、4日しかないので大切に使いたいと思っています。
Q.仕事と生活の両立で工夫していることはありますか?
とにかく時間がないので、なんとかして時間を生み出さなければと思って、夕飯を作らない日を決めて、宅配を利用することにしました。
その分、空いた時間を子どもと遊んだり、絵本を読んだり、一緒に過ごすようにしています。週3日、上の子の塾の日に合わせて、宅配の夕食を頼んでいて、私の帰宅前に、上の子は自分で夕飯を食べて塾に行っています。
Q.今後のキャリアプラン等はどのようにお考えですか?
今は専門医まで取得しています。第1子を産む直前に取りにいったら運よく受かって、よかったと思いながら育休に入りました。これから取りたい資格は、細胞診の指導医です。
ただ、勉強が大変というのもありますし、細胞診の経験もあまりないですし、取った後も更新が結構大変なので、タイミングを考えながらと思っています。
また、各科とのカンファランスは時間外になるので、子どもが中学生になったら出られそうです。
Q.同じ立場の女性医師へ、メッセージをお願いします。
仕事現場で力を出しきってしまうと、家に帰って何もできなくなるので、ある程度セーブしながらやっているのを少し申し訳なく思いますが、そこを頑張りすぎると続かなくなるので、自分ができる範囲で辞めずに続けられる働き方をしていればいいんじゃないかなと思います。
周りからどう言われようと、どう思われようと、自分が「これでいいんだ」と思えるのがいいと思います。
三原先生の上司で、臨床研究センター機能形態研究部長の伊東正博先生にお話を伺いました。
Q.伊東先生が声をかけられて、三原先生がこちらに就職されたそうですが。
そうですね、病理が2名体制の時、もうひとりの先生が勉強のため別のところに行ったので来てもらいました。今はもうひとり黒濱先生がいて3名体制なので、女性医師、特に家庭がある女性医師には負担をかけないようにしています。
Q.育児休業から復帰された時、初めは週2日からでしたがどうでしたか。
3名体制だから大丈夫でしたが、連続した夏休みなどは取りにくかったですね。でも、病理は通常1名体制が多くて、3名いるのは九州でも珍しいです。
三原先生は2人目が欲しいとずっと言っておられ、妊娠された時は5名体制でしたが、1名が熊本へ転勤になり、三原先生が産休に入った時点で、3名体制になり、さらにもう1名抜けたり、ということもありました。
ここは、症例数もあるし、国内・海外の留学もさせているし、診断病理としてはとてもいい職場です。それに、三原先生など女性医師には、土日と夜の解剖はしてもらっていません。
三原先生には解剖が平日の朝からある時だけ入ってもらっています。あまり無理はさせないようにと考えています。ご主人が単身赴任中で、1人で子ども2人をみるというのは大変だと思います。
Q.細胞診の指導医を取りたいと三原先生はおっしゃってましたが、先生は三原先生に次のステップとして何を望まれますか。
病理専門医研修指導医ですね。指導医を取らないと、後期研修医にきてもらうのが難しくなったりするので。それから、実現するのはまだ先の話になりますが、遠隔での診断等が発達すれば、家で仕事ができるようになるかもしれない。すでに機構の制度としては認められています。
Q.三原先生が将来はカンファランスに出たいとのことでしたが。
本当は出てほしいです。CPC(臨床病理検討会)もやっていて、今は私と黒濱先生でやっています。準備が結構大変なので、三原先生も入れるようなら入ってもらいたいと思います。
ですけど、無理はしなくていい。無理するようなことは自分達も求めていないですが、将来はやってもらいたいと思っています。育児の期間はそう長く続かないですし、いずれまた元に戻ってもらえばいいと考えています。
Q.これからこちらで働く人たちへのメッセージをお願いします。
今、病理希望の女性医師が2名ほどいます。全国的にも病理に30代の女性医師は多く、女性病理医が増えています。夜間の呼び出しは減っているし、オンオフがはっきりしていますし、女性におすすめだと思います。
江崎宏典院長に、病院全体のワークライフバランスに対する考えなどについて伺いました。
Q.こちらは専門医を取得した女性医師が15名程いらっしゃいます。他の病院と比べて多いと思いますが、それだけキャリアを積んだ女性医師が働いているということは働きやすいということになりますね。
これは女性だけというわけではないのですが、教育研修は大きな柱と考え、研修医も含めて、学会出張などに補助を出すようにしました。この分の財源は病院が治験などで得た収入です。
また、今年入った研修医は半分以上が女性になりました。男性が10名、女性が11名で、研修医全体としても半分近くが女性です。
Q.育児や介護の支援などはどうですか?
