平成26年7月1日、県央地区での現状を確認するため、市立大村市民病院の谷岡芳人病院長と、アルバイトや非常勤を経てフルタイム勤務になった柴田由可健康管理センター科長、西邦子副院長兼看護部長、大村重雄事務部長の4名にお伺いしました。
●健康管理センター科長として活躍されている、柴田由可医師インタビュー
●ワークライフバランスの取り組みなどについて、谷岡芳人病院長インタビュー
●看護師の勤務環境などについて、西邦子副院長兼看護部長インタビュー
●人材の現況や勤務環境等について、大村重雄事務部長インタビュー
柔軟な勤務体制で働きやすい病院づくりを目指す市立大村市民病院
病院長をはじめ幹部の方々や女性医師の先生にお集まりいただき、ワークライフバランスへの取り組みや、現状などについてお話を伺いしました。

健康管理センター課長として活躍されている、柴田由可医師にお話を伺いました。

Q.柴田先生は現在、どのような勤務形態で働いていらっしゃいますか。
常勤で健診業務に当たっており、当直はありません。非常勤を1年ほどして、常勤になって約10年になります。もともとは循環器内科が専門で、時間外勤務が非常に多い職場にいました。子どもができて、時間外の対応が難しくなり、健診部門を担当するようになりましたが、家事と両立させるためには、働きやすい環境だと思っています。
Q.大村市民病院に入られるまでに、ブランクはあったのですか。
単発のアルバイトで週に1~2回だけ働いている時期があり、毎日勤務していない期間が3年ほどありました。
Q.循環器内科から健診部門に移られて、現在はどんな心境ですか。
自分がやりたいと目指して進んだ循環器内科でしたので、今は志半ばで折り合いをつけている感じはしています。それでも健診をやるからには、きちんと資格を取得して臨んでいきたいと思っています。現在、人間ドック認定医を取得していますが、数年前に専門医資格も新設されており、今後はそちらの取得も考えています。
Q.ぜひ頑張って、専門医になっていただきたいです。柴田先生は、両立にあたり工夫されていることはありますか。
子どもたちに負担が行かないように、なるべく一緒にいる時間を増やすようにしています。それとやはり、夫の協力でしょうか。最初は私が家事を全部やっていましたが、現在は夫もいろいろしてくれるようになりました。
Q.今後のキャリアプランはどうお考えですか。
人間ドック健診専門医まで取得できればと思っています。マンモグラフィは年間何千件か読影していて、認定医の資格を持っています。子どもが大きくなって、もし条件が合えば、循環器内科への復帰もあるかもしれません。
<病院長>
ご希望があれば、いつでも沿いたいと思います(笑)。
Q.他の女性医師へのメッセージはありますか。
家庭や子どもを持っても、仕事を続けるメリットはあると思います。子どもに、仕事をしている女性の姿を見せるのも、親としての務めではないかと考えています。
子どもは高校生で、将来の進路を考える時期になりました。働いている親の姿を見ているので、「同じような道を目指したい」と話すのを耳にするようになり、嬉しく思っています。
Q.キャリアの継続に悩まれた時期もあったのではと思います。また本格的に仕事をやろうと思ったきっかけは?
じっと家にいるのが性に合わなかったんです(笑)。外の空気を吸っている方がいいのかな…と考えているところに、大村での健診医の募集を知りました。外に出ることで、家の中も落ち着くし、子どもにも落ち着いて接することができるようになりました。
谷岡芳人病院長に、病院としてのワークライフバランスの取り組みなどについて伺いました。

Q.病院全体の女性医師の勤務状況はいかがですか。
7月から常勤で女性医師が入ることになり、常勤の女性医師が4人になります。健診の柴田先生のほか、循環器内科、耳鼻科、放射線科の先生方です。このほか非常勤の女性医師は4人。子育てから復帰した先生も複数います。
今のところ、医師の育児休業取得の実績はありませんが、それぞれの状況に応じて、当直を免除したり軽減したりするなどの対応をしています。フレキシブルな勤務形態が実現できているのは、公設民営(地域医療振興協会が大村市と協定を結び、指定管理方式で運営)ならではの利点だと思っています。
Q.働きやすい環境が整っていますね。職員さんの介護に対するサポートはいかがですか。
介護休業制度がありますが、いきなり取得すると収入が減るので(給料の6割程度)、まずは年休で有給の状態を維持し、足りなくなったら介護休業に移行してもらう―という形にしています。
<看護部長>
看護師で1人、過去に取得したケースがありますね。
Q.病院長から、女性医師の皆さんにメッセージはありますか。
医師不足が大きなテーマになっていますが、私たちも、雇用の自由度を上げて人材確保に努めています。ライフスタイルに合った勤務形態が可能なので、再び医療現場に戻ってきてくれる女性医師がいないか、接触の機会を探っているところです。他の病院でも、勤務条件の合うところを探してアプローチしてもらえれば、大抵の要望には応じてくれるのではないでしょうか。
西邦子副院長兼看護部長に、看護の勤務環境などについてお尋ねしました。

