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とびだせ!ジャパン編-(4)『Flexible Working request(柔軟な働き方の申請)ができます』森下 真理子 先生

2026.05.22

私たちのワークライフバランス実践術 No.34
とびだせ!ジャパン編(4)
勤務医 森下 真理子 先生(50代)

〈イギリス人のパートナーと中学生の子ども〉
『Flexible Working request(柔軟な働き方の申請)ができます』
2026年5月12日インタビュー

<略歴>
●長崎大学医学部卒業後、一般外科へ入局
●大学病院、福岡、五島、佐世保の病院勤務の後、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科(長崎大学原爆後障害医療研究所基礎教室)に入学研究の後、東京大学医科学研究所で臨床治験に関わる
●長崎大学国際ヒバクシャ医療センター勤務、原爆後障害医療研究施設助手
●卒後11年目渡英して英国スウォンジー(ウェールズ州)医科大学研究員
●渡英1年半目、英国医師免許とMRCP [Membership of the Royal Colleges of Physicians]を取得し、現在までロンドン市内のがん専門病院に勤務中

Q1. 普段の生活、1日のスケジュールはどのようにお過ごしですか?

A1.仕事は、週3日(水・木・金曜日)7時半~17時半の約10時間勤務、外来化学療法部門で仕事をしています。朝5時前に起きて5分間坐禅。簡単な朝食を食べて、余裕があれば自分の昼食の弁当を準備し6時に家を出ます(家族はまだ寝ています)。

通勤手段は、バス+地下鉄で1時間強かけてロンドンのゾーン1と呼ばれる中心部の病院まで出勤します。バスや地下鉄は、頻繁にストライキがあるので、3パターンの出勤ルートを確保しています。帰宅には2時間かかることもあり、19時半~20時になります。私が休日に作り置きしたおかずで家族は先に夕食を済ませているので、私は1人で夕食を食べて、21時半には寝てしまいます。

以前は、週5日×8時間勤務でしたが、残業になったり、とにかく通勤に時間がかかるので、産休後から週3日勤務を選択しました。子どもは中学生になり手は掛からなくなりましたが、「家族一緒にご飯を食べること」「自分1人の時間を持つこと」を最重要事項とし、現在もこの勤務形態を続けています。夫はコロナ渦以降、ほぼ在宅勤務なので、月・火曜の昼食は2人で、夕食は3人揃って食べます。

休みは、週4日(月・火・土・日曜日)で、家事や庭仕事、読書、趣味の手芸、友人に会うなどして過ごします。週末は家族それぞれ好きなことをして、夫はサイクリング、息子は習い事のクライミングに出かけたりします。

Q2. 日本の医師・医療体制との相違点を感じますか?

A2.勤務形態の多様性はかなり違うように思います。日本の病院に勤務していた頃は若手だったので、朝早くから術後までや当直などで長時間病院にいましたが、今は外来だけの業務で当直はありません。患者さんが入院になれば、別の病棟チームが診るので引継ぎをします。

同じ部署の同僚医師8人位は、週5日×8時間フルタイムで働く人もいれば、週4日×7時間、週3日×8時間など、それぞれ自分の体力と生活スタイル、経済状況、将来展望に合わせた勤務日数と時間を決めています。イギリスでは従業員が「Flexible Working request(柔軟な働き方の申請)」を提出したら、雇用主は従業員の働き方とサービス維持の両立が可能か検討する義務があります(申請がすべて認められるわけではありません)。

日本では、ほとんどの人が周囲と同調して提示された労働条件での働き方をしていると思いますが、イギリスでは、個人主義、かつ多人種多文化な人たちが、それぞれ様々な価値観で働くので、細かいポリシー(ルール事項)がたくさんあります。年休計算方式や、学習休暇、病欠、緊急時、介護、忌引、産休、父親育児休暇などの規定が全て文書化され、病院のウェブサイト上でいつでも誰でもアクセスして確認できます。これがないと大変なことになると思います(笑)。

年次有給休暇日数は職種や勤務年数で変わります。私の場合、フルタイム勤務なら33日ですが、週3日勤務なので年休計算方式でいくと23日位でしょうか。日本へ年2~3回1~2週間程、高齢の母がいることもあり帰国する際に使います。私が知る限り、年休は皆さんほぼ使い切ります。

イギリスの医学部出身の医師の多くは、卒業後、2年間のローテート研修後に専門科を決め、専門医養成プログラム(以下プログラムと表記。科によって終了まで6~8年)に入りますが、専門医の数が国家レベルで決められています。イギリスの病院のほとんどは公立病院で、そこで専門医として働くには、地区毎、診療科毎に、人数が決まっているため、希望のプログラムに入れるわけではありません。特にロンドン地区は狭き門です。日本のように、希望の診療科で専門医を目指すことはできません。

現在働いている部署は、NHS(公立病院)の中にありますが、プライベート患者(医療保険を持つ方、中東など海外政府の援助で来ている方、全額自費の方など)専用の部署です。私はイギリスのプログラムには入らず、自分で医師募集広告の中から、現在勤務する病院のNHS部門に終身雇用のポストを見つけて、これまでの経歴から就職し、現在に至ります。

