平成25年5月21日、県北地区での現状を確認するため、佐世保中央病院の植木幸孝院長、パート勤務から復職した腎臓内科の林和歌先生、横山藤美看護部長、藤田武徳事務部長の4名にお伺いしました。
医師不足のチームワーク、お互い様の気持ちで支え合う佐世保中央病院
育児と仕事を両立しながら活躍する女性医師、林和歌先生(腎臓内科)にお話を聞きました。

Q.これまでの経歴や、病院での近況を教えてください。
大学を卒業後、研修期間が済んで5年目に結婚、出産しました。子どもが1歳の時に復帰し、社会人大学院生として週2回パートの仕事をしながら研究(実験)をやらせてもらっていました。
研究にもめどがつき、佐世保中央病院で勤務を始めたのは2004年です。当初は常勤で、急患当番や当直もあったため、起きている子どもにもなかなか会えませんでした。
主人の両親が転居で子どもの面倒を見てもらえなくなったこともあり、2005年から午後5時までのパート勤務に変更させてもらいました。ドクターの負担を減らそうという植木院長の方針で、周りのスタッフも協力してくれました。
また、医療秘書のサポートにも大変助けられています。透析は書類が多いのですが、秘書が書類やカルテを下書きしてくれていて、業務量が大幅に短縮できました。また、2010年からは診療部長の浪江先生が当院へ就勤され、浪江先生には相談に乗っていただいたり、負担にならないよう配慮していただいたりして、大変助かっています。
Q.佐世保中央病院は、お互いに協力的な体質があるようですね。
医局間の垣根が低いですね。腎臓内科が非常勤医師2名のみの体制になったとき、お盆や正月の休みが取れないのでは…と悩んでいたところ、泌尿器科の先生が交代で入って血液透析に協力してくださいました。
午後5時までの勤務の時は、なかなか時間通りに帰れなかったのですが、院長が「思い切って午後3時までの勤務にしたら」と提案してくださいました。今は上司のサポートもいただき、時間通りに帰っています。
現在は時給制で、忙しい時はその分報酬が出ます。今は子どもが大きくなってきたので、これまでよりもう少し働きたいと思っています。現在はパート勤務ですが、常勤と同じような待遇で出張費も出してもらえるので、専門医の維持にも大変助かっています。
Q.キャリアを継続するために、子育てが大変な時はサポートしてもらい、子どもさんが大きくなったら「もっと働こう」という意識にシフトしているのは理想的ですね。
この病院は本当に働きやすいと思います。医局が同じ科だけで固まっておらず、他の科の様子がわかるし、大変な時はサポートしてくださいます。院長はじめ職場の方々の雰囲気が「もっと働けば…」というのではなく、「頑張って来てくれてありがとう」という温かい気遣いを感じます。
Q.両立に当たって工夫していることはありますか
嫌いな家事があったのですが、思い切ってそれを主人に頼んでみたら、意外と苦にせずやってくれた…ということがありました。自分にとっては大変なことでも、相手にとっては苦にならないことってありますよね。我慢せずに言ってみることは大事だと思います。
Q.若い先生方へのメッセージをお願いします。
皆さんそれぞれに状況は違うと思います。他人の言うことは参考にはなりますが、答えにはなりません。キャリアや子育てのプランなど、それぞれに条件は違ってくると思うので、自分に一番合うことを選択していってほしいです。
自分一人で決めず、自分に近い人たちに相談しながら決断してください。私は上司や院長やスタッフに恵まれました。職場の支えはとても大事です。自分自身も、周りの人の役に立ちたいと思うことが大切だと思います。
病院としての両立支援の考え方について、植木幸孝院長にお話を聞きました。


