新着情報・コラム

  • 病院インタビュー

対馬いづはら病院

2013.08.07

平成25年8月7日、離島での現状を確認するため、対馬いづはら病院の川上眞寿弘院長、山田久美子看護部長、子育て医師夫婦の産婦人科の山口純子先生、麻酔科の山口卓哉先生、伊原徹事務長の5名にお伺いしました。

●川上眞寿弘院長、山田久美子看護部長インタビュー

●産婦人科の山口純子先生インタビュー

●伊原徹事務長インタビュー

●麻酔科の山口卓哉先生インタビュー

  

  

川上眞寿弘院長、山田久美子看護部長にお話を伺いました。

  

ドクター25人はすべて常勤で、うち19人(義務終了後の5名も含む)が長崎県の養成医(注1)です。大学医局から派遣していただいている医師はいません。
残り6人は個人契約のいわゆるプロパー医師で、使命感や自発性、やる気のある先生が多いですね。離島でも、内容が充実し働きやすい職場であれば、やりがいを感じて働いてもらえると思っています。

※注1:長崎県の養成医:長崎県医学修学資金貸与制度や自治医科大派遣制度により養成された医師。一定期間、離島の医療機関に勤務するなどの義務がある。

地域が隔絶されているからこそ、そこに魅力を感じてやってくる医師や看護師は多いかもしれません。地域医療に従事したい人にとっては、特に魅力のある場に映るようです。当院としては、本土並みの高度専門医療を目指しつつ、地域に根差した健診や予防活動、在宅医療も充実させ、地元に溶け込んだ医療機関を目指していきたいと思っています。

介護保険制度が始まる数年前、北欧を視察し、現地の医療・介護制度を知ったことが、私の考え方の原点となっています。北欧は、税率が高いものの素晴らしい福祉制度で、所得の再分配が行われていました。医師でさえ夏休みは1カ月もあります。

そのころ私自身は休みをまともに取ったことがない状況で、豊かさとはなんだろうと考えさせられました。戻ってからは、医者も交代で1週間ずつ夏休みを取るようにしました。日本も北欧の方向に行くべきではないかと思っています。

現在は保育室など、サポート体制が充実してきています。看護師を中心に女性職員が多く、当院にて夫婦共働きの職員も多くいます。
対馬いづはら病院と上五島病院では、24時間保育と病児・病後児保育(院内保育室に預けている人を対象)を設けており、働きやすい職場づくりが進んでいます。長崎県病院企業団本部としては、この支援体制を生かして、都会のシングルマザーにも来てもらうようアピールしています。

当事者同士が、互いにwin-winの関係になるために対話を重ねています。預ける側だけの充実ではなく、預かる側の負担にも考慮が必要です。「保育室運営委員会」をつくり、預ける側の代表、小児科医、保育士、事務担当者が毎月集まっています。単にシステムありきでなく、当事者が顔を合わせて気持ちを出し合い、負担なく良い方向に持っていくことが、継続性を維持するためにも必要なことだと考えています。

保育料を下げようということで、月額基本料を撤廃し、1日当たりの利用料を500円に設定しました。そうした経済支援によって、スタッフの充実につながれば、そちらの方が助かります。逆に辞められると困りますからね。

病児保育は、院内のプレイルームを使用するので、医師と看護師が常時近くにいます。重症の時などは入院扱いにし、保育士に一緒に付き添ってもらうことにしています。医療スタッフの目が届くようにという配慮から、病院の中に設置しています。病児は小児科外来で診察を受け、病棟にあるプレイルームに来てもらうという流れにすれば、対応する医師・看護師が動きやすくなります。

対馬いづはら病院は、平成26年度末までに中対馬病院と合併し、新病院になります。現行の制度も、今後どのようになるのか未確定ですが、保育室は、継続拡大する方向で進めていかなければと思っています。
保育士の安定供給のため、アウトソーシングするのも一つの手だと思っています。職員優先を原則としつつ、一時保育も利用できるような保育室にできればとも考えています。

これまでは人員不足で長期研修に出せない状況が続いていましたが、看護師の派遣受け入れで人員の余裕が少し出てきたので、積極的に働きかけをしているところです。バックアップ体制が整ってきて、キャリア向上に取り組める雰囲気になってきています。

現在、看護師の平均年齢は42~43歳で、子どもがいる人が半数以上。以前、奨学金制度が途切れていたこともあり、新卒で入る若い人が少なくなっています。
制度が復活したので、奨学生が帰って就職してくれれば、また増加に転じると見込んでいます。奨学金の勤務年限を終えて、長崎医療センターで半年間研修に行っている看護師もいます。また、認定看護師を希望する人や、准看護師で看護師免許取得を目指す人も出ています。

女性医師だからというのではなく、夫婦で働く職員にとっては、男性側も大変だと思っています。時間外の負担を、男女関わらず減らすことが大事であり、そのためにはまず職員数を確保することだと考えています。男女関わらず仕事に余裕を持ち、急に1人欠けたとしても日常業務が回る体制を保つことが大事だと思っています。

  

ご夫婦で医師として対馬に赴任し、育児をしながら活躍する、産婦人科の山口純子先生にお話を伺いました。

  

この4月の県病院企業団の人事で、上五島病院から夫婦一緒に異動してきました。私は企業団から奨学金を6年もらっているので、12年の在職義務があります。私には義務がありますが、麻酔科医の夫はフリーなので、上五島や対馬での勤務には、一緒についてきてもらっています。

最初上五島病院では外科医として働いていましたが、その後産婦人科医を目指して関東で再研修を受けました。夫も一緒に行って麻酔科の研修をしました。

だいぶ落ち着いてきました。子どもは保育室に預けていますが、やっと慣れて楽しそうにしています。時間外も対応していただいて助かっています。両親の助けも借りながら、何とかやっています。対馬も上五島も働きやすい環境で、行く先々気に入っています。

ゆくゆくは、出身である壱岐に戻って働きたいと思っています。今は離島でいろんなところをサポートできたら。もともと外科にいたのも、緊急事態など、さまざまな人を診られる総合医のようになりたかったからです。産婦人科だけだと、対象となる患者さんが偏ってしまいますので。

女性はまだ少ないですね。私の時は、養成医は4人中3人が女性でしたが、途中で2人の女性がリタイアしました。結婚で赴任できないなどの理由からでした。自分の代は、女性は私1人だけです。

結婚してから、離島に来るかどうかは悩みどころだと思います。男性の先生にも、ご自身のキャリアがありますから。ドクター同士の夫婦だと、なかなか難しい面はあると思います。

やはり専門医を取りたいとか、もっと他で経験を積んだり、リサーチもやりたいなどの理由で、そのまま残る先生が少ないのが現状。研修などで柔軟に行き来できるシステムが整えばよいのですが。逆に、離島に魅力を感じずに離れるというケースは少ないと思います。

毎日、その日暮らしという感じですが、夫も家事全般一緒にしてくれているので大変助かっています。食事はほとんど夫が担当。毎日、子どものお弁当がいるのですが、ほとんど夫が作ってくれています。ベビーシッターやハウスキーパーの存在がもっと一般化したらいいのに…と思ったりもします。

関東の2つの医療機関で研修しましたが、都市部の医師の多さをあらためて感じました。健診だけとか、当直免除の女性医師も多かったです。人がたくさんいると、そういう柔軟な体制が組める。離島ではそれがなかなか難しいのが現状です。産婦人科志望の若い医師がもっと増えたらと願っていて、こちらから探しに行こうかと思ったほどです。

長崎大学にも行って、地域枠の女医さんと話してきましたが、やはり夫が一緒についてきたことが注目されました。やはり結婚してからのことが不安になりますよね。子どもを産んでからも働けるんだということを、見せてあげなければと思っています。

  

伊原徹事務長に、保育施設の現状をお伺いしました。

  

今年5月から、1日あたり500円に保育料を値下げしました(それまでは1,000円)。現在は15人のお子さんの登録があります。夜間保育や病児・病後児保育も、今年4月から再開しています。現在は弁当持参としていますが、給食実施も検討しているところです。

また、新病院の建設地に、保育室を併設した職員宿舎建設を計画しています。新しい保育室では、一般でも待機児童が多いようなので受け皿を広げたり、親御さんの受診中にお子さんを一時的に預かったりするなど、可能性を模索していきたいと思っています。

もともとは30年近く前、当院にご夫妻で赴任なされた先生の発案で始まりました。仕事をするにあたって、家庭や子育ての面がしっかりしていないと、女性が働く環境づくりはありえないという考えからでした。

地元出身の職員は、何かあっても家族で対応していたので、はじめは状況を理解しにくかったと思います。こうした取り組みを通じ、島外から来た共働きの先生方の懸念をあらためて理解できたのではないでしょうか。

  

山口純子先生の夫で、麻酔科の山口卓哉先生にもお話を伺うことができました。

  

現在は、手術室での麻酔科医としての仕事のみに専念しています。麻酔科には他にさまざまな領域がありますし、離島の医療機関にいますので、本来なら救急や慢性疼痛の管理も含めて、万遍なくできるようになりたいという思いはあります。

以前は妻ともども、何でもやっていた時期がありました。当時は二人とも当直や呼び出しがあったりして、生活との両立が非常に大変だったという反省もあり、妻の仕事とのバランスを考えて、今の状況に至っています。

今後、子どもが大きくなって落ち着けば、また手を広げていくつもりです。子どもはまだ2歳で、手がかかる時期。母親にはかなわない、ということはどうしてもあるので、妻が負担なく働き、家でもゆっくり休み、子どもとの時間を大切にしてもらえるように、ということを意識しながら働かせてもらっています。

子どもを持ちフルタイムで働く女性の夫としては、すごく良い環境で働かせてもらっています。最近は、自分たちと同じような夫婦が増えてきていると思うので、こんな働き方もあるということを知ってもらえれば嬉しいです。

ただ、夫婦で常々話していることですが、こうした環境を準備してもらえることが当たり前だと思ったり、甘えたりしてはいけないなとも思っています。近い将来、それが本当に当たり前になる時代が来れば…と願っていますが。

取り組みたいことはいろいろありますが、どこにいてもできるし、子どもが落ち着いてから、やれる時に挑戦すればいいと考えています。キャリアは、資格など見た目のキャリアと、腕や経験といった、表に見えないキャリアと両方あると思うんです。

今は腕の方を磨きたい。また時期が来たら、見た目のキャリアも身につけて、妻の故郷である壱岐で仕事したいと思っています。個人的には、フルタイムで働く妻を持つ人と話してみたいです。同じような立場で、思いを共有できる人がいると心強いですね。

長崎県対馬病院(平成27年5月17日に長崎県対馬いづはら病院と、長崎県中対馬病院は再編統合)

域就労支援病院

対馬いづはら病院の皆様、快く取材に応じてくださり、本当にありがとうございました。先輩方が働きやすい職場環境の礎を作り、その意志を受け継ぐ人たちが増えることで、更なる環境の変化につながっていくのだと思います。そうした開拓の過程を、今回垣間見ることができました。

(メディカル・ワークライフバランスセンター)