まず、国の方針があり、それを受けて、国立病院機構として計画を立て、それを軸にやっていきます。この4月から国立病院機構は非公務員化になって、女性医師と退職された医師の活躍の場をもっと広げようということを大きな柱として打ち出しています。
特に、女性医師に関しては、在宅で診療を行う制度が新設されています。
これは、介護や育児などでどうしても病院に来るのが難しい人を対象とした在宅勤務制度です。
想定しているのは、病理と検査、放射線など、患者さんに直接接する機会がない部門で、週1、2回のカンファランス出席などを条件にしています。
まだ今のところこの制度を利用している人はいませんが、画像を送るためのハードの整備といった問題等をクリアすれば、使うこともできます。 その他、短時間正職員という制度も新設され、35時間など短時間であっても正職員として雇用するというものです。
これまではフルタイムの人が育児などのために時間を短縮して働いたり、三原先生のように勤務時間が大幅に少ない勤務制度はありましたが、今回は初めから勤務時間を35時間として雇用するというもので、今までのものとは異なります。
Q.経営戦力としてのワークライフバランスについてどのようにお考えですか。
女性医師が増えていて、非常に大きな戦力なので、その人たちがキャリアを形成していくことが大事ですし、それをサポートするのが病院の使命だと思います。そのために、研修支援も子育て支援と同じくらい大切なことだと思います。特に、今は研修医に選ばれる病院であることが重要なので。
Q.女性医師にメッセージをお願いします。
女性だから大事にするとかじゃなくて、今後の医療を、地域の医療を支える人たちをちゃんと育てるというのが、私たちの病院のひとつの使命だと思っています。良質な医療を提供するというのが一番基本ですが、医療人の育成も大きな使命であることはみんなわかっていることだと思います。これに男女の差はない。
杉原三千代看護部長に、看護部での状況について伺いました。
Q.育児や介護に対して、看護部ではどのように取り組んでいますか。
機構では最大3年間育児休業が取れるので、2年、3年休んで戻ってくる人が増えています。現場から2年、3年離れると、結構浦島太郎状態となってしまうので、スムーズに職場復帰できるような研修について検討しています。
システムや看護の手順なども随時更新しているので、休んでいる間に変わったことを復帰の前から少しずつやっていくような形で、来年から取り組む予定です。
Q.年間どれくらい育休を取る方がいらっしゃいますか。
入れ替わりもありますが、毎月30名程います。職場復帰した人は就業の前後に合計2時間の時間短縮ができる育児時間制度を利用して勤務しており、現在利用者は約70名です。
Q.その方たちの夜勤はどうなっているのでしょうか。
国立病院機構の深夜制限勤務は条件があって、配偶者が夜勤をしていたら夜勤免除になります。働きすぎず、働かなさすぎず、ということは大事ですから、その辺をきちんと整備をしないと、不平不満につながります。また、保育所は定員40名ですが、24時間保育や院内病児保育を行っていませんので、そこを拡大していく必要はあると思います。
Q.介護の方はいかがですか。
介護休暇も制度はありますが、最近使った人はいません。
Q.看護部長さんからメッセージをお願いします。
看護部はほとんど女性なので、キャリアアップしながら、子育て中の人にはいずれは自分も、というお互い様の気持ちで、ワークライフバランスを整えていく必要があるのかなと思います。
Q.ちなみに男性看護師、男性師長はいらっしゃいますか。
男性看護師はやはり割合的には少ないですが、昨年4月に男性1名が師長になりました。また、男性の副師長は4名います。
仲地喜美事務部長に、病院のワークライフバランスについて伺いました。
Q.ワークライフバランスについてはどのようにお考えですか。
私としては、先程院長がおっしゃられたことを、事務として円滑に進むように実行していく形になると思います。
Q.病院として取り組んでいることについて、事務部長からもお聞かせください。
国立病院機構で制度を作っていて、病院独自の制度というのがなかなか難しいので、機構の制度を職員の皆さんに理解していただいて、本人に有利になるようなことは活用していただきたいと思っています。
―貴重なお話をありがとうございました。
<副センター長の感想>
今年度の研修医の半数近くが女性ということで、一般的な医学部卒業生の比率から考えると、女性研修医から選ばれている病院といえます。
また今年から江﨑病院長の裁量で、研修医の学会出張費を補助するようになったとのことで、今後も研修医から支持されるのではないでしょうか。
また常勤の女性医師は専門医を持っておられる先生が多く、診療科長も2名おられます。女性医師がキャリアを継続させ、キャリアアップしやすい病院だと感じました。
国立病院機構の整備された制度の中にあり、特に教育・研修に力を注いでおられます。職種も年齢も男女も問わず、すべての職員に働きやすい病院であり続けてほしいです。
院内保育園の様子。
以前は共済組合が運営していたが、現在はピジョン(株)に委託。