Q.看護部での両立支援の状況はいかがですか。
地域医療振興協会に運営が変わってからは、体制も充実してきました。看護師の離職率も、全国平均より低い水準に改善されています。育児休業の取得もほぼ100%で、仕事も育児も頑張ってくれている職員が多くいます。
平均年齢は約38歳で、育児休業者が常時10人ほどいますが、約1年の休業後は元気に復帰しています。院内保育園の定員は35人で、現在13人のお子さんが通っています。
夜間保育は月1回実施していますが、家族のサポートで夜勤に当たる看護師も多いですね。勤務時間については、お子さんが3歳までは6~7時間勤務に短縮でき、夜勤も免除できる措置があります。
Q.離職率が下がってきた要因は、どんなところにあるのでしょうか。
福利厚生の充実が一番の理由だと感じています。新人看護師に、職場選びの基準を尋ねたところ、「福利厚生がしっかりしていて長く働けるかどうか」という意見でした。
要望に対し柔軟に応じることで、働きやすい環境が整備されていると思います。それに加えて、研修やサポート体制なども充実させています。
Q.看護職のワークライフバランスについてはどうお考えですか。
今は何とか回っていますが、夜勤をする看護師が少ないという問題を抱えています。子どもが6歳になるまでの夜勤免除も、全員が取得しているわけではありません。まだ途上ではありますが、みんなそれぞれに「仕事をやりたい」という気持ちを強く持っているので、要望に応えながら取り組んでいるところです。
Q.看護部長から女性医師の皆さんへメッセージをお願いします。
同じ働く女性として、子育てをしながら勤務する女性医師の先生方を間近に見ていると、「自分たちも頑張ろう」と思いますね。私たちの病院は働きやすい環境が整っています。仕事と生活の両立を目指す先生方と、ぜひ一緒に働きたいと思っています。

大村重雄事務部長に、人材の現状や勤務環境等についてお話を伺いました。

Q.事務のお立場から、医師の人材確保については、どのようにお考えですか。
ここ数年の医師数は、大学医局からの派遣が厳しくなっており、全体として減少傾向にあります。ワークライフバランスを向上し、女性医師にも働きやすい環境を整えて、人材の確保に臨みたいと考えています。
女性医師は、非常勤も合わせると増える傾向にあります。当病院は空港やインターチェンジも近いですし、近い将来新幹線も開通予定で、交通の便が非常に良いところです。医局でも意識し合って協力できる体制が整っていますので、ぜひ多くの先生方に来ていただきたいと思っています。
Q.ちなみに柴田先生は、大村市の住み心地はいかがですか?
<柴田>
地形が平らで住みやすいですね。開放的な感じで落ち着きます。地の利が良くて高速道路や空港もそばにあり、東京でも日帰りが楽です。
<病院長>
転勤族の方も、老後は大村に住むという方が多いそうです。災害が少なく、水も豊富で、評判がいい。県内では唯一、人口が微増している市です。
働きやすい環境づくりに向けた工夫などをお尋ねしました。
Q.当直免除などの措置を講じる際は、どのように調整を進められましたか。
<病院長>
育児中の医師の負担軽減にあたっては、雇用条件で何とかしようと関係部局を説得し、協力してもらいました。話し合いをすれば理解してもらえると思っています。いかに病院に心地よく働いてもらえるか、幹部同士で相談しながらやっています。
Q.地域の開業医の先生方に、協力依頼をするシステムなどはありますか。
<病院長>
大村市には、夜間初期診療センターが開設されています。小児科担当は開業医の先生方、内科担当は長崎医療センターと市民病院の比重を高くしています。勤務医が疲弊しないように支えてくれるシステムが構築できているのは、時代の流れかもしれませんね。
大村市では、初期医療は開業医、二次医療は市民病院、三次医療は医療センターと、役割分担が明確になっています。
Q.医師事務作業補助者(医療クラーク)を採用されてから、変化はありましたか。
<病院長>
これまで30:1の割合でしたが、退職者が出ている関係で、現在は50:1です。
ドクターにとっては、診断書などを書いてもらうなどのサポートが得られ、概ね好評です。
Q.柴田先生の健診部門ではいかがですか。
<柴田>
まだクラークはついていません。
<病院長>
将来的には、入ってもらえると助かりますよね?
<柴田>
そうですね、助かります。健診結果の入力などしてもらえると、だいぶ違うと思います。書類の様式もいろいろなので。
<事務部長>
今後は25:1のレベルまで医療クラークを確保できるよう努力したいと思っています。入職してからのフォローや研修をしっかりして、質の高い業務を提供できるようになれば。
Q.公設民営化してから、組織にどのような変化がありましたか。
<病院長>
現場の意見やアイデアが採用されるようになり、運営もやりやすくなりました。職員数も360人程度でちょうどよく、お互いの顔が見える組織だと思います。


Q.メディカル・ワークライフバランスセンターや行政に対しての要望はありますか。
<病院長>
求職中の女性医師にアプローチする手段を持っていないので、人材確保に苦慮しています。個人情報などクリアすべき課題はあるかもしれませんが、県やセンターのような公的な機関が、潜在医師と病院をつなぐ橋渡し役を担ってほしい。登録している名簿の中で、働く意思がある人、ない人を層別に分けてもらい、条件が合う人にアプローチできる仕組みがあると助かります。
―貴重なご意見をありがとうございました。
<副センター長の感想>
病院長の谷岡先生から、「フレキシブルな勤務形態」という言葉が、開口一番飛び出してきたことに感激しました。卒後臨床研修制度の義務化や医師の偏在という状況の中にありながら、大村市での医師の確保に努力された結果だと思います。「
組織はボス次第」ということがよく言われますが、こちらも病院長はじめ立派なボスの努力や人柄のおかげで、働きやすい職場が保たれていると感じました。
今後、センターの活動の中で潜在医師のネットワーク体制を充実させて、地域医療の人材活性化につなげていければと思います。