Q.医師として就労する中で、育児や介護などで時間制約が生じた場合の対応については、どのようにお考えですか
地方病院では、急性期の医師の人材確保が非常に厳しくなっています。特に女性医師は、短時間しか働けない状況になったとき、せっかくの有能な人材なのに、職場として受け皿を持たないのは問題です。非常勤でありながら常勤と同じような待遇ができないか工夫しました。常勤医師50人中、多い時で10人の女性医師が在籍したこともありました。いつでも女性医師が活躍できる用意はあると思っています。
Q.両立支援のために、どのような体制づくりをなさっていますか。
常勤でもベッドフリー(入院患者の主治医としての業務がない)にするなどの対応をしています。医療機関は特に女性職員が多く、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)という考え方が、今からの組織には重要だと思っています。
雇用の確保と同時に、生活ができるだけの収入も確保できないといけない。ドクターといえども非常勤になって収入が半減したということがないように、仕組みを作ることが必要です。また学会の出席も認めるなど、モチベーションを維持する工夫をしています。
病院側もサポートすることで、ドクターとしてのスキルを維持してもらうことが大事。ただ時間内に仕事をしてもらうだけでは、モチベーションが下がってしまいます。
Q.非常勤の職員さんでも、モチベーションを維持して継続的に働いてもらうことが、長い目で見れば病院にとってもプラスに作用しますね。
医師不足が深刻な中、非常勤でも条件をしっかり満足してもらえる仕事の在り方について考えました。日勤帯で常勤にしっかり引き継げるよう、申し送りする時間を設けたりして、互いにwin-winになるように確認し合っています。
職員同士で「ナイスです!CARD」という名刺サイズのカードをやり取りして、互いに褒め合う活動をしています。何か手伝ってもらって助かった時など、カードに感謝のメッセージを書いて相手に渡すのです。医療の現場では、誰もがリスペクトとプライドを持って仕事をできる風土づくりが大事だと思っています。
Q.医療秘書採用の効果はいかがですか
紹介状の返事や電子カルテの入力などを秘書に代行してもらうことで、ドクターは最終的な認証作業だけで済むようになり、非常に楽になりました。早い対応が可能になり、書類もたまらなくなりました。医師と患者さんの情報交換の橋渡し役として活躍してもらっています。
Q.さまざまな工夫をされていますね。
医師が疲弊しないように、いろいろ取り組みをしています。医師に受診する前の「看護外来」を設け、看護師が患者さんの精神的なバックアップをするとともに、必要な医療情報を提供することで、切れ間のない医療サービスが受けられるよう介入しています。予防医学の観点からも重要だと思っています。
Q.院長から皆さんにお伝えしたいことはありますか。
医師は男性でないといけないということは絶対にありません。女性医師が活躍する診療科もたくさんあります。仮に休む時期はあったとしても、医師としてプライドを持って果たすべき役割があると思います。医師が生涯にわたって継続的に仕事ができるよう、医療機関が連携して受け皿を提供することは重要です。
そこにうまくはまっていけば、現場はどれだけ助かるか。少子高齢化の中、女性医師の就労対策を整えなければ、医師不足の問題は尽きないと思っています。
看護師の働き方や職場環境の整備などについて、横山藤美看護部長、藤田武徳事務長にお話を聞きました。

Q.育児との両立支援で、どんなことに取り組んでおられますか。
法人としては、佐世保市内に2カ所、福岡市内に1カ所託児施設を設けており、働くお母さんたちの助けになっているようです。法人職員であれば誰でも利用することができ、医師のご夫婦で子どもさんを預けていた例もありました。24時間託児可能で夜勤もできます。
Q.託児所ができて、スタッフの皆さんの様子は変わりましたか
変わったと思います。職場の環境が整って、辞める人が減りましたし、働きやすくなったという声も聞いています。
Q.看護師の人員はいかがですか
人員にある程度ゆとりを持たせてきちんと育成し、質のいい看護を目指す方針なので、定員ぎりぎりという状況はありません。その分、一般的な看護師の業務に加え、診療部門の補助的部分も担っており、医師が通常説明する領域も看護師がサポートしています。
認定看護師や学会認定看護師も多く在籍しています。認定取得を目指してこちらに入職した看護師もいて、取得後も引き続き活躍してもらっています。必要な人員を確保することで、有能な人材を逃がさないように配慮しています。
Q.働きやすい環境整備のために、さまざまなサポートをされているようですね。
医師事務補助作業については、診療報酬制度が始まる4年ほど前から導入に踏み切りました。負担を軽減し、働きやすい環境づくりをサポートするのが我々のスタンスです。
診療アシスタントのほか、外来クラークといった窓口機能を作り、無資格者でも行える業務を設けています。業務分担をすることで、看護師が関わる事務作業など、本来業務以外の時間外労働は、確実に減っています。
なにより、患者への説明・指導・ケアの時間が確保できたと実感しています。外来でも病棟でも、機能が充実するなどの効果が出てきています。
Q.皆さんのお話から、柔軟な対応で非常に働きやすく、豊かな病院だという印象を受けました。
資格支援制度やキャリアアップのための教育体制が充実していて、頑張りたい看護師にとってはやりがいのある環境だと思います。人を育てること、働きやすい環境を作るということは、これまでもすごく言われてきたことです。もちろん育児や介護で一時的にペースダウンしたいときは、キャリアアップを一時期お休みするなど、両立しやすい環境を整えることも可能です。
Q.休職中の職員に対する働きかけなどはされていますか。
配偶者の急な転勤など、やむを得ないケースを除いては、ほとんどの人が復職してくれています。託児所の設置や、みんなの声かけの効果もあるようです。
他の施設に転職して、またうちに戻ってくるスタッフも、職種に関わらず多いです。育児しながらの夜勤も、家族の協力が大きい部分もありますが、近くに頼れる親類や預け先がなく困っている人にとっては、託児所の存在が非常に役立っているようです。
また、状況に応じて、常勤とパートといった勤務形態の変更も、申し出に応じて可能な場合があります。働きやすい環境を状況に応じて整えやすいのも、民間病院ならではの柔軟さが生かせているからかもしれません。
インタビューにご協力いただいた皆様、お忙しい中、大変ありがとうございました。
(メディカル・ワークライフバランスセンター)