同じ部署の同僚は、私と同様にプログラムに入らないことを決めた医師、あるいは自国で既に専門医資格取得後にイギリスで働くための足掛かりとしている医師など、ほぼ外国籍の出身です。これまでの同僚は、チェコ、セルビア、ポーランド、リビア、インド、ケニア、ハンガリー、リトアニア、エジプト、イスラエルとか…イギリス人も1人はいましたね(笑)。

以前の職場は、公的医療保険担当部署(NHS)で、給与などの条件は変わりませんが、予算に限りがありスタッフが少なく、勤務形態の変更を認めてもらう事は難しかったです(年休が消化できないことは無い)。その点では、病院予算が多い現在の部署では、自由度が広がり、感謝しています。

勤務している病院The Royal Marsdenは今年175周年

Q3. 滞在国で良かったことは、どんな所ですか?

A3. 家族に出会えたこと、それに尽きます。原研細胞 山下俊一先生のご縁の仕事で半年間スウォンジー(ウェールズ州)医科大学に滞在した際、上司のそれまた上司だった現地の腫瘍科教授から「将来イギリスで臨床したいなら力になるよ」とありがたい声をかけてもらいました。

その時は、自分には到底無理だと思い日本に帰国しました。30代半ばになり「朝から晩まで働いて、夜は1人でコンビニ弁当を食べる生活。病気になっても誰か責任を取ってくれる訳では無いし。自分を幸せにするのは、自分自身の責任だ。死ぬ時に後悔しない挑戦をしよう!」などと自問自答し、イギリスへ行くことを決めました。

スウォンジーで研究員をしながら、イギリスの医師免許取得の準備と複数の試験を受けた頃、当時声をかけてくださった教授がロンドンに異動したので、私もロンドンで初めての病院勤務を始めることができました。私生活は紆余曲折ありましたが、夫と知り合うことができ、かなり遅めではありましたがひとり息子にも恵まれました。

2025年夏に家族と訪れたウェールズ南西部の海岸

Q4. これまで一番悩んだ時期は?

A4. やはり、日本を出る時ですね。イギリスで挑戦しようと思っても、何の保障も無いし、家庭を持てるかもわからないし…。「向こうでだめだったら、骨は拾ってやる」と山下俊一先生が後押ししてくれたこともあり、思い切って飛び込みました。
両親には寂しい思いをさせましたが、可愛い孫の顔を見せられて良かったです。

Q5. ストレス解消法を教えてください。

A5. 最近は、仏教の勉強をすることです。『大愚和尚※の一問一答』というYouTubeチャンネルを10年近く視聴しています。職場での人間関係(価値観の違い)によるストレスで爆発しそうになり、一時帰国を利用して愛知県にある福厳寺で約1週間のテンプルステイに参加しました。

禅寺での細かい食事作法、掃除、薪割り、草抜きなどの作務、朝夕の読経、坐禅など、若いお弟子さんたちから教えを受けながら生活をします。禅寺での細かい規則に無理やり自分を合わせることが、これまで知らないうちに自分が作り上げた自分の型(癖・思い込み)に気づく練習と知り、本当に目から鱗が落ちる思いでした。

目、耳、口からの刺激を極力遮断するお寺での生活も、「頭で考えるのではなく、身体から自分というものに気づいていく練習なんだなぁ」と納得しました。

※大愚和尚:日本の禅僧。佛心宗大叢山福厳寺第31代住職

Q6. 日本のもので、恋しいものといえば、なんですか?

A6.日本語が飛び交う環境ですね。イギリスに20年いて、家庭でも職場でも英語は使ってはいますが、native levelには程遠いです(笑)。いつもどこか緊張しています。日本にいると、ぼーっとしていても耳に入ってくる言葉を完璧に理解できるので、楽だと感じます。

Q7. 今後の人生設計について、どのようにお考えですか?

A7. 仕事は現在の部署に定年(自分で決められます)までいると思います。もしも夫が先にいなくなる状況になるとか、母の介護事情によっては、将来日本に帰る可能性も考えたりはしますが、未定です。息子はいずれ巣立ちますし、自分の行く末は、自分で考えないといけないですね。

Q8. これから海外において、仕事とライフイベントを両立する皆さんへ、応援のメッセージをお願いします。

A8. 海外に出ると、日本人のきちんとした真面目な働き方は、それだけで貴重なものだと思います。自信を持って挑戦してください。

<センターより>
パートナーを見つけよう!家族を作ろう!という目的で、渡英した森下真理子先生。

森下真理子先生の背中を押して、海外に飛び立たせたのが、実は当センターでこれまで紹介した荒木貴子先生鈴木眞理先生ログノビッチ タチアナ先生にも関わっておられる山下俊一先生であることに驚きました。

日本の専門医制度にもシーリングが始まっていますが、地域毎の人数の偏り、診療科毎の人数の偏りは依然として存在しています。長崎県の○○科の専攻医が今年はゼロ、という事態がなくなるような制度の見直しが必要なのかもしれません。

また、日本の有給消化最低5日間については「何で有給取らないのですか!?労働基準法的に問題ないのですか!?」と驚かれました。日本の医師の人数の配置、働き方・休み方など、まだまだ意識も制度も考え直す必要を